お読みいただく前に
本記事は、Shopifyが海外で公開した事例・機能解説をもとにした翻訳記事です。内容の性質上、一部に日本では現在ご利用いただけない機能・サービスが含まれます。日本での提供状況は、記事末尾の「日本市場での注意点」にまとめていますので、あわせてご確認ください。
戦略的なパーソナライゼーションは、ブランドを市場で際立たせる鍵であり、顧客はすべての接点でそれを期待しています。ビジネスリーダーの89%が、今後3年でパーソナライゼーションが事業成功に価値をもたらすと考えています。
一方で実行は容易ではありません。サードパーティCookieの廃止で多くの小売は、求められる体験づくりが難しくなりました。しかしファーストパーティーデータに切り替えれば、パーソナライゼーションはこれまで以上に強力になります。クイズやフォームの回答、過去の購買履歴、閲覧行動など顧客が同意して提供するデータを自社で保有し、単一のECプラットフォームに統合すれば、ファネル全体でより関連性の高い体験を設計でき、実店舗の体験にも活用できます。
ファーストパーティーデータを使ったパーソナライゼーションの基本を押さえることで、販売・顧客維持・LTVを伸ばせます。具体策を見ていきましょう。
ECパーソナライゼーションとは
顧客一人ひとりに合わせてオンラインショッピング体験を調整することです。顧客の嗜好・行動・属性(今日ではファーストパーティーデータ)に基づき、関連性の高いコンテンツ、商品レコメンド、オファー、体験、サポートを提供し、満足度・エンゲージメント・コンバージョン率を高めます。
ECパーソナライゼーションのメリット
コンバージョン率の向上
閲覧履歴に基づいて関連商品を提示できます。パーソナライズドレコメンドは最大8%CVRを押し上げるとMonetateのレポートは示します。関連性が高まることでLTVも向上し、リピートを促します。
顧客体験の改善
顧客のニーズや関心に基づいて体験を最適化すると満足度が高まります。87%のミレニアル世代は「利便性が意思決定に影響する」と回答。パーソナライズされたマーケティングは広告の非表示やニュースレター解除を減らし、コミュニケーションを保ちます。
また、過去購入・閲覧・問い合わせ履歴を含む顧客プロフィールを備えたCS(人・AI問わず)は、必要なサポートを的確に提供できます。パーソナライズされたCSは顧客維持に強力です。
平均注文額(AOV)の拡大
Monetateは、ジャーニーを調整することでAOVを最大12%押し上げられると示します。補完・上位商品のクロスセル/アップセル、購買行動に合わせた割引やバンドルが効果的です。先ほどのCSの例のように、在庫切れ時に代替品を提案することもできます。購買習慣や過去購入を把握していれば、ニーズに合う代替品を提示できます。
12のスケーラブルなECパーソナライゼーション戦術
以下の12戦術でパーソナライゼーションを拡張しましょう。
1. 顧客のサインインを促す
単なる「10%オフクーポン」の時代は終わり、顧客と事業の双方に価値があるサインイン体験づくりが進んでいます。ログイン習慣を作れば、顧客は以下のような価値を得られます。
- 注文管理と追跡
- 簡単な返品処理
- サブスクリプション管理
- コレクションレビュー
- 紹介プログラムへのアクセス
- 支払い方法の保存
- 後で購入するための保存カート
この戦略が特に強力なのは、プライバシーやデータ共有に対する期待の変化と一致しているためです。顧客は実用性と引き換えに自らを識別します。店員に付きまとわれるのではなく、依頼したパーソナルショッピングアシスタントに近い体験です。
実装の鍵は顧客視点です。
- サインインで日常のどんな摩擦を解消できるか?
- どんなセルフサービスが生活を楽にするか?
