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本記事は、Shopifyが海外で公開した事例・機能解説をもとにした翻訳記事です。内容の性質上、一部に日本では現在ご利用いただけない機能・サービスが含まれます。日本での提供状況は、記事末尾の「日本市場での注意点」にまとめていますので、あわせてご確認ください。
オンラインでの情報発信や顧客接点と、実店舗での購買体験が同等に重要視される現代において、オンラインからオフラインへの顧客誘導、すなわちO2O(Online-to-Offline)コマースは、もはや先進的な戦略ではなく、ビジネスに必須の要素となっています。
優れたO2Oマーケティング戦略は、オンラインチャネルで見つけた潜在顧客を実店舗へと導き、エンゲージメントを深め、売上を拡大する一貫した顧客体験を創出します。
しかし、O2Oキャンペーンを成功させるには、いくつかの要素が不可欠です。それは、顧客への深い理解、販売チャネル間のスムーズな連携、そして収集済みのファーストパーティデータを活用し、顧客がいるその場所で心に響く体験を提供するパーソナライゼーションです。
本ガイドでは、O2Oマーケティングの効果的な実践方法、キャンペーンを大規模にパーソナライズするためのツール、そして先進的な小売企業が採用している具体的な戦略をご紹介します。
変化する消費者行動と新しい常識
現代の顧客が商品を購入するまでの道のりは、ますます多様化し、オンラインとオフラインを自由に行き来するようになりました。もはや単一のチャネルで完結することは稀です。
eMarketerのレポートでは、「実店舗小売は復活を遂げている。その背景には、小売業者が物理戦略とデジタル戦略を統合し、ECでは再現できない体験を提供していることがある」と結論づけています。
この傾向は特に若い世代で顕著です。Z世代は、ソーシャルメディアで商品を発見する割合が他の世代の2倍にのぼる一方で、購入場所としては依然として実店舗を最も好んでいます。これは、これまで若者へのアプローチに最適とされてきたECサイトやソーシャルコマースを上回る結果です。
また、店舗での受け取りサービス(BOPIS:Buy Online, Pick up In-Store)やカーブサイドピックアップといった新しいフルフィルメントの選択肢は、あらゆる世代の買い物客に支持されています。これらの「クリック&コレクト」による米国内での小売売上は、2025年までに1,543億ドルに達すると予測されています。
このように変化する顧客の期待に応えるためには、オンラインとオフラインのチャネルをシームレスに連携させることが不可欠です。このアプローチは一般的に「オムニチャネル」と呼ばれますが、Shopifyの最高収益責任者であるボビー・モリソンは「あなたのビジネスがオムニチャネルを目指しているなら、すでに時代遅れだ」と指摘します。
Shopifyが提唱する「統合コマース」は、オムニチャネルのさらに先を行くアプローチです。商品、注文、顧客データを単一のコマースOSに集約し、顧客向けのフロントエンドとビジネス運営を支えるバックエンドの両方に、一貫した体験をもたらします。
O2Oマーケティングとは何か?
O2Oマーケティングとは、オンライン上の顧客を実店舗での購買体験へとつなげる戦略です。ソーシャルメディア、メール、モバイルアプリといったオンライン施策と、地域に根差したローカルマーケティングを融合させ、顧客がどのチャネルでブランドに接しても、一貫性のあるスムーズな体験を提供します。
例えば、近接マーケティング技術を活用し、店舗の近くにいる顧客のスマートフォンにアプリのプッシュ通知を送信できます。さらに、最近オンラインで購入した商品に関連する特典をプレゼントするなど、パーソナライズされた情報を届けることで、来店を効果的に促せます。
O2Oマーケティングは、常設店舗を持たないブランドでも実践可能です。例えば、スーツケースブランドのBÉISは、ポップアップストアから実店舗展開をスタートしました。同社CEOのアディーラ・フセイン・ジョンソンは、「ポップアップは、ブランドを確立し、お客様との関係を築く絶好の機会です」と語ります。
「私たちがポップアップをユニークな形で実施できるのは、来店者数や売上といったKPIだけを追い求めないからです。本当に重要なのは、お客様の声に耳を傾け、ブランドストーリーを楽しく、没入感のある方法で伝えることなのです。」
この戦略は功を奏し、BÉISのポップアップストアを体験した顧客は、その後の12ヶ月間の顧客生涯価値(LTV)が20%も高くなるという結果が出ています。「ポップアップの期間中、トラフィックは平均30%、収益は平均10%増加します」とアディーラは付け加えます。
