バーチャルリアリティ(VR)は、没入感やインタラクティブな体験ができる新技術です。その用途はエンターテイメントの領域を超えており、ECサイトでもVR技術を活用する機会が増えてきています。
この記事では、徐々に広まりつつあるVRの現状、ECサイトでの活用例、VRをECで活用するメリット、VRの可能性を紹介します。
VRとは?
VR(バーチャルリアリティ)とは、ユーザーが専用ヘッドセット・外部センサー・コントローラーなどを使用して仮想空間に入り込み、あたかもその場にいるかのように周囲を見回したり移動したりといった体験ができる、3D環境を生成する技術です。
VR技術はゲームだけでなく、マーケティング、リモート作業、トレーニング、教育、ネットショッピングなど、さまざまな分野での応用が期待されています。
VRの種類

VRには、座ったままスマートフォンで体験できるものもあれば、特別なセットアップや専用空間が必要なものなどさまざまな種類がありますが、大きく以下の4つのカテゴリーに分類できます。
1. 非没入型VR
非没入型VRでは、現実空間にいる認識のままバーチャル環境が体験できます。仮想空間内でキャラクターを操作するゲームは、非没入型VRの一例です。
一見するとVRのようには思えませんが、非没入型VRはVRのあるべき姿を理解するための重要な基盤です。
非没入型VRの例:
- ファイナルファンタジーのような、仮想キャラクターと一緒に仮想世界を探索する、大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム
- シムシティのような、実際の街づくり体験を模倣するシミュレーター
- バーチャルオフィスSococoのような、ブラウザ内の仮想オフィスを従業員やイベント参加者が移動してインタラクションできる、ゲームをヒントにしたリモート共同作業ツール
2. 半没入型VR
半没入型VRは、非没入型VRと完全没入型VRが融合したタイプで、仮想空間を体験しながらも、現実の空間の一部を認識できるのが特徴です。
Google CardboardのようにスマートフォンがVR対応アプリのディスプレイ兼プロセッサとして機能するものもあります。半没入型VRは完全没入型VRよりもよりコンテンツ制作のハードルと消費者間に立ちはだかる壁が低く、Eコマースビジネスでも活用しやすいVRのひとつです。
半没入型VRの例:
- 旅行、不動産物件、博物館などのバーチャルツアー
- 座ったままさまざまなリハビリができるVR訓練装置
- 穏やかなビジュアルと音声を使ったVR瞑想アプリ
- ECサイトでの商品体験・実演
3. 完全没入型VR
完全没入型VRでは、ユーザーはヘッドセットを装着し、内蔵センサーや外部センサーで動きが追跡されて仮想空間内に反映されます。そのため、完全に仮想空間内にいるようなリアルな3D体験ができるのが特徴です。
2020年にMeta Quest(旧Oculus)が発売されてからは、価格がスマートフォンやタブレットと同水準まで下がり、接続ケーブルや専用スペースが不要になるなど、完全没入型VRがより手に入れやすくなりました。
さらに、手の動きを追跡する機能や、ヘッドセットやコントローラーの振動から触覚的体験を模倣するハプティックフィードバックなど、さらなる没入感を高める新機能が開発され、VRの可能性を広げています。
完全没入型VRの例:
- シューティングゲームのバイオハザードのようなVRゲーム
- 他のユーザーと一緒に展示会鑑賞、地方都市の散策などができ、ユーザー生成による無限の仮想世界を体験できるRoomiq(ルーミック)のようなVRソーシャルネットワーク
- Meta Horizon Workroomsのような、対面でのオフィス内のやり取りを再現するリモートワーク体験

Meta Horizon Workroomsでは、現実空間のように会議や交流ができるだけでなく、仮想ホワイトボードでブレインストーミングを行ったり、現実のデスクやキーボードを仮想オフィスに持ち込んだりできます。
4. 複合現実型VR
複合現実(MR)は、VRの仮想世界とユーザーの周囲の環境を複合することで、拡張現実(AR)を追加する技術です。
複合現実はスマートフォンのブラウザとカメラだけで実現できるものもあれば、ヘッドセットやVRメガネを利用してユーザー環境と融合させたり、仮想空間でユーザーに体験してもらいたい環境を再現したりするものもあります。
特に商業分野においてさまざまな利用方法が考えられます。服や化粧品の試着、家具やインテリアの試し置きなど、すでに拡張現実の導入例がある業界も多数あります。
複合現実の例:
- 現実の世界に仮想空間を投影し、水中ツアーを楽しめるMR技術
- 家具の高精度な3Dモデルをスマートフォンのカメラを使用して自宅に投影できるようにし、大きさやコーディネートを確認できるようにするアプリ
VRをEC事業で活用するメリット

顧客が試してから購入しやすくなる
VRは、現実の製品とほとんど区別がつかないような高精度のモデルを作成できます。
家具や家電など比較的大きなサイズの商品を扱うECサイトでは、VRを使用することで顧客が自宅でサイズや動線などをシミュレーションできれば、顧客体験が高まって購買にもつながりやすくなるだけでなく、置いたときのイメージ違いによる返品なども減らすことができます。

