適切に作られたビジネス提案書は、より有利な契約を締結し、クライアントやビジネスパートナーを獲得するのに大きな効果を発揮します。しかし、起業したばかりの人の中には、どのように書けばよいのか分からないという方もいるでしょう。
ここでは、効果的なビジネス提案書の書き方をわかりやすく紹介します。ビジネス提案書のテンプレートも紹介しますので、効果的なビジネス提案書の作成に役立ててください。
ビジネスの提案書とは?

ビジネスの提案書とは、顧客や社内の課題やニーズを整理し、解決に向けた具体的な方法を示すための資料です。たとえば顧客向けの提案書は、その課題解決の過程で自社の製品やサービスがどのように役立つか、あるいは競合に比べてどんなメリットがあるかをわかりやすく伝えるために作成します。また、社内向けのビジネス提案書は社内の業務や組織体制の改善、新規プロジェクトの実行可否を判断するために用いられます。
B2Bサービスに注力する企業にとって、効果的なビジネス提案書の書き方を理解することは成長のために不可欠といえるでしょう。
ビジネス提案書の種類

正式契約に向けた提案書
顧客が依頼先をほぼ決定しているものの、正式な契約を結ぶ前の同意と確認を得るための提案書です。具体的な要件や要望がまとめられた提案依頼書(RFP)が提示される場合もあります。具体的な施策にも踏み込んだ企画書としての側面とともに、契約金額の妥当性を示すといった役割を持ちます。
比較検討してもらうための提案書
顧客が複数の会社を比較・検討している段階での提案書です。見込み顧客との間に入ったベンダーなどから依頼されることもあります。提示される具体的な要件が少ない傾向にありますが、顧客のニーズを理解していることや、それに対して自社の強みがどう活かされるかを示すことが重要となります。
汎用的な提案書
特定の顧客に合わせて作成するものではなく、どの企業にも通用する一般的な内容で構成されており、マーケティング資料としての側面が強いビジネス提案書です。このタイプの提案書は、取引先や投資家を探す企業が出展する展示会や、その他の公開イベントなどで活用することができます。市場や競合の分析を踏まえた複数のケースを想定しつつ、自社であればどのような解決策を提示できるか、あるいはこれまでの実績や事例を提示するものとなります。
社内向けの提案書
社内向けの提案書は、企業内部で発生している課題を改善するための考えをまとめる文書です。改善の背景や目的、実施内容を整理し、何を変える必要があるのかを明確に伝えることが重要となります。とりあげられる内容として、売り上げアップを目指す取り組みや働きやすい環境づくり、作業時間を短くする方法などが挙げられます。
ビジネス提案書の書き方

1. 表紙を作成する
表紙には、ビジネス提案書のタイトルや自社名、連絡先情報、提出日などを記載します。表紙はクライアントが最初に目にする部分であるため、自社ブランドを簡潔かつ印象的に伝えることが重要です。文書全体のトーンを決める部分でもあるため、Web広告などと同様に自社ブランドの個性を反映させることが大切です。たとえば、会社のロゴを入れるといった工夫が考えられます。
ただし、提案の主旨が伝わりづらくなってしまうため、複雑なグラフィックは避けましょう。
2. 提案概要をまとめる
提案概要(エグゼクティブサマリー)は提案書の中でも最も重要なパートのひとつで、自社の価値提案(バリュープロポジション)として機能します。ここでは、提案書を送る理由と、クライアントの課題を解決する最適な選択肢が自社である理由を詳しく説明しましょう。自社の強みや他社との違い、協業によって相手にどのようなメリットがあるのかを伝えます。
提案概要をまとめる際、内容は具体的かつ簡潔にする必要があります。ただし、詳細な戦略や実行計画はあとのセクションで説明するため、提案概要では全体像の紹介に留めましょう。
また、クライアントのニーズに的確に合わせた内容にすることも求められます。複数の見込み顧客に同じ提案書を送る場合でも、個別に書かれたように読める工夫をしましょう。顧客ごとに課題が異なる場合は、その内容に合わせて記載内容を調整する必要があります。
3. 顧客の課題と自社の解決策を記載する