O2Oマーケティングにおけるパーソナライゼーションの重要性
パーソナライゼーションは、単なるマーケティング戦術ではなく、顧客と深く関わるための包括的なアプローチです。O2Oマーケティングにおいて、個々の顧客に合わせたコミュニケーションを通じて、自分が認識され、大切にされていると感じてもらうことは、顧客ロイヤルティと売上の向上に直結します。
今年は、基本的な顧客情報を用いて体験をパーソナライズするシニアマーケターの数が、昨年の約2倍に増加しました。しかし、本当のパーソナライゼーションは、メールの件名に名前を入れるだけでは終わりません。消費者の約70%が、店舗スタッフが自分のことや過去の購入履歴を把握した上で、パーソナライズされた接客をすることを重要だと考えています。
これを可能にするのが、ファーストパーティデータです。これは、企業が自社で収集した、顧客の購入商品、閲覧履歴、メールのクリック、店舗での購買記録といった貴重な情報です。
O2O戦略を成功に導く主要素
ファーストパーティデータ
かつて主流だったブラウザのCookieのようなサードパーティデータは、その役割を終えつつあります。Google ChromeやAppleのSafariといった主要ブラウザがCookieによる追跡を廃止したことで、サイトを横断したユーザー行動の正確な把握はもはや不可能です。
現代のパーソナライズされたO2Oマーケティングにおいて、ファーストパーティデータは「金」のような価値を持ちます。自社で収集・所有するこのデータを活用することで、顧客が誰で、何を好み、どのように行動するのかを深く理解するための基盤を築くことができます。主なデータソースは以下の通りです。
- ウェブサイト、アプリ、製品の分析データ
- POS(販売時点情報管理)システム
- 顧客からのフィードバックやレビュー
- ソーシャルメディアアカウント
- 顧客アンケート
- メールマーケティングプラットフォーム
- CRMデータ
- ロイヤルティプログラム
O2Oマーケティングで成功を収めるには、ファーストパーティデータを軸にEC戦略を再構築し、顧客との信頼関係を育みながら、よりコンバージョン率の高い、パーソナルなショッピング体験を創造する必要があります。
Shopifyは、このパーソナライゼーションの重要性を深く理解しています。統合された顧客データモデルは、プラットフォーム全体で一貫したショッピング体験の構築を支援し、オンラインでのエンゲージメントを効果的に実店舗での購買へとつなげる、的確なマーケティング戦略の立案を可能にします。
Shopifyは、顧客データを収集・分類するための中央リポジトリとして機能し、以下のようなあらゆるデータを統合プロフィールとして一元管理します。
- 物理的な所在地
- Klaviyoのメールキャンペーンでクリックしたリンク
- POSシステムに記録された店舗での売上
- 購入後のアンケートで得られた回答
- 好みの配送方法と決済方法
これらのデータをもとに、顧客を共通の特性に基づいてグループ分けする「セグメンテーション」が可能です。例えば、店舗から半径10km圏内に住む顧客をターゲットに、店舗で利用できる割引コードを送付して来店を促す、といった地理的なアプローチが考えられます。
さらにパーソナライゼーションを深めることもできます。例えば、最近購入した商品に関連する製品の割引コードを送ったり、地理的セグメントをさらに絞り込んでVIP顧客のみにアプローチしたりすることも可能です。店舗での購入時にロイヤルティポイントを2倍にするなど、顧客維持率を高める施策も有効でしょう。
ターゲットを絞ったアウトリーチと顧客獲得
顧客獲得コストは、過去8年間で222%も上昇しました。インフレ、競争の激化、そしてホリデーシーズンが近づく中で、このコストがすぐに下がる見込みはありません。
ここで、実店舗を持つオムニチャネル小売業者は、オンライン専業ブランドに対して優位に立てます。顧客を店舗に招き、直接対話することで、ブランドの個性を伝え、商品を実際に手に取ってもらい、信頼関係を築くことができるからです。
しかし、最も難しい課題は、いかにして店舗への来店を促すかです。ファーストパーティデータは、このアウトリーチをパーソナライズする上で大きな力を発揮します。例えば、以下のようなO2Oマーケティング戦略が考えられます。
- 一定期間来店していない顧客をセグメント化し、Klaviyoを使って店舗限定の割引コード付きメールを送り、再来店を促す。
- 旅行関連のクイズで「ニューヨークに行く予定」と答えた顧客をセグメント化し、ニューヨークでのおすすめ(自社店舗への訪問を含む)を紹介するメールマガジンに自動登録する。
