「スマートフォンで見た広告の商品を、後でPCから購入した」という顧客の行動を、正確に追跡できていますか?多くの事業者が、顧客が複数のデバイスを使い分けることで広告効果が分断され、真の広告費用対効果(ROAS)を把握できないという課題に直面しています。
顧客の購買までの道のりが複雑化する現代において、デバイスごとではなく「顧客個人」を捉え、一貫したメッセージを届けることが不可欠です。この課題を解決する強力な手法が「クロスデバイス広告ターゲティング」です。
本記事では、その基本的な仕組みから、プライバシー規制時代に対応した最新の実践方法、そしてビジネスにもたらす具体的なメリットまでを網羅的に解説します。
クロスデバイス広告ターゲティングとは?
クロスデバイス広告ターゲティングとは、複数のスクリーン(デバイス)の背後にいる同一の個人を認識し、各デバイスに個別ではなく、その個人に対して連携のとれた一連の広告を配信する手法です。
世界の消費者は平均3.6台のデバイスを使いこなし、2023年の米国では一人当たりの平均所有デバイス数は13台にものぼります。朝食中にスマートフォンでInstagramをチェックし、仕事用のノートPCでレビューを検索し、夕食後にはスマートTVでYouTubeを観て、最終的にソファの上でタブレットから購入を完了する、といった買い物客の行動はもはや珍しくありません。
クロスデバイスターゲティングを活用することで、個人単位での広告表示回数を最適化して広告疲れを防ぎ、どのスクリーンを見ていても一貫したストーリー(認知から検討、そして購入提案へ)を伝え、最終的な売上に対するすべての接点の貢献度を正確に評価し、真のROASを把握することが可能になります。
クロスデバイストラッキングの仕組み
買い物客はスマートフォンからノートPCへ、そしてまた別のデバイスへと自由に行き来します。一貫した広告体験を提供するためには、すべてのスクリーンの背後にいるのが同一人物であることを特定する必要があります。これは「ID解決(Identity Resolution)」と呼ばれ、主に二つの方法で行われます。
一つは、メールアドレスやログイン情報といった個人に固有の情報を照合する「決定的(Deterministic)トラッキング」です。ユーザーから直接提供される情報のため、その精度は非常に高くなります。もう一つは、IPアドレスやデバイスの種類といった情報から、機械学習モデルが二つのデバイスが同一人物のものであると推測する「確率的(Probabilistic)トラッキング」です。
現代の広告アプローチでは、これら二つを組み合わせて精度とリーチを両立させます。Shopifyのようなプラットフォームは、統一された顧客プロファイルの構築を支援し、Shopify Audiencesを通じて類似ユーザーをターゲットにすることで、まさにこれを実現しています。
デバイスグラフ vs IDグラフ
決定的および確率的シグナルをどのようにつなぎ合わせるかが、高精度な広告を配信できるか、一般的な広告に留まるかを決定します。その鍵を握るのが、旧来の「デバイスグラフ」か、現代的な「IDグラフ」かという点です。
デバイスグラフが散在する足跡を追うものだとすれば、IDグラフは買い物客という「個人」を特定するものです。サードパーティクッキー中心に設計されたデバイスグラフは、プライバシー保護の流れの中でその精度が低下しています。
一方、IDグラフは、顧客プロファイルに存在するメールアドレスなどの決定的IDを軸に、プライバシーに配慮した形で類似デバイスにリーチを拡大します。チェックアウト時のメールアドレス入力やShop Payの利用といった行動が、自社が所有するファーストパーティの顧客情報を豊かにし、より精度の高いターゲティングを可能にするのです。
クロスデバイス広告ターゲティングの実践方法
クロスデバイス広告を実際に導入するには、どのようなステップが必要なのでしょうか。ここでは、その具体的な実践方法を3つのステップに分けて解説します。
1. カスタマージャーニーのマッピング
まず、買い物客が現れるすべてのタッチポイントをリストアップします。Google広告、店内のQRコード、購入後のメールなど、あらゆる接点が対象です。Shopifyの統一されたデータ基盤は、これらの情報を一元的に収集・格納することを容易にします。Shop Payへのログイン促進やPOSでのメールアドレス取得など、顧客との接点をすべてIDに紐づけることで、顧客の360度ビューを構築します。
2. ユーザーデバイスの認識とデータ統合
次に、IDソリューションを使用して、広告プラットフォームが読み取るデバイスIDなどを収集します。そして、収集したファーストパーティデータとデバイスIDを、信頼できるIDグラフパートナー(OnAudience、LiveRampなど)のプラットフォームにアップロードし、統合します。これにより、「この個人=これら複数のスクリーン」という単一の顧客像が作成されます。
3. 広告配信と効果測定
最後に、統合されたオーディエンスリストをDSP(デマンドサイドプラットフォーム)やSNSなどにエクスポートします。これにより、TVからモバイル、デスクトップへと連続性のある広告を展開し、Shopify上で最終的な売上をすべてのタッチポイントに紐づけて分析することが可能になります。
クロスデバイス広告ターゲティングの利点
クロスデバイス広告ターゲティングを導入することで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、主な利点を3つの側面から解説します。
エンゲージメントの向上
クロスデバイスマーケティングが有効なのは、消費者がすでに複数のデバイスを使いこなしているからです。ある調査では、複数のデバイスを経由してサイトにたどり着いたユーザーのコンバージョン率は、平均より230%も高いという結果が出ています。
顧客の視点から見れば、複数のデバイスにまたがる広告体験はシームレスであるべきです。スマートフォンで商品を認知し、後でじっくり検討し、割引のためにニュースレターに登録し、最終的にノートPCで購入を完了するといった一連の流れを、途切れることなくサポートすることが重要です。
最適なタイミングでのアプローチ
顧客に購入を検討させるのに最適な時間帯というものが存在します。もし顧客がその時間帯にデスクトップではなくモバイルを利用している場合、単一デバイスの広告キャンペーンではその機会を逃してしまいます。
クロスデバイス広告は、そもそもどのタイミングが最適なのかを学習するのにも役立ちます。例えば、「モバイル広告はメルマガ登録には効果的だが、高額商品の購入には繋がりにくい」といった発見は、将来のキャンペーン戦略を練る上で非常に有益です。
広告費とROASの正確な追跡
サードパーティクッキーによる追跡が困難になる中、自社で収集するファーストパーティデータの重要性が高まっています。クロスデバイス広告は、クッキーに頼ることなく、どのデバイスが高いエンゲージメントを生み出しているかを示す、より広範なデータを収集する手段を提供します。
この指標を測定することで、どのチャネルが最も収益性が高いかを判断できます。ただし、そのためには、まず自社の分析基盤を整備し、正確なマルチチャネルでの貢献度評価を確立することが不可欠です。
まとめ
顧客にとって、クロスデバイス広告ターゲティング戦略はほとんど目に見えないものです。しかし、その裏側では、それを機能させるための緻密な戦略が存在します。
その結果は常に同じです。より多くの顧客を引き込み、人々が何度も訪れたくなるような一貫したブランド体験を創造すること。これが、クロスデバイス広告ターゲティングがもたらす最大の価値と言えるでしょう。