提案概要で伝えきれなかった、見込み顧客の課題と自社の解決策の詳細を記載します。まずはクライアントが直面している、あるいは直面しうる課題を説明することから始めましょう。そうすることで、自社が相手のニーズを深く理解していることを伝えられます。そのためには、綿密なリサーチが欠かせません。
複数の課題を列挙して提示する方法もあれば、1〜2つの主要な課題に焦点を当てる方法もあります。どのような方法を採用する場合でも、課題と解決策はセクションを分けて記載しましょう。それぞれのセクションで押さえるべき主なポイントは次のとおりです。
- 課題:主張を裏付けるデータを用い、クライアントが目標達成においてどの部分で課題を抱えているのかを具体的に説明
- 実施内容:どのような施策を行うのか、各施策の目的や要する期間、手順を詳しく記載
- 目標:提案した解決策の成果をどのように評価し、どれくらいの期間で成果を挙げられるのかを説明
- 効果:見込み顧客が抱える課題の分析結果を踏まえ、提案した施策によってどのような効果が得られるのかを明記
このセクションには、実施計画の詳細をすべて盛り込みましょう。読みやすくするために、文章は適度な分量で区切ることが望ましいです。単なる装飾としてのグラフィックは避け、情報を視覚的にわかりやすく伝えられる図表やグラフなどを活用しましょう。
4. 価格表を作成する
課題と解決策のページの後には、価格表を配置します。価格表には、提供する製品やサービスの一覧と、それぞれの費用を明確に記載しましょう。
価格設定は提供するサービスや商品の種類によって異なりますが、一般的にはクライアントに複数の選択肢を提示することが望ましいとされています。一律料金では「承諾するか否か」の二者択一となり、提案が断られるリスクが高まってしまいます。一方で、複数のオプションを提示すれば、クライアントのニーズに合わせて調整しながら提案できるようになり、交渉の余地が生まれます。そこから対話を深めていけば、提案が受け入れやすくなるでしょう。
価格表を作成する際、何よりも重要なのは費用の透明性です。クライアントが何に対して支払っているのか、どのようなカスタマイズができるのかを一目で理解できるようにします。隠れた費用や細かい条件を避け、簡潔で理解しやすい価格設定を心がけましょう。
5. ブランドストーリーを共有する
見込み顧客は、提案を行う事業者がどのような背景や想いを持っているのかを知りたいと考えています。自社の理念や歩みに共感してもらえるようなブランドストーリーを作りましょう。
また、その際には次のような要素を意識したストーリーテリングの手法を取り入れると効果的です。
- 物語の背景:主役となる創業者や協力者を紹介し、どのようにしてビジネスを立ち上げたのかを説明
- 困難や葛藤:どのようなきっかけでビジネスを始めたのか、その発端となる課題を紹介
- 過程:対峙した困難を解決する方法をどのように見つけ出したのか、どうやって乗り越えたのかを説明
- 解決:見つけ出した解決策は何だったのか、その成果がどのような変化をもたらしたのかを紹介
- 登場人物:各チームメンバーの簡単な経歴を紹介し、それぞれがどのようにプロジェクトに関わるのかを記載
- 今後の展望:今後のビジョンや目標、事業をどのように発展させていくのかを説明
6. 補足情報を記載する
補足情報では、自社が見込み顧客の課題を解決するのに最も適していると示す根拠を伝えます。その際、有効なのがソーシャルプルーフの活用です。たとえば、過去のクライアント事例や顧客の声、SNS上での評価、専門家からの推薦などが挙げられます。また、導入までの流れやFAQなど、契約を検討するうえでクライアントが抱きやすい懸念を解消できる情報を記載するのも効果的です。
ビジネス提案書のテンプレート

ビジネス提案書のテンプレートには、各セクションに何を書くべきかが明記されており、カスタマイズも簡単にできます。ここでは、プロフェッショナルなデザインで作成できるビジネス提案書テンプレートの公開サイトをご紹介します。
ビジネス提案書の作成に役立つテンプレート提供サイト
下記サイトを活用すれば、ビジネス提案書を効率的に作成できます。
- MISOCA(ミソカ):会計書類を管理できるクラウドサービスですが、提案書テンプレートを無料で利用できます。提出前の確認に役立つ情報もまとめられています。