データ収集を目的にするのではなく、顧客課題を解決することを目的にすると、顧客が積極的にログインしたくなる体験になります。
2. PDPのレコメンドを高度化する
PDPのレコメンドは、閲覧・購買履歴や嗜好に基づき、関心のある商品と類似・補完するアイテムを提示します。スタイルやブランドが似た高単価商品の推奨で動的アップセルを行い、クロスセルでカートサイズ拡大を促せます。
Pura Vida BraceletsはレビューにYotpo、パーソナライズにNostoを使用し、PDPに2種類のレコメンド枠を設置。共同創業者Griffin Thall氏は、ShopifyとのNosto統合により「ベンダー、アプリ、テクノロジーパートナーとのオペレーションを同期し、優れたレポートを提供できた」と述べています。
3. データ駆動のロイヤルティプログラムを運営する
ロイヤルティは基本的なポイント付与から、顧客に意味のある報酬を与えるデータ駆動の仕組みへ進化しました。ファーストパーティーデータの宝庫にもなり、チャネル全体でのパーソナライゼーションに活用できます。架空の顧客Amyを例にすると次のことがわかります。
- 2022年からロイヤルティメンバー
- 3か月ごとにスキンケアを75〜100ドル購入
- 季節セール中に購入
Amyはポイントを着実に貯めますが、サンプルではなくフルサイズ製品にのみ引き換えます。スキンケアローンチのメールに反応し、メイクアップのプロモーションにはほとんど反応しません。この行動データを使って、以下のようにAmy向けに調整できます。
- 再入荷リマインダー:通常の3か月サイクルの直前に通知
- パーソナライズプロモーション:予算内の新スキンケア製品を紹介し、季節セールへの早期アクセスを提供
- 戦略的オファー:フルサイズでのポイント交換を好む傾向を踏まえ、同様の顧客に行動を促す
ロイヤルティ会員全体のパターンを見れば、フルサイズ交換をする顧客のLTVが30%高い、といった洞察も得られます。これを基に、サンプル派にフルサイズ交換特典を設けるなど、価値ある行動を促す施策に反映できます。
4. パーソナライズされたベストセラーリストでクリック率を高める
人は“人気のあるもの”に惹かれます。ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストのように、期間限定のベストセラーを強調するだけでも効果的です。Campus Proteinはこの戦術でコンバージョンを前年比2倍にしました。
工夫の余地は大きく、売上順だけでなくレビュー数順にしたり、地域別に分ける方法もあります。気候が異なる地域でファッションを売る場合や、スポーツチームのグッズを扱う場合、ロサンゼルスとニューヨークでは冬に求めるアイテムが違います。自社の商材と顧客に最適な切り口を試してみましょう。
5. UGCをファネル全体に組み込む
UGC(写真・動画・レビュー)はサイトに“別の視点”をもたらし、商品を実生活で見せることができます。米国では46%の消費者が友人・知人から新しく面白い商品を知ると答えています。
多くの企業は、UGCをPDPの評価表示やSNS投稿にとどめ、サイト内ファネル全体には統合していません。シューズブランドSeaVeesは、Instagramで集めたUGCをホームとPDPで目立つ形で掲載し、SeaVeesのハッシュタグ経由で投稿された写真を中心に、キュレーションした“購入できる投稿”コレクションへ直接リンクしています。
6. 動的コンテンツを活用する
動的コンテンツは、ユーザーの行動・場所・属性に応じて内容を変えます。初回訪問者にはウェルカム割引バナー、リピーターには最近の購入に基づくレコメンド、といった具合です。Shopifyなら、次のデータを収集しやすくなっています。
- 行動データ:ユーザーのインタラクション、閲覧パターン、購入履歴
- コンテキストデータ:時間帯、場所、デバイスタイプ、流入元
- 履歴データ:過去購入、カゴ落ち、CS履歴
- デモグラ情報:年齢、性別など
まずは新規/リピーターや地域別オファーなど基本セグメントから始め、徐々に高度な行動ターゲティングに広げます。エンゲージメントやCVRの改善を計測し、効果の高い戦略をスケールしましょう。
7. 商品発見体験を強化する
ログインした顧客には、単なるレコメンドを超えた発見体験を提供できます。プレ購入ではパーソナライズされたコレクションやウィッシュリスト、購入後は注文管理や簡単な再注文など、統合カスタマーデータを使った直感的なストア体験です。
再訪時には、カテゴリーの羅列ではなく、嗜好や過去購入・閲覧パターンに合った商品やオファーが優先的に表示されます。ShopifyのSearch and Discoverアプリでは、検索・コレクションのカスタムフィルター作成、セマンティック検索の有効化、PDPでの関連商品提示ができ、“見つけやすさ”を高めます。
