新規顧客の獲得競争が激化し、広告費をはじめとする獲得コストは年々上昇しています。多くの企業が、絶えず新しい顧客を追い求めることにリソースを割いているのが現状です。
しかし、その一方で、一度関係を築いた既存顧客との長期的な関係構築、つまり「顧客をファンにし、ブランドを長く愛用してもらう」という視点が見過ごされがちではないでしょうか。短期的な売上だけを追うあまり、最も重要な資産であるはずの顧客との繋がりが希薄になってしまうケースは少なくありません。
本記事では、こうした課題を乗り越え、ビジネスを持続的に成長させるための鍵となる「顧客生涯価値(CLV:Customer Lifetime Value)」に焦点を当てます。基本的な定義から、なぜCLVが重要なのか、具体的な計算方法、そして明日からでも実践できる8つの向上施策までを分かりやすく解説します。
顧客生涯価値(CLV)とは?
顧客生涯価値(CLV)とは、一人の顧客が、あなたのビジネスと取引を開始してから終了するまでの全期間にわたって、もたらしてくれる利益の総額を示す指標です。単発の売上ではなく、顧客との長期的な関係性から得られる価値を測るための重要な考え方です。
例えば、ある顧客が初回に2万円の商品を購入したとします。もしその一度きりで終わってしまえば、その顧客の価値は2万円です。しかし、商品を気に入ってくれて、その後5年間にわたって年4回、平均2万円の買い物を続けてくれた場合、CLVは「2万円 × 4回/年 × 5年 = 40万円」となり、企業にとって非常に価値の高い顧客であると評価できます。
なぜCLVがビジネス成長に不可欠なのか
CLVは、単なる一つの指標にとどまらず、マーケティング戦略や予算配分、顧客サービスのあり方を方向づける指針となります。
収益の安定化と予測
CLVを把握することで、将来の収益をより正確に予測できます。安定した収益基盤を持つ優良顧客がどれだけいるかを可視化することで、事業計画の精度を高め、安定した経営判断を下すことが可能になります。
顧客ロイヤルティと収益性の向上
繰り返し購入してくれるロイヤルティの高い顧客は、時間の経過とともにより多くの利益をもたらしてくれます。また、満足度の高い顧客は、友人や知人に商品を推薦してくれることもあり、新たな顧客を呼び込む貴重な存在にもなり得ます。
マーケティング投資の最適化
CLVを分析することで、どの顧客セグメントが最も収益性が高いかを特定できます。これにより、最も価値の高い顧客層にマーケティング予算を集中させたり、逆にCLVの低い層にはコストを抑えたアプローチを選択したりと、データに基づいた効率的な資源配分が可能になります。
CLVの計算方法
CLVには様々な計算方法がありますが、ここでは最もシンプルで基本的な計算式を紹介します。
CLV = 平均購買単価 × 平均購買頻度 × 平均顧客寿命
- 平均購買単価: 一回の購入で顧客が支払う平均金額(総売上 ÷ 総購入回数)
- 平均購買頻度: 特定の期間内に顧客が購入する平均回数(総購入回数 ÷ 総顧客数)
- 平均顧客寿命: 顧客が自社の製品やサービスを買い続ける平均的な期間
これらの数値を自社のデータから算出し、掛け合わせることで、CLVのおおよその値を把握できます。
CLVを向上させる8つの具体的な施策
CLVを高めることは、顧客一人ひとりとより深く、より長い関係を築くことに他なりません。ここでは、そのための具体的な8つの施策を紹介します。
1. 優れた顧客サポートの提供
顧客が問題を抱えたときに迅速かつ丁寧に対応することは、信頼関係を築く上で不可欠です。期待を超えるサポートは顧客満足度を劇的に高め、「このブランドなら安心だ」という印象を与え、リピート購入へと繋がります。Shopify Inboxのようなチャットツールを活用すれば、オンラインストアやSNS、メールなど、顧客が普段利用するチャネルで一貫したサポートを提供でき、会話の中から新たな販売機会を生み出すことも可能です。
