世界のEコマース市場は、近年急速な成長を遂げています。2024年に約6兆900億ドルと見込まれる世界のEコマース売上は、2028年には8兆900億ドルに達すると予測されており、海外の顧客を視野に入れることは、多くの事業者にとって重要な成長戦略です。
しかし、海外の顧客に商品を届けるには、国内とは異なる複雑な物流体制、すなわち「グローバルフルフィルメント」の構築が不可欠です。これをいかに効率的に行うかが、越境EC成功の鍵を握ります。
本記事では、グローバルフルフィルメントパートナーの選定から良好な関係構築までに必要な視点や注意点を解説します。また、そもそもパートナーは必要なのか、そして変化する顧客の購買行動がフルフィルメント戦略にどう影響するのかについても掘り下げていきます。
グローバルフルフィルメントパートナーが提供するサービスとは?
包括的なサービスを提供するグローバルフルフィルメントパートナーは、いわば「外部のオペレーション部門」です。顧客の近くに在庫を保管し、国境を越えた商品の輸送、返品対応、そして関連する全てのデータをコマースシステムへ連携させることで、事業者の海外展開を物流面から支えます。
具体的には、複数拠点での倉庫管理、注文処理(ピッキング、梱包、組み立て)、多様な輸送手段の手配、越境ECにおける法規制対応(コンプライアンス)、返品処理(リバースロジスティクス)、そして持続可能性への配慮まで、そのサービスは多岐にわたります。
特に、自社のEコマースプラットフォームやERP(統合基幹業務システム)とシームレスに連携できる、透明性の高いテクノロジー基盤を持つパートナーを選ぶことが重要です。手作業での調整が不要になり、数クリックで新たな海外市場へ展開できるため、迅速な投資対効果が期待できるでしょう。
変化する消費者行動がグローバルフルフィルメントに与える影響
消費者の期待は、新しいトレンドやテクノロジー、社会情勢によって常に変化しています。国境を越えてこうした期待に応えるには、「スピード」と「対応力」が鍵となります。
世界中の顧客は、海外からの購入であっても、国内配送と変わらないスピードを期待しています。そして、物流のボトルネックを生じさせることなく商品を国境を越えて届けるには、テクノロジーと物流パートナーの最適な組み合わせが不可欠です。
国際配送は国内配送よりも工程が多いため、迅速な配送を約束する前に、各地域の顧客がどの程度のスピードを「十分に速い」と感じるかをデータに基づいて把握することが重要です。「最も成長している海外市場はどこか?」「現在の配送時間とコストに競争力はあるか?」といった問いを通じて自社の現状を分析し、もし課題が見つかれば、すでに顧客の近くに拠点を構えているグローバルフルフィルメントパートナーの活用を検討すべきです。
グローバルフルフィルメントパートナーは必要か?
急成長中のブランドにとって、自社での物流管理が、かえって利益や顧客体験を損なうようになる転換点が訪れます。複数の地域に倉庫を持ち、越境ECサービスに特化したサードパーティロジスティクス(3PL)プロバイダー、すなわちグローバルフルフィルメントパートナーは、その課題を乗り越えるための強力な助けとなります。
もし、「配送料が平均注文額の15%を超えている」「主要な海外市場への配送に7営業日以上かかっている」「オペレーションチームが、本来注力すべき成長戦略ではなく、請求書や返品ラベルの処理に追われている」といった状況が見られるなら、それはパートナーを探し始めるべきサインかもしれません。
Shopifyと3PLであるFlexportとの連携のように、既存の業務フローにフルフィルメントを統合できるソリューションを活用すれば、注文、在庫、顧客データを一元管理し、ビジネスの成長をさらに加速させることができます。
国際フルフィルメントパートナーを検討する際の考慮事項
レジリエントな(回復力の高い)サプライチェーンは、多くの場合、製造、フルフィルメント、配送におけるリスクを複数のベンダーや拠点に分散させています。これにより、経済の不確実性、倉庫スペースの不足といった不測の事態に直面しても、事業を継続する能力を高めることができます。
しかし、サプライチェーンの多様化は、経済が好調な時には不必要なコストに感じられるかもしれません。好況時と不況時の両方で、国際フルフィルメントが自社のコスト構造に与える影響を考慮し、物流網を多様化しなかった場合のリスク(次の危機で国際注文に対応できなくなるリスク)と比較検討することが重要です。
国際配送の最適化