8. 行動トリガーにもとづきセッション内でリターゲティングする
オフサイトのリターゲティングはコストがかさみます。代わりに、サイト内のポップアップやインタースティシャルを“直感的で邪魔にならない”形で使いましょう。セッション数、カート金額、閲覧行動(履歴・リアルタイム)をトリガーに自動表示し、初回訪問者にはメールアドレスと引き換えの限定オファー、カート投入後は段階的割引、再訪者には“閲覧したが未購入”のアイテムを思い出させてチェックアウトへ導きます。
9. ファーストパーティーデータでAIチャットボットを強化する
AIチャットボットとバーチャルアシスタントは顧客ジャーニーを変えつつあります。Segmentの2024年調査では、ビジネスリーダーの58%が、今後5年で最も影響の大きいパーソナライゼーション技術にAIチャットボットを挙げています。
統合カスタマーデータモデルと連携すれば、以下のような文脈的な対応が可能です。ShopのAI Assistantのように、顧客が探しているものを説明すると、嗜好や在庫に基づいた提案を返せます。
- 過去購入に基づく補完商品の提案
- リアルタイムの注文追跡や配送状況の案内
- よくある質問へのパーソナライズされた回答
- 顧客の状況に応じた応答最適化
こうしたツールを活用することで、24時間体制でも顧客ごとに関連性の高いサポートを維持できます。
10. スマートレコメンドでソーシャルリターゲティングのタイミングを最適化する
離脱後もソーシャル広告で呼び戻せますが、価値が時間とともに逓減する前提で粒度の細かいリターゲティングを短期間(7〜14日)に集中させると効率的です。過去購入に関連する商品や独自価値を想起させる訴求が有効です。
より高度な手法がグラニュラーリターゲティングです。サイト訪問者の価値は離脱後時間とともに下がるため、価値の低下に応じてリターゲティングを層別し、期間を短縮することで広告費を抑えられます。BOOM! By Cindy Josephは、ホームとコレクションの閲覧後にソーシャル証明を強調する広告で再関与を促しています。
こうした“いつ・誰に・何を届けるか”の設計では、過去の購入に関連する商品や、ブランドの独自価値を思い出させる訴求を選ぶことが重要です。
11. 3種類のパーソナライズされたメールとSMSを自動化する
メールアドレスや電話番号を共有してもらえれば、顧客がどこにいてもブランドがリーチできる新しいチャネルになります。継続的な接点が想起を生み、転換を後押しします。次の3つを自動化しましょう。
カート放棄メッセージ
最適化しても離脱は起こります。American Giantは、カートに残した商品を記載したメールで“買い忘れ”を優しくリマインドし、購入完了を促します。
「We miss you」メッセージ
Supporters Placeは再訪喚起や新商品の案内で、過去に見たアイテムを思い出させます。
購入後フォローアップ
チェックアウトは関係の終点ではありません。ergoPouchは過去購入に基づくおすすめを含むフォローアップで継続的な価値を提供しています。
12. チェックアウトをカスタマイズする
チェックアウトは“取引の終点”から“データと理解を深める場”へと進化しています。配色やフォント以上に、次のことが可能です(Shopifyの場合)。
- チェックアウトアプリで機能追加:配送日指定、ギフトメッセージ、無料ギフトなどをドラッグ&ドロップで配置(ブランド設定を継承)。
- 購入後アプリでAOV向上:サンクスページ前にワンクリックアップセルやロイヤルティを提示。
- アプリでロジック追加:Shopify Functionsでコード不要の割引・配送・決済ルールを実装し、独自要件に合わせた関数も構築可能。
- 行動計測:トラッキングピクセルで離脱ポイントを可視化(App Storeの既製アプリまたはカスタムピクセル)。
小売は、スマートアップセル、統合ロイヤルティ、専用アナリティクスなど独自の最適化を維持しながら、1億5,000万以上のユーザーを持つShop Payのスピードと安心感も提供できます。
購入の瞬間を超え、各チェックアウトのやり取りがファーストパーティーデータ基盤を豊かにし、より良い体験→価値あるデータ→さらなる最適化の好循環を生みます。
今日からECパーソナライゼーション戦略を構築しよう
パーソナライゼーションは、もはや大量一斉配信ではなく“個に寄り添う体験”を提供することが前提です。Shopifyなら、高LTV顧客のタグ付け、パーソナライズされたメールの自動化、リターゲティングの精緻化まで深いマーケティングオートメーションを構築できます。顧客を喜ばせ、ストアを成長させましょう。
ECパーソナライゼーション FAQ
パーソナライゼーションの“4R”とは?