2. 顧客の声を積極的に収集・分析する
顧客からのフィードバックは、商品やサービスを改善するための貴重な情報源です。アンケートやレビュー機能を設けて顧客の意見を収集し、その内容を真摯に受け止め、改善に活かす姿勢を示すことで、顧客は「自分の声が届いている」「ブランド作りに参加できている」と感じ、エンゲージメントが深まります。これにより、顧客のニーズに合わない商品開発のリスクを減らし、長く愛されるブランドを築くことができます。
3. パーソナライズされたマーケティング
顧客データに基づき、一人ひとりに合わせたマーケティング施策を展開します。「自分だけに向けられたメッセージだ」と感じてもらうことが重要です。過去の購入履歴から関連商品を推薦したり、興味のありそうな商品が再入荷した際に通知を送ったりすることで、顧客は自分のことを理解してくれていると感じ、画一的な広告よりもはるかに高い確率で購入に至ります。
4. ロイヤルティプログラムの導入
ポイント制度や会員ランク、限定特典などを用意し、継続的に購入してくれる顧客に報いる仕組みを作ります。顧客は「買い物を続けるとお得になる」と感じるため、他社への乗り換えを防ぐ効果があります。Smileのようなアプリを使えば、購入金額に応じたポイント付与や、友人紹介による特典など、エンゲージメントを高めるための多様なプログラムを簡単に導入できます。
5. アップセルとクロスセル
顧客が購入を検討している商品よりも高価格帯の上位モデルを提案する「アップセル」や、関連商品を一緒に提案する「クロスセル」は、平均購買単価を高める上で効果的です。購入履歴や閲覧履歴に基づき、「この商品を買った人にはこちらもおすすめです」といった形で、顧客にとって本当に価値のある提案をすることが成功の鍵です。これにより、顧客は新たな商品の魅力に気づくきっかけを得られ、満足度向上にも繋がります。
6. サブスクリプションモデルの導入
消耗品や定期的に必要となる商品であれば、サブスクリプション(定期購入)モデルを導入することで、顧客との継続的な関係を築き、安定した収益を生み出すことができます。一度契約すれば解約しない限り売上が継続するため、事業の見通しが立てやすくなるという大きなメリットがあります。Shopify Subscriptionsアプリなどを活用すれば、柔軟な定期購入プランを手軽に設定できます。
7. コミュニティを形成し、限定感を提供する
SNSや会員限定のオンライングループなどを通じて顧客同士が繋がる場を提供し、ブランドを中心としたコミュニティを形成します。顧客は単なる消費者ではなく、ブランドの一員であるという意識を持つようになります。VIP顧客向けの限定イベントや先行販売など、特別な体験を提供することで、顧客の帰属意識とブランドへの愛着を育み、強力なファンベースを構築できます。
8. 顧客セグメンテーションの実施
全ての顧客を同じように扱うのではなく、CLVに基づいて顧客をグループ分け(セグメンテーション)し、それぞれのグループに最適化されたアプローチを行います。例えば、高CLVの優良顧客には手厚いサポートと特別なオファーを、しばらく購入のない休眠顧客には「お久しぶりです」のクーポンを提供するなど、顧客の状態に合わせたきめ細やかなコミュニケーションによって、マーケティング効果を最大化できます。
まとめ
顧客生涯価値(CLV)の向上は、単に目先の売上を伸ばすためのテクニックではありません。顧客一人ひとりと真摯に向き合い、長期的な信頼関係を築くことで、結果としてビジネスを安定的に成長させていくための本質的な取り組みです。
今回紹介した施策は、すべて「いかにして顧客体験を向上させるか」という問いに繋がっています。まずは自社のCLVを算出して現状を把握し、できそうなことから一つでも始めてみてはいかがでしょうか。