ユーザー行動データを収集できる
VRを活用したECサイトでは、目の動きから仮想オブジェクトへの反応や行動まで、商品やサイトの改善、マーケティング戦略の意思決定につながる情報を収集できます。
たとえば、以下の画像のように、消費者がどこを見ているか、何に興味を持っているか、何を購入しているかを目の動きに基づいてヒートマップにすることもできます。
顧客満足度を高められる
VRをECサイトに導入することで、顧客にこれまでにない体験を提供したりブランドへの理解を深めたりでき、顧客満足度を高められます。
たとえば、ブランドストーリーを伝える物語性やゲーム性を加えた仮想空間を用意したり、現実世界で実施するイベントをバーチャルでも開催したりすることで、遠方で参加が難しい顧客などにもブランドの世界観を体験してもらえ、ロイヤルティを高めることができます。
VRをECサイトに導入する際の注意点

VR専用機器を必須にしない
VRは広がりつつあるものの、まだ世間一般に浸透しているとは言えない状況のため、VR専用ゴーグルや機器を所持している人も限られます。そのため、VR機器を必須としたバーチャル空間を構築してしまうと、多くの人に体験してもらうことができず、VR導入のメリットが得られにくくなってしまいます。
VRをECに導入する際は、機器やアプリなどがなくても、ウェブブラウザで非没入型VRとして体験できるような環境を構築するようにしましょう。
購入やサイト遷移がスムーズに行えるようにする
VRで顧客の購買意欲やブランドへの興味が高まったときに、スムーズに購入したりブランドサイトに移動したりできるようにすることも大切です。この導線が煩雑だと、機会損失やVRの利用減少などにつながってしまいます。
バーチャル空間内でそのまま買い物できるようにする、メニューからすぐにサイトに移動できるようにするなどしましょう。
個人情報やデータの取り扱いに注意する
VRはより個人の行動が表れやすい環境のため、基本的な個人情報はもちろんのこと、VR内での行動データなどあらゆる情報を慎重に取り扱う必要があります。VRや商品・サイト改善のためにユーザーデータを分析する際にも、匿名化するなどして個人の行動が特定されないようにしましょう。
サイトのページ読み込み速度に影響が出ないようにする
VRをECサイトに導入する際は、サイトのページ読み込み速度に影響が出ないようにします。VRは精密な3Dモデルやアニメーションを含むため、高負荷になって処理に時間がかかってしまう可能性が大いにあります。読み込みに時間がかかるサイトは直帰率が高まる、SEO評価が悪くなるなどしてしまうため、表現したい内容と処理負荷のバランスが取れたVRコンテンツを作成するようにしましょう。
VRをECで活用した事例
株式会社カンジュクファーム
山梨で果物生産・販売を行う株式会社カンジュクファームは、自社ECサイトのほかに、3D仮想空間の「GAIA TOWN」内にある専用スペースでも果物の販売を行っています。
仮想空間ではスタッフがアバターで利用者からの質問に答えたり果物の魅力を伝えたりしているだけでなく、専用スペースのフロア内では桃を育てる過程を紹介するなど、商品やサイトへの信頼感アップ、ロイヤルティの向上、顧客に正しい知識を伝えるといった役割も果たしています。
ニトリ
コストパフォーマンスの良い家具や生活雑貨を販売するニトリは、目黒通り店をバーチャル空間としても再現し、店舗に足を運びにくい人や旗艦店を体験したい人にサービスを提供しています。
ゴーグル無しでもウェブブラウザで閲覧できるため利用者を限定せず、商品のピンをクリックすれば販売ページへのリンクが表示されるというわかりやすさで、購買につながりやすくなっています。
三越伊勢丹
伊勢丹は、仮想都市空間REV WORLDS(レヴワールズ)の仮想新宿に伊勢丹新宿店をオープンし、ファッションや食料などの販売を行っています。
実店舗と同じランドセルフェアをバーチャル空間でも開催した際は、体験型ゲームを取り入れたり、学校の教室という空間も用意してよりリアルな学校体験を提供したりと、VRならではの工夫を盛り込むことで集客につなげました。
まとめ
VR技術は、消費者のエンターテインメントとしての利用だけでなく、ECサイトをはじめとする幅広いビジネスに広く応用され、近年急速に拡大しています。
特にECサイトでは、試着やサイズ感の確認など、実物を手に取れないというECの弱点を強力にカバーしてくれるため、VRを導入するメリットはとても大きくなります。
今回紹介した事例なども参考に、今後さらに発展・普及するVRをいち早くECに取り入れてUSPを確立し、ビジネスを成長させましょう。
VRに関するよくある質問
バーチャルリアリティ(VR)とは?
バーチャルリアリティ(VR)は、ユーザーが仮想世界で商品や体験ができる完全にデジタルな世界を提供する技術です。ユーザーは、ゴーグルやセンサーを通じて、3D環境内を移動しながら体験することができます。このタイプのVRは、ゲームでよく使用されていますが、近年では職場でのトレーニングシミュレーションなどのビジネスアプリケーションにも使用されています。
VRとARの違いは?
VRとARの違いは、VRが仮想現実を主体としてユーザーがそこに入り込むような体験を提供するのに対し、ARは現実の空間を主体としてそこに仮想のものを投影する点にあります。
VRをECサイトに導入するコストは?
VRをECサイトに導入するコストは、数十万円から数百万円ほどです。CGのクオリティや内容によってコストは大きく異なります。
文:鈴木 亜希子





