チャージバックは、単なる管理上の手間ではありません。2025年だけで337億ドル以上が小売業者のポケットから消えると予測されており、EC事業者にとって深刻な収益の流出源となっています。一度は得たはずの売上が、たった一度のクリックで消えてしまうのです。
幸いなことに、業界も進化しています。Visaの「説得力のある証拠3.0」ルールにより、不正利用の主張に対して、過去の取引履歴などを提示して反証することが可能になりました。また、Shopify Protectのようなサービスは、対象となる取引で発生した不正チャージバックの金銭的負担を事業者に代わって吸収します。
この記事では、チャージバックが発生する背景から、具体的な9つの防止策、そして発生してしまった際の対処法まで、EC事業者が取るべきアクションを網羅的に解説します。この記事を読めば、不正な取引を減らし、チャージバックからビジネスを守るための強固な体制を築くことができるでしょう。
なぜチャージバックは起こるのか
チャージバックの現状を理解することは、効果的な対策を講じるための第一歩です。ここでは、チャージバックの発生件数に関する最新の予測データや、その主な原因、そして特に近年増加している「第一者不正(フレンドリー詐欺)」の実態について詳しく解説します。
世界のチャージバック件数は急速に増加しており、2028年までには年間3億2,400万件に達すると予測されています。これは2025年から24%の増加です。
問題なのは、誰がこれらの異議申し立てを行っているかです。現在、不正利用に関連するチャージバックは全体の約45%を占め、そのうちのほぼ半分は、カード所有者が意図的に自身の購入に対して異議を申し立てる「第一者不正(フレンドリー詐欺)」によるものです。
一般的なチャージバック申請の種類
- 不正利用: 盗まれたカード情報などで、第三者が不正に注文した場合。
- 身に覚えのない請求: 購入者が請求明細を見て、取引内容を認識できない場合。
- 二重請求: 同じ商品に対して二度請求されたと顧客が考えた場合。
- サブスクリプションのキャンセル: 顧客が解約したと思っていた、または更新通知を期待していたにもかかわらず、定期的な請求が発生した場合。
- 商品未受領: 注文した商品が届かない、または大幅に遅れた場合。
- 商品への不満: 届いた商品が破損、欠陥、または商品説明と著しく異なっていた場合。
- 返金未処理: 商品を返品したにもかかわらず、返金が確認できない場合。
第一者不正(フレンドリー詐欺)の増加
第一者不正は、カード所有者本人、あるいはその家族が、正当な購入に対して異議を申し立て、商品を保持したまま返金を強要する行為です。この種の不正は他のどの紛争よりも速いペースで増加しており、小売業者の利益を圧迫しています。ある調査では、消費者の43%が、経済的な困窮などを理由に、少なくとも一度は不当な異議申し立てを行ったことがあると認めています。
チャージバックを防ぐ9つの戦略
チャージバックは、発生してしまってから対処するよりも、未然に防ぐことが最も重要です。ここでは、日々のECサイト運営の中で実践できる、チャージバックを効果的に防ぐための9つの具体的な戦略を解説します。
1. 不審な注文を精査する
深夜2時に行われた600ドルの注文など、少しでも違和感のある注文は、出荷前にShopifyに組み込まれている不正分析ツールで確認しましょう。IPアドレスと配送先住所が大きく離れている、複数のカードが試されている、といった危険信号を検出し、リスクレベルを判定してくれます。
2. ポリシーをあらゆる場所で明示する
顧客は、不意打ちを食らったと感じたときにチャージバックのボタンをクリックしやすくなります。返品、配送、保証に関するポリシーを、ヘッダー、フッター、商品ページ、チェックアウト画面など、顧客が情報を探しそうなあらゆる場所に明記することで、これを未然に防ぎましょう。
3. 正確な商品説明と画像を提供する
「説明と異なる」という理由でのチャージバックを防ぐため、ズーム可能な多角的な商品写真や、素材感がわかるクローズアップ画像を用意しましょう。重量、寸法、素材といった正確な仕様を記載することも重要です。