- Relevance:ニーズに合ったコンテンツを届けること
- Recognition:嗜好や行動を記憶し、体験に反映すること
- Responsiveness:タイムリーで関連性の高い対応をすること
- Results:効果を測定し、戦略を最適化すること
ECにおけるパーソナライゼーションはどれほど重要ですか?
顧客はレコメンドやオファー、コンテンツまで“自分向け”を期待しています。パーソナライゼーションはCVR向上、エンゲージメント強化、売上増、ロイヤルティ向上に直結し、競争優位をもたらします。ロイヤルティ向上、顧客満足の増大、競争優位の確立にもつながります。
ECにおけるパーソナライゼーションとカスタマイゼーションの違いは?
パーソナライゼーションは、嗜好や行動に基づきコンテンツを出し分ける「事業側の最適化」です。カスタマイゼーションは、サイズや色など顧客自身が商品や体験を調整することです。
ECパーソナライゼーションの例は?
- ターゲティングメール:関心やニーズに合わせたメール送信
- パーソナライズ商品レコメンド:データに基づき個別提案
- SNSでのエンゲージメント:新規顧客への対応や対話
- カスタムコンテンツ:個々の興味に合わせた情報提供
- ロイヤルティプログラム:購買習慣に応じた報酬
- 動的プライシング:行動に応じた価格調整
ECサイトをどうパーソナライズすればよいですか?
以下の10のヒントがあります。
- 顧客データ活用:行動・属性・過去購入・検索履歴などで体験を調整
- パーソナライズレコメンド:過去購入や閲覧に基づく商品提案
- カスタムコンテンツ:関心ごとに合わせたブログや動画シリーズ
- パーソナライズマーケティング:個別メールや特典でエンゲージ
- ロイヤルティプログラム:購買習慣に応じた報酬でリピート促進
- 顧客対応:名指しで応対し、個別解決策を提示
- UI最適化:顧客好みに合わせたレイアウトや色、フォント
- リアルタイム支援:ライブチャットやチャットボットの提供
- パーソナライズ包装:体験全体を高める工夫
- レビューと評価:フィードバックを促し、他顧客の判断材料に
日本市場での注意点
この記事で紹介されているShopifyの主要機能について、日本での利用可能状況は以下の通りです。
✅ 日本で利用可能な機能
- Shopify Functions: 割引・配送・決済ルールをカスタマイズする機能。
- Shop AppのAI Assistant: Shopアプリ内で利用可能なAIによるショッピングアシスタント。
- Shopify Search and Discoverアプリ: 検索結果や商品レコメンドをカスタマイズするアプリ。
- Shop Pay: ワンタップでの安全で高速なチェックアウト。
上記以外にも、記事で触れられているロイヤルティプログラム、UGC連携、チャットボットなどの機能は、Shopify App Storeのサードパーティ製アプリを通じて多くが日本で利用可能です。