- Canva(キャンバ):直感的に使えるデザインツールで、無料プランでも提案書用テンプレートを利用できます。月額1,180円の有料版では、より多くの素材やアニメーションが使えるようになります。
- bizocean(ビズオーシャン):WordやExcel形式の書類をダウンロードできるサイトです。無料でダウンロードできるテンプレートが多いですが、一部は有料となっています。
それぞれのサイトを比較し、自社の目的や用途に合ったテンプレートを選びましょう。
記載項目
提案内容によって異なりますが、一般的なビジネス提案書では下記の項目が記載されています。
- タイトル
- 提案概要
- 相手が抱える課題
- 自社が提供できる解決策
- 費用や見積もり
- ブランドストーリー
自社でテンプレートを用意する場合は、上記の内容を中心に記載項目を決定しましょう。ここからは、各項目の記載例を紹介します。
タイトル
タイトルを作成する際は、シンプルで要点が明確であり、クライアント名とプロジェクトが伝わるようにしましょう。
例:広告費はかからない、ECサイトの売り上げアップ戦略
最短90日でコンバージョン率を2倍に改善するデジタルマーケティング戦略のご提案
〇〇株式会社御中 2025/XX/YY
提案概要
提案概要では過度なセースルトークを避け、見込み顧客に行動喚起を促すような内容を心がけましょう。
例:貴社のECサイトは広告費を増やしているにもかかわらず、売り上げの伸びが鈍化している状況とお見受けします。本提案では、その要因を「流入後の離脱率」と「導線設計の最適化不足」と捉え、ユーザーの行動データに基づいた改善策をご提示いたします。
弊社はデジタルマーケティング領域を専門としており、これまで多数のEC事業でコンバージョン率を平均2倍に改善してまいりました。貴社の商品力を活かし、最短90日で成果を挙げられる方法をご提案いたします。
課題と解決策
課題と解決策では、提案するプロジェクトのタイムテーブルなどの詳細な情報をまとめます。箇条書きや表を活用すれば、情報量の多いセクションでも読みやすく整理できるでしょう。
例:アクセス解析の結果、貴社ECサイトの主な課題は以下の2点です。
- 離脱率の高さ:商品ページ閲覧後の離脱率が60%を超えており、特に商品をカートに入れる前の段階で多くのユーザーが離脱しています。
- 導線設計の最適化不足:カートへの遷移や関連商品の案内がわかりづらく、ユーザーが購入までスムーズに進めていない可能性があります。
これらの課題を解決するために、以下の施策を実施します。
- 行動データの分析(1〜2週目):離脱箇所を特定
- UI/UXの改善(3〜4週目):購入導線やCTAの位置などを改善
- A/Bテストの実施(5〜8週目):複数パターンを検証し、最も成果の高いUIを実装
- 効果測定(9〜12週目):改善後のコンバージョン率、離脱率を定量的に報告
本施策の実施により、コンバージョン率を現状比で2倍に改善するとともに、顧客体験の向上を通じてリピーターの増加を見込んでいます。
費用や見積もり
複数のプランを提示し、それぞれの簡単な説明を記載しましょう。
例:
- ライトプラン:アクセス解析によってユーザー行動を可視化し、課題を特定します。現状の把握と改善の方向性を明確にしたい企業におすすめです。費用は300,000円、契約期間は1か月です。
- スタンダードプラン:ライトプランの内容に加え、UI/UX改善とA/Bテストを実施します。コンバージョン率を改善したい企業向けのプランです。費用は800,000円、契約期間は3か月です。
- プレミアムプラン:スタンダードプランに加え、リピーター施策などを含む包括的なマーケティング支援を行います。長期的な売上アップを目指す企業に適しています。費用は1,200,000円、契約期間は6か月です。
ブランドストーリー
ブランドストーリーでは、企業の使命や価値観などの会社概要を紹介します。創業者のコメントを記載するのも効果的です。
例:当社は「データの力で事業者の成長を支える」という理念のもと、2014年に設立されました。創業者の〇〇は広告代理店でEC支援を行う中で、広告費を増やしても成果が出ない企業が多いことに課題を感じました。そこで「広告に頼るのではなく、データとUI/UX改善で売り上げを伸ばす仕組みを作りたい」と考え、当社を立ち上げました。