- 近接マーケティングを活用し、店舗の近くにいる人々にプッシュ通知を送り、期間限定の特典を知らせる。
たとえ来店してもらっても、その顧客がすぐに購入するとは限りません。しかし、家具・インテリア小売のParachuteは、そうした顧客を「失われた機会」とは見なしません。Shopify POSを通じて統合されたデータを活用し、店舗で接客した販売員から後日フォローアップメールを送るなど、オンラインとオフラインを融合させたきめ細やかな体験を提供しています。
創業者であるアリエル・ケイは、「私は店舗を『関係性のハブ』だと考えています。お客様が私たちのことを知り、私たちがお客様のことを知るための場所なのです」と語ります。
パーソナライズされたストアフロント
顧客が真に求めているのは、パーソナライズされた体験です。それは店舗での接客だけでなく、ECサイトのようなオンラインチャネルでのやり取りから始まります。すべての訪問者に同じコンテンツを表示する画一的なウェブサイトは、もはや時代遅れです。
Shopifyのような拡張性の高いコマースプラットフォームなら、収集したファーストパーティデータに基づき、ウェブサイトのコンテンツを大規模にパーソナライズできます。以下はその一例です。
- 配送先住所が店舗から10km圏内の顧客には、最寄り店舗を案内するお知らせバーを表示する。
- 店舗で「レディースドレス」カテゴリーの商品を購入した顧客には、ホームページのカルーセルで関連商品(人気の靴やジュエリーなど)を表示する。
- オンライン注文で店舗受け取りを利用した顧客には、当日配送や最寄り店舗ですぐに受け取れる商品を表示する。
パーソナライズすべきはオンラインストアだけではありません。実店舗での体験も、個々の顧客に合わせてカスタマイズできます。そして、その成否は、企業のテクノロジー基盤に大きく左右されます。
Shopify POSアプリは、一元化された顧客プロフィールと連携しており、顧客の名前やメールアドレスを尋ねるだけで、過去のあらゆるインタラクション情報をモバイルPOSシステムで確認できます。
- 購入した商品
- 利用した購入チャネル
- 参加したセール
- 獲得したロイヤルティポイント
- アンケートでの回答
例えば、店舗スタッフが、ある顧客のプロフィールを確認したとします。その顧客は3年以上前に初めて購入し、これまでに12回も注文しているロイヤルカスタマーで、お気に入りの乾燥肌用保湿液を繰り返し購入しています。
この場合、スタッフはその保湿液の利点を改めて説明する必要はありません。代わりに、乾燥肌向けのスキンケアセットをアップセルしたり、関連する角質ケア商品をクロスセルしたりすることで、よりパーソナライズされた接客ができます。
これは、顧客と企業の双方にとって有益です。顧客は新しいお気に入りの商品に出会え、企業は製品への愛着を深め、顧客生涯価値を高める機会を得られます。
シームレスなチェックアウトプロセス
顧客体験の成否は、チェックアウトで決まると言っても過言ではありません。これは初めての顧客だけでなく、既存のロイヤルカスタマーにも当てはまります。ある調査では、たった一度のネガティブな体験が原因で、愛用していたブランドから離れてしまう顧客がいると報告されています。その原因が、煩雑なチェックアウトプロセスにある可能性は十分に考えられます。
チェックアウト体験を最適化することは、顧客を購入完了へと導く最後のひと押しになります。ShopifyのShop Payのような革新的な決済技術は、収集済みのファーストパーティデータを活用し、オンライン・オフラインを問わず、迅速で安全な取引を実現します。
Shop Payのアカウントを持つ顧客は、支払い情報をデジタルウォレットに安全に保存できます。これにより、注文時には数秒で決済が完了します。Shop Payのコンバージョン率が競合サービスを最大36%も上回っているのは、この利便性によるものです。
Shop Payの優れた点は、どこで購入する場合でもスムーズな決済体験を提供できることです。
- ECサイトでの支払い
- Shopアプリでの注文
- Shop Pay Installmentsを利用した店舗での分割払い
迅速なチェックアウトは、O2Oマーケティングにおける重要な要素の一つです。多くの小売業者は、実店舗をミニ配送センターとしても活用しています。顧客はオンラインで注文し、最寄りの店舗ですぐに商品を受け取ることができます。これにより、送料を節約できるだけでなく、店舗スタッフが顧客と直接関係を築く貴重な機会が生まれます。
