「カートに商品は入るのに、なぜか購入まで至らない」「チェックアウト画面からの離脱率が高い」多くのEC事業者が、売上向上の最後の壁としてこの課題に直面しています。ユーザーの注意持続時間がますます短くなる中、少しでも遅延や分かりにくさを感じさせるチェックアウトプロセスは、貴重な販売機会を逃す直接的な原因となります。
ある調査によれば、オンラインショッパーの約72%がカートを放棄しており、そのうち18%は「チェックアウトが遅い、または分かりにくい」ことを理由に挙げています。これは、サイトの改善によって取り戻せるはずの売上が、日々失われていることを意味します。
幸い、この問題を解決するためにサイト全体を大規模に改修する必要はありません。この記事では、チェックアウト体験を劇的に改善し、すべてのクリックを確実に売上へとつなげるための、実践的な7つの方法を具体的に解説します。
eコマースにおけるチェックアウト体験の現状
ECサイトの売上は、チェックアウト体験の質に大きく左右されます。ここでは、カゴ落ちに関する最新のデータや、Googleが提唱するWebサイトの健全性指標「Core Web Vitals」がチェックアウトに与える影響など、現代のEC事業者が知っておくべきチェックアウト体験の現状を解説します。
カゴ落ちの指標とトレンド
Baymard Instituteが49の異なる調査をまとめたところ、買い物客の約4分の3がカートを放棄しており、この数字は過去数年間ほぼ横ばいです。同調査によると、特に注目すべきは以下の点です。
- 米国の買い物客の18%は、チェックアウトプロセスが「長すぎる、または複雑すぎる」と感じた場合に購入を断念しています。
- 19%は、クレジットカード情報をサイトに預けることへの不安など、セキュリティ上の懸念からサイトを離脱しています。
しかし、同調査は小売業者がチェックアウトのユーザビリティの問題(そのほとんどが解決可能)に取り組めば、平均的なECサイトは、より良いチェックアウト設計だけでコンバージョン率を35.26%も向上させられる可能性があるのです。
近年、Googleはサイトの速度とチェックアウトの測定方法をより厳格化しています。サイトの応答性に関する新しいCore Web Vitalsの指標「Interaction to Next Paint(INP)」は、チェックアウト機能を含むインタラクティブな要素がどれだけ速く読み込まれるかを評価します。
サイト全体の応答が遅く、ユーザーがクリックしてから操作が有効になるまでに時間がかかる場合、Google検索結果での表示順位が下がる可能性があります。これは、たとえ他の指標や製品の品質で競合を上回っていたとしても、オーガニック検索からの流入が減少し、コンバージョンが大幅に低下するリスクがあることを意味します。
Core Web VitalsはWebサイトのパフォーマンス評価において極めて重要です。Googleが2024年3月に以前の応答性指標「First Input Delay(FID)」をINPに置き換えたことで、サイトがCore Web Vitalsで「良好」な評価を維持するためには、すべてのユーザーインタラクションが200ミリ秒未満で応答する必要があることが示されました。この基準を維持できないサイトは、検索順位の低下、直帰率の上昇、そして最終的には売上の減少に繋がる可能性があります。
モバイルとデスクトップのチェックアウト行動の変化
モバイルコマースの人気は高まり続けています。Statistaがまとめた2025年第1四半期のデータによると、オンラインショッピングの注文の68%がスマートフォンで完了しており、この数字は過去4年間でほぼ倍増しました。
しかし、依然としてモバイルユーザーのカゴ落ち率はデスクトップよりも高い傾向にあります。2023年4月から2024年4月にかけて、モバイルデバイスのコンバージョン率は約3.0%でしたが、デスクトップでは4.4%でした。
小さい画面では、余分な入力項目や少しの遅延がユーザーにとって大きなストレスとなり、キーボード入力に比べて手間がかかるからです。Shop Payのようなデジタルウォレットは、支払い方法、配送先住所、その他の個人情報を自動入力することで、この問題を解決します。
Allbirds、Kith、Beyond Yogaといった多くの先進的なブランドは、すでにShop Payを活用しています。Shop Payは、モバイルを含むすべてのチェックアウトで平均9%のコンバージョン率向上をもたらし、リピート顧客には18%高いコンバージョン率を提供します。最新の速度改善により、支払いとコンバージョンはさらに高速化されています。
より速いチェックアウト体験を生み出す7つの方法
チェックアウト体験の改善は、技術的な最適化からUI/UXの工夫まで多岐にわたります。ここでは、顧客のストレスを軽減し、コンバージョン率を向上させるための7つの具体的な方法を解説します。
1. Core Web Vitalsの目標を達成する
チェックアウトの応答性を最優先しましょう。INPを200ミリ秒未満に保つことで、「今すぐ支払う」ボタンをタップした瞬間に即座に反応するように感じさせることができます。