創業当初はアクセス解析と改善提案を中心に活動していましたが、現在はUI/UX改善やA/Bテスト、CRM分析まで支援しています。これまでに100社以上のEC事業者をサポートし、平均でコンバージョン率を2倍に改善しました。今後はAIを活用したより詳細な分析にも取り組み、さらに多くの企業が自社の強みを活かして成長できるよう支援していきます。
ビジネス提案書のフォローアップ方法

見込み顧客からへの返答は、焦らず忍耐強く待つことが大切です。もし返答がなく、アクションを促したい場合は、次のフォローアップ方法を試してみてください。
- 再連絡は1週間後にする
- メールの件名を魅力的にする
- 内容を簡潔にまとめる
- 押しつけがましいセールストークは避ける
- フレンドリーかつ誠実に対応する
- 反応がなければ何度も連絡しない
再連絡は1週間後にする
フォローアップの連絡は、少なくとも1週間待ってから行いましょう。クライアントが社内で提案内容を検討している可能性があります。
メールの件名を魅力的にする
メールマーケティングと同様に、魅力的な件名は開封率を高める効果があります。件名には内容の要点を簡潔に含め、関心を引く表現を心がけましょう。
内容を簡潔にまとめる
再連絡の際に、提案内容の詳細を改めて説明する必要はありません。フォローアップメールでは、「ご不明点がありましたらお気軽にお問い合わせください」など、相手が返信しやすい雰囲気をつくることが大切です。
押しつけがましいセールストークは避ける
過度なセールストークはクライアントに押しつけがましい印象を与え、かえって逆効果になる可能性があります。ここでの目的は顧客を獲得することではなく、信頼関係を築くことである点を意識しましょう。
フレンドリーかつ誠実に対応する
親しみやすく誠実な対応を心がけましょう。フォローアップのやり取りは、今後どのように仕事を進めていくかを印象づけるチャンスにもなります。親しい同僚に連絡するようなイメージでメッセージを送るとよいでしょう。
反応がなければ何度も連絡しない
1〜2通のメールが見落とされることはありますが、3〜4回連絡しても反応がない場合は、それ以上追いかけないようにしましょう。何度も連絡を重ねると印象を悪くするおそれがあります。何度も連絡するのではなく、別の見込み顧客へのアプローチに時間を充てるのが望ましいでしょう。
まとめ
ビジネス提案書は、クライアントが抱える問題点を整理して、どうすれば解決できるのかを説明する資料です。クライアントから依頼を受けて専用に作る場合もあれば、汎用的な内容で作る場合もあります。提案書の作成にあたっては、クライアントの課題をきちんと理解したうえで、自社だからこそ実現できる解決策を明確に示すことが求められます。提案書は、表紙、提案概要、課題と解決策、料金、補足情報といった流れでまとめると伝わりやすくなります。
ビジネス提案書を渡したあとの対応も重要です。商談から1週間ほど経って返答がなければ、押しつけがましくならないように配慮しつつ、フォローアップの連絡を入れましょう。
ビジネス提案書に関するよくある質問
ビジネス提案書と企画書の違いは?
ビジネス提案書と企画書は、目的と作成のタイミングに違いがあります。提案書はクライアントの課題に対して、解決策を示すために作成される資料です。自社のサービスや仕組みを活用し、どのように問題を解決できるかを伝えることを重視します。一方、企画書はすでに方向性が決まった案件を実行に移すための資料です。進行の手順やスケジュール、予算などがまとめられています。
ビジネス提案書を書く際のポイントは?
- 調査やヒアリングを通じて相手の課題を正確に理解する
- 提案を承認することで得られる成果を伝える
- 実施に必要な費用や期間を具体的に記載する
- 担当者だけでなく、裁量権のある人にも伝わる内容にする
- 提案後に社内で共有されることを想定し、閲覧しやすい構成にする
- 適宜フォローアップを行う
ビジネス提案書を作成する際におすすめのサイトは?
- MISOCA
- Canva
- bizocean
文:Yukihiro Kawata