このようなオンラインとオフラインをまたぐ取引を円滑に進めるには、それを支えるコマースプラットフォームの能力が不可欠です。例えば、MonosはShopifyを活用して、在庫、売上、顧客データを一つのプラットフォームで一元管理しています。
同社のリテールオペレーションディレクター、アニタ・イェは次のように語ります。「Shopifyのリアルタイムで一元化された在庫管理は非常に役立ちます。オンラインチームがお客様対応をする際に、最寄り店舗の在庫を確認し、その日のうちに受け取れるよう商品を取り置くことができます。」
「逆に、店舗スタッフがお客様の探している商品の在庫がない場合に、倉庫の在庫を確認し、休暇前にご自宅へ配送する手配をすることも可能です。」
O2Oマーケティングを加速させるShopifyエコシステム
Shopifyは、オンラインでの閲覧とオフラインでの購入の間のギャップをシームレスに埋めるための一連のツールを提供しています。
- Shopifyセグメンテーション: 顧客プロフィールを共通の特性や行動に基づいてグループ分けします。これらのセグメントを活用し、特定のグループへのターゲットメール配信やオンラインストアのパーソナライズといったO2Oマーケティングを自動化できます。
- Shopify Audiences: オンラインでの行動履歴に基づき、購入見込みの高い顧客をターゲットにします。このリターゲティングリストを使ってFacebook、Instagram、Google広告で人々にアプローチし、実店舗へ誘導します。このツールは、リターゲティングによるコンバージョンを2倍に、顧客獲得コストを最大50%削減することが実証されています。
- Shopify Collabs: ターゲット顧客がフォローするインフルエンサーとブランドを結びつけ、ユーザー生成コンテンツの作成やインフルエンサーへのサンプル提供などを、すべてShopifyの管理画面内で完結できるアプリです。
- Shopify POS: オンラインで得た顧客インサイトを実店舗での接客に活かし、あらゆる顧客接点で一貫性のあるパーソナライズされた体験を保証します。
これらのマーケティングおよびパーソナライゼーションツールは、オンラインから実店舗への顧客誘導をスムーズにするだけでなく、戦略的に効果の高いものにします。
例えば、興味のある商品が在庫切れの店舗に顧客を誘導しても意味がありません。Shopifyの統合された在庫データを使えば、商品ページにリアルタイムの在庫数を表示できます。顧客は在庫を確認した上でオンラインで商品を予約し、最寄りの店舗で受け取ることが可能になります。
さらに、Shopifyの広範なパートナーエコシステムは、データに基づいたマーケティング戦略をさらに強化します。店舗とオンラインの両方で利用できるロイヤルティプログラムや商品セット販売など、あらゆる施策がShopify上で統合されます。
統合コマースOSでO2Oマーケティングを成功に導く
O2Oマーケティングは単なる流行り言葉ではありません。顧客との接点が多様化する現代において、顧客ロイヤルティを深め、一貫したショッピング体験を提供したいすべての小売業者にとって、不可欠な戦略です。
Shopifyは、その包括的なツールと連携機能により、変化し続ける市場環境に小売業者が適応できるよう、他にない独自のポジションを築いています。
複数のソースから得たファーストパーティデータを統合された顧客プロフィールに集約し、セグメンテーションによってグループ分けし、マーケティングオートメーションを駆使することで、現代の買い物客が求めるパーソナライズされた体験を、あらゆる場所で提供できるのです。
日本市場での注意点
この記事で紹介されているShopifyの主要機能について、日本での利用可能状況は以下の通りです。
✅ 日本で利用可能な機能
- Shopify POS: 実店舗とオンラインの在庫・売上同期システム。
- Shopifyセグメンテーション(Shopify Segments): 顧客データに基づき、ターゲットとなる顧客群を作成・分類する機能。
- Shop Pay: ワンタップでの安全で高速なチェックアウト。
❌ 日本で現在利用不可または一部制限のある機能
- Shopify Audiences: デジタル広告向け顧客リスト生成(Shopify Plusで利用可能、対象はUS・CAの顧客のみ)。
- Shopify Collabs: インフルエンサーマーケティング連携アプリ(現在、対象となるクリエイターは米・英・カナダ在住者に限定)。
- Shop Pay Installments: 米国限定の分割払い機能。
出典: Win Online and Retail Using O2O Marketing to Boost Sales