4. 請求明細の記述を分かりやすくする
58%以上のカード所有者が請求明細の記述が分かりにくいと感じており、これが原因で27%の確率で紛争が発生しています。「PAY*123456」のような曖昧な文字列ではなく、「ストア名 – 商品名」や「ブランド名 – サブスクリプション」のように、誰が見ても分かる明確な記述に変更しましょう。
5. 詳細なデジタルレシートを送信する
購入商品、税金、割引、そして自社のロゴが記載されたデジタルレシートは、取引に関する混乱から生じる不正利用を減らすのに役立ちます。詳細なレシートとリアルタイムの追跡情報は、顧客に証拠と安心感を提供し、問題が発生した際に銀行ではなく、まず事業者に連絡するよう促します。
6. まず返金し、後で問題解決にあたる
正当な苦情(二重支払いや破損品の配送など)である場合は、銀行を介さずに1時間以内に返金処理を行い、顧客に連絡しましょう。自発的な返金は、顧客との良好な関係を維持し、クリーンなチャージバック率を保ち、正式な紛争にかかる時間、手数料、そして潜在的なペナルティよりもコストを低く抑えられます。
7. 顧客からの問い合わせに迅速に対応する
顧客がすぐに連絡を取れないと、代わりにカード発行会社に電話をかけます。ある調査では、消費者の84%が、何か問題があった際にはまず銀行に連絡すると回答しています。商品ページや注文状況ページにライブチャットを埋め込み、5分以内の応答時間を目標とすることで、問い合わせが銀行への申し立てにエスカレートするのを防ぎます。
8. AVS承認済み住所にのみ発送する
住所確認サービス(AVS)の結果が、住所と郵便番号の一致を示すコード(YまたはM)である場合にのみ、発送を行いましょう。それ以外の結果が出た場合は、注文を保留し、購入者に連絡して確認を取ることが推奨されます。これにより、不正利用に対する有力な証拠を確保できます。
9. Shopify Protectを有効にする
Shop Payには現在、無料のShopify Protectが含まれており、対象となる米国内の注文における不正チャージバックの責任を、事業者からShopifyに移すことができます。設定を有効にし、7日以内に発送して追跡情報を追加するだけで、不正利用の紛争が発生した場合に、売上金額とチャージバック手数料が補償されます。
チャージバック管理と不正利用削減のためのツール
チャージバック対策を効率的かつ効果的に行うためには、適切なツールの活用が不可欠です。ここでは、Shopifyが提供する標準機能から、専門的なサードパーティアプリまで、不正利用を削減し、チャージバック管理を自動化するためのツールを紹介します。
Shopify PaymentsとShopify Flow
Shopify Paymentsは、すべての取引データを一元管理し、紛争解決プロセスを自動化します。さらにShopify Flowを使えば、「もしこうなったら、こうする」というワークフローを自由に構築できます。例えば、不正リスクが高い注文に自動でタグを付けたり、リスクが低ければ即座に支払いを確定させたり、逆にリスクが高ければ自動で注文をキャンセル・返金したりすることが可能です。
サードパーティアプリ
- Chargeflow: 取引後の回収に特化し、紛争の証拠を自動的に収集・提出します。
- Signifyd: グローバルなデバイスフィンガープリンティングとネットワークコンソーシアムのデータを活用し、正当な注文をより多く承認し、第一者不正をブロックします。
- NoFraud: 数百の独自のデータポイントを通じて各取引を審査し、即座に合否判定を下します。
まとめ
チャージバックを完全にゼロにすることは難しいかもしれませんが、この記事で紹介した戦略とツールを組み合わせることで、その発生率を大幅に引き下げ、発生した際の損害を最小限に抑えることは可能です。
重要なのは、不正利用を未然に防ぐための予防策、顧客との円滑なコミュニケーション、そして発生してしまった不正に対しては断固として反証し、安易に受け入れない姿勢です。Shopify Paymentsのような統合されたシステムを活用し、チャージバックに強いビジネスを構築しましょう。