多くのブランドは、製品の大部分をアジア太平洋地域で生産しています。そこから一度北米に輸入し、さらにヨーロッパへ再出荷している場合、非効率な輸送コストが発生しています。これを最適化するには、アジアの工場から直接ヨーロッパのフルフィルメントパートナーへ出荷し、そこからヨーロッパの顧客へ配送するという、より合理的な物流網を構築すべきです。
倉庫の所有またはリースを回避
自社で倉庫を所有またはリースすると、在庫管理や顧客体験を完全にコントロールできる一方、莫大な固定費が発生します。閑散期には人員が過剰になり、事業環境の変化に応じて固定費を削減するのは困難です。パートナーと提携することで、こうしたリスクを回避し、変動費として物流コストを管理できます。
成長に合わせた価格設定と社内管理の不要化
通常、出荷量が増えれば料金も増えます。しかし、優れたパートナーは、事業の成長に合わせてボリュームディスカウントを提供してくれます。出荷量の増加に伴い、1件あたりのピッキング&パック料金が下がるような価格体系は、コスト削減に大きく貢献します。
また、フルフィルメントを内製化するには専門チームの編成が必要ですが、パートナーに委託すればその必要はありません。特に国際フルフィルメントでは、海外の従業員を直接管理する複雑さを回避できるという大きなメリットがあります。
配送エラーの最小化と長期的なコスト削減
自社で注文処理を始めたばかりの段階では、急な注文増に対応しきれないことがよくあります。現在のチームが注文量の10倍増に対応できないのであれば、100倍増の際には何が起こるでしょうか。適切なパートナーを選べば、事業の成長に合わせて柔軟に物流体制を拡張できます。
国際フルフィルメントパートナーとの契約は、初期費用がかかるため安価ではありませんが、長期的に見れば、この投資によるROIとこれまで述べてきた様々な利点によって、コストを大幅に削減できる可能性があります。
労働者の安全確保
提携する3PLパートナーは、倉庫で働く人々の安全を最優先に考えているべきです。候補となるパートナーと面談する際には、事業継続計画(BCP)の提示を求めましょう。これにより、彼らが従業員の安全を重視しているか、そして不測の事態にどう対処するかを評価する一助となります。
国際フルフィルメントのコスト
自社で倉庫を運営する場合、多くの人員と資本が必要になります。一方、3PLの料金体系は一見シンプルですが、輸入関税への備えが不十分だと、コスト削減効果が相殺されかねません。
関税は国や製品によって異なり、税率も様々です。通常、関税は受取人である顧客に請求されるため、想定外の請求は顧客の信頼を大きく損ないます。これを防ぐには、チェックアウト時に関税などを含んだ最終的な購入価格(ランデッドコスト)を明示し、誰が関税を支払うかを配送ポリシーに記載することが不可欠です。
健全な利益率を保ち、価格の透明性を確保するためには、このランデッドコストを適切に管理する必要があります。そのためには、海外の顧客に近い拠点から国内配送として発送する、オンデマンドの倉庫保管を利用するといった戦略が有効です。
Shopify Managed Marketsがグローバルコマースをどう支援するか
150カ国以上での販売は魅力的ですが、市場ごとに異なる付加価値税(VAT)の登録、製品規制、決済方法といった複雑な課題に直面します。Shopify Marketsは、ストアの管理権限は事業者が維持したまま、そうした越境ECの複雑な業務を簡素化するサービスです。
Managed Marketsを有効にすると、提携するGlobal-eが全ての国際注文における法的な販売事業者となり、各国の税登録、VATの送金、書類作成、コンプライアンスに関するリスクを全て代行します。事業者は注文を処理し、関税や税金が差し引かれた売上を米ドルで受け取るだけです。
顧客は支払い前に保証された関税額を確認でき、万が一実際の請求額がそれを上回った場合はGlobal-eが差額を負担します。これにより、カート離脱率の低減や、想定外の料金に関する問い合わせの削減が期待できます。
まとめ
越境ECの成功は、単に商品を海外に発送するだけでなく、いかに効率的で信頼性の高いグローバルフルフィルメント体制を構築するかにかかっています。自社での物流管理が成長の足かせになり始めた時、専門的な知識とインフラを持つグローバルフルフィルメントパートナーは、コストを最適化し、顧客体験を向上させるための強力な解決策となります。
パートナー選定にあたっては、自社のコマースプラットフォームとの連携性や、事業規模の拡大に合わせた柔軟な価格体系を持つかどうかが重要な判断基準です。Shopify Marketsのようなサービスを併用すれば、複雑な関税や法規制への対応も簡素化できます。適切なパートナー戦略を立て、グローバル市場でのビジネス成長を加速させましょう。