支払いフローがこの基準を満たしたら、Googleの「良好」評価を維持することで、購入体験全体を安定させます。高速なページ読み込みのためにLargest Contentful Paint(LCP)を2.5秒未満に、レイアウトの安定性のためにCumulative Layout Shift(CLS)を0.1未満に保ちましょう。これら3つの指標が組み合わさることで、サイトの速度が顧客の信頼に変わり、カート放棄を防ぎます。
以下のチェックリストに従って、基本的な問題を修正してください。
- Google LighthouseやShopifyの速度レポートを使い、時間のかかる処理を特定します。メインスレッドを50ミリ秒以上ブロックしているJavaScriptは分割しましょう。
- 重要でないスクリプト(ヒートマップ、チャットウィジェット、A/Bテストツールなど)は、ページの読み込みが完了してから遅延読み込みさせます。
- LCP改善のため、GIF/MP4形式のバナーを圧縮されたWebPやストリーミング形式のHLSに置き換えます。
- サードパーティアプリを見直します。未使用のアプリやパフォーマンスを低下させているアプリは削除し、必要な分析ピクセルはサーバーサイドのWebピクセルに移行して、クライアント側の負荷を削減します。
2. フォームフィールドを削減し、スマートなデフォルト設定を使用する
チェックアウトは、顧客をスムーズに出口へ導くための最終ステップであり、複雑なパズルのようなものであってはなりません。入力項目が多すぎることが原因で、購入意欲の高い顧客を失うことは避けなければなりません。
Baymardの2024年の調査によると、平均的なチェックアウトフローには11.3個のフォームフィールドがあり、完了までに5ステップ以上を要します。買い物客の18%がチェックアウトの複雑さを理由に購入を断念していることを考えると、これは明らかに長すぎます。
フォームフィールドを削減する方法には、以下のようなものがあります。
- 入力項目は必須のものだけに絞り、最大6〜8フィールド程度に抑えます。
- オプションの「建物名、部屋番号など」や「会社名」のフィールドは、「詳細を追加」といったリンクをクリックすると表示されるようにします。
- 姓名のフィールドを統合し、モバイルで入力しやすいように氏名フィールドを1つにします。
- 「請求先住所と配送先住所が同じ」をデフォルトで選択状態にし、ユーザーがチェックを外さない限り、請求先住所の入力欄を非表示にします。
- Googleが提供する住所自動補完を有効にして、郵便番号、市区町村、都道府県を自動入力させます。
しかし、フォーム入力を削減する最善の方法は、Shop Payのようなデジタルウォレットを導入することです。これにより、入力項目を完全にスキップし、買い物客は1秒未満で購入プロセスを完了できます。
3. 顧客情報を保存し、自動入力する
購入完了までの手間が少なければ少ないほど、コンバージョン率は高まります。Shop Payのワンタップチェックアウトは、買い物客が最初の購入を行った後、メールアドレス、配送先住所、請求先住所、希望する支払い方法を自動で入力します。
大手コンサルティング会社による外部調査によると、Shop Payはゲストチェックアウトと比較してコンバージョン率を最大50%向上させ、他のあらゆる高速チェックアウト手段を少なくとも10%上回る結果を出しています。
4. ワンクリックでのアカウント作成を提供する
最初の購入が完了した直後に、アカウント作成を促しましょう。顧客はすでに注文確認や追跡情報といった価値を受け取っているため、この依頼は押し付けがましくなく、自然なサービスとして受け入れられやすくなります。
アカウントが作成されると、その顧客情報はShopifyのパーソナライゼーション機能に活用されます。顧客アカウント、セグメント、Shopアプリの再注文機能などが、すべて同じ顧客プロファイルに同期されます。
一度きりの購入を長期的な顧客関係へと発展させるためのヒントは以下の通りです。
- ゲストチェックアウトをデフォルトにします。アカウント作成を強制してはいけません。米国の買い物客の18%は、プロセスが長すぎると感じた場合に購入を断念します。
- サンキューページや最終ステップで「次回のために情報を保存する」という選択肢を表示します。Shop Payのパスキーやワンタップオプトインを活用しましょう。
- アカウントを作成するメリットを明確に伝えます。サインインした顧客は、ウィッシュリスト、保存済みカート、限定割引、セルフサービスの注文管理などを利用できます。
- より迅速な再購入のために自動登録を促します。顧客がオプトインすると、Shop Payは約0.7秒で必要な情報を自動入力し、繰り返し購入時のチェックアウト時間を60%削減します。
- プライバシーを尊重します。オプトインの意思を明確に確認し、ユーザーが顧客アカウントから自身のデータを管理できるようにし、チェックアウト時にプライバシーポリシーへのリンクを表示します。
ゲストチェックアウトから始め、最初の購入を妨げることなく、パーソナライズされた体験を提供するアカウントへとシームレスにアップグレードさせましょう。
5. 海外からの訪問者向けにサイトを最適化する
買い物客は、ストアが自国向けに作られていると感じたときに、より安心して購入します。理解できる言語で閲覧し、見慣れた通貨で価格を確認し、想定外の追加費用が発生しないことを望んでいます。CSA Researchの調査によると、消費者の40%が母国語以外のサイトからは決して購入しないと回答しています。
Shopify Marketsを利用すると、ブラウザの言語設定やIPアドレスに基づき、最大20の言語と136の現地通貨を自動で表示できます。Shop Payのような主要な決済手段に加え、以下のような地域に特化した決済オプションも提供できます。
- ヨーロッパ:Klarna、Sofort、iDEAL、Bancontact
- ラテンアメリカ:PIX、Boleto
- アジア太平洋:Alipay、WeChat Pay
また、Marketsの価格丸め機能を使えば、通貨換算後の価格を「1,980円」や「$19.99」のように、国ごとの商習慣に合った価格に自動で調整できます。さらに、ジオロケーションバナーとShop Promiseを組み合わせることで、海外の顧客も商品ページにアクセスした瞬間に、正確な関税込みの配達日を確認できます。
6. 信頼性を示す
チェックアウト時のセキュリティに対する不安は、特に個人情報の盗難や詐欺が社会問題化する中で、カゴ落ちの大きな原因となっています。Baymardの調査で、買い物客の19%が「クレジットカード情報を安全に取り扱うサイトだと信頼できなかった」ために購入を断念したという事実は、この問題の深刻さを示しています。
チェックアウトページには、利用可能なクレジットカードのロゴ、信頼できる第三者機関の認証シールやバッジを表示し、プライバシーポリシー、配送詳細、FAQ、返品ポリシーへのリンクを分かりやすく配置することを検討してください。
7. リアルタイムの配送見積もりを提供する
現代の買い物客は、荷物が届くのに5〜7営業日も待ちたくありません。2024年5月のデータによると、世界の買い物客の3分の2が、オンライン注文を24時間以内に受け取ることを期待しており、45%が「予想される配達時間を明確に示しているECサイト」を積極的に探しています。
Shop Promiseは、この期待に応えるための機能です。実際の配送業者のデータ、自社の発送処理時間、顧客の郵便番号から、具体的な配達日(「5〜7日」のような範囲ではなく)を予測し、商品ページ、カート、チェックアウト、Shopアプリに表示します。
5日以内に到着可能な商品には緑色の「Shop Promise」ラベルが表示され、利用可能な場合は翌日または2日後の配達オプションも提示できます。この機能は無料で利用可能です。万が一、注文が予定日に間に合わなかった場合、Shopifyが顧客に5ドル分のShop Cashを補填するため、ブランドの信頼を損なうこともありません。
高速チェックアウト体験のメリット
チェックアウトの高速化は、単にカゴ落ちを防ぐだけでなく、ビジネスの成長に直結する多くのメリットをもたらします。ここでは、Shop Payを導入した実例を交えながら、その具体的な効果を見ていきましょう。
コンバージョン率の向上とソーシャルセリングの最適化
スナックブランドのMuddy BitesのようなECストアは、高速チェックアウト体験を活用し、驚異的なコンバージョン率を達成しています。
同社の共同創設者兼CEOであるJarod Steffes氏は、「当社には、非常に高いコンバージョン率と急成長を遂げているワンクリックチェックアウトシステムがあります」と語ります。彼は、同社がShop Pay導入後、1年以内に前年比1,167%という驚異的な成長を遂げたと報告しています。
Shop Payは、PCやモバイルサイトでの購入をシームレスにするだけでなく、InstagramやFacebook上でのダイレクトな購入体験も可能にします。
ブランド再発見の機会創出
顧客がShop Payを使って購入すると、Shopアプリで注文を追跡するオプションが提供されます。スマートフォンで注文状況や配送状況をリアルタイムで追跡できるため、「商品はどこにありますか?」といった問い合わせが減り、カスタマーサポートの負担を軽減できます。
それだけでなく、配送状況を知らせるプッシュ通知は、顧客との継続的な接点を生み出します。これにより、チェックアウトから商品到着までのすべてのタッチポイントが、ブランドを再認識してもらう貴重な機会へと変わります。
リピート購入者の増加
Shopアプリは、アプリ内のショッピングフィードで、顧客の購入履歴に基づいたおすすめ商品を表示します。つまり、Shopは顧客の前回の注文品がまだ手元に届く前から、次の販売を促進してくれるのです。
一例として、Muddy BitesはShopを使い始めてから、リピート顧客の注文完了率が8%向上しました。
まとめ
チェックアウトプロセスは、ECサイトにおける顧客体験の最終地点であり、売上を左右する最も重要な分岐点です。この記事で紹介したように、チェックアウトの高速化は、単に技術的な改善に留まらず、顧客の信頼を獲得し、コンバージョン率を劇的に向上させるための強力な戦略です。
フォームフィールドの削減、Core Web Vitalsの最適化、Shop Payのようなデジタルウォレットの導入、そして信頼性の提示といった施策は、それぞれが顧客のストレスを軽減し、スムーズな購買体験を実現します。特に、一度の購入で終わらせず、Shopアプリなどを通じて顧客との長期的な関係を築くことは、LTV(顧客生涯価値)の向上に不可欠です。
小さな改善の積み重ねが、最終的に大きな成果へと繋がります。自社のチェックアウトプロセスを今一度見直し、顧客が快適に、そして安心して購入を完了できる環境を構築しましょう。





