ECサイトで商品をカートに追加する瞬間は、顧客体験の中でも特に重要なタイミングです。ここでカスタマージャーニーは商品をただ閲覧する段階から、購入を具体的に検討する段階へと切り替わります。
しかし、選んだECカートシステムのチェックアウトフローが複雑だったり、顧客が希望する決済方法がなかったりすると、顧客が購入手続きを完了する前に離脱するカゴ落ちにつながってしまうリスクがあります。そのため、ECサイトに最適なカートシステムを選び、スムーズで快適なショッピング体験を提供することが重要です。
この記事では、ECカートシステムの基本的な役割と種類、Shopify(ショッピファイ)をはじめとする初心者でも始めやすい国内で人気のECカートシステムを解説します。
おすすめの販売プラットフォームや低コストで始められるプラットフォームからどれを選べばよいかわからないという事業者は、ぜひ参考にしてしてください。
ECカートシステムとは?

ECカートシステムとは、オンラインショップを訪問した顧客が商品を選択、保存、購入、管理できるソフトウェアです。購入したい商品をカートに追加し、数量を変更し、決済を完了するという一連の注文処理が行えます。ECカートシステムを導入することで、注文が一元管理できるようになり、ECサイト運営の業務負担を軽減できるだけでなく、顧客情報の一元管理やデータ収集なども可能になります。
ECカートシステムの種類

自社専用のECサイトを構築できるECカートシステムには主に2つのタイプがあります。
ASP型カートシステム
クラウド型のECカートシステムで、ASP(Application Service Provider)がネット経由でカート機能をレンタル提供する方式のサービスです。SaaS型サービスとも呼ばれます。サーバーの準備やインストールが不要で、短期間で安価にECサイトを開設できる点がメリットです。
決済・在庫・顧客管理など基本機能が標準装備されており、提供事業者が保守・更新対応を行うため、ECサイトのセキュリティやバージョンアップも自動で提供されます。カスタマイズ性については、テンプレートや設定範囲内での構築に限られ、独自機能の追加には制限があります。
ECパッケージ型カートシステム
商品管理・在庫・注文・決済・顧客管理などEC運営に必要な機能があらかじめパッケージとしてまとまっているソフトウェアです。ソフトウェアの購入後、自社サーバーまたはクラウドサーバーに導入し、運営・保守は自社で行います。
デザインや機能の柔軟なカスタマイズが可能で、外部システム連携などにも対応しています。一般的にASP型よりは初期費用・運用コストが高額になります。ソフトウェアを無料で提供するオープンソースのECパッケージも存在します。
ECカートシステムの主な機能

ECカートシステムの基本機能は、「商品を選択しカートに入れる」「カートに入れた商品を決済する」の2つです。また、これらの機能に付随して、商品や注文の管理機能などが備わっています。
カート機能
カート機能は、ユーザーが商品を選択してカートに追加する仕組みで、ECカートシステムのコアとなる機能です。カートに保存したまま別の商品選択に戻ったり、商品を追加・削除したりする操作が可能となります。
決済機能
決済機能は、ユーザーがカートに保存した商品の代金を支払う方法を提供します。ECカートシステムごとに提供サービスは異なりますが、クレジットカード決済、キャリア決済、コンビニ決済、後払い、モバイル決済など各種方法に対応していることが一般的です。
受注管理機能
受注管理機能は、顧客からの注文情報をデータ化して管理する機能です。注文日、商品、個数、金額、届け先住所、出荷状況などをデータ化することにより、過去の注文データの内容やステータスを確認することに利用できます。
商品管理機能
商品管理機能は、ECサイトで販売する商品を管理するための機能です。商品ページへの商品情報登録(商品名、価格、商品説明、商品画像など)、商品在庫状況(在庫有無、残り個数など)の確認などの機能を提供します。
顧客管理機能
顧客管理機能は、会員登録時や商品購入時にユーザーが入力した顧客情報(名前、住所、メールアドレス、電話番号、決済情報など)や購入履歴、ポイント情報などを管理する機能です。
販促管理機能
販促管理機能は、新規顧客やリピーターを獲得するためのマーケティングや販促活動を行うための機能です。クーポン発行、ポイント付与、セールや特別オファー、メルマガ発行などさまざまな販促活動をサポートします。
適切なECカートシステムの選び方

オンラインストアのカートシステムを調査する際に考慮すべき要素は以下の通りです。
必要な機能がそろっているか
ECカートシステムが自社サイトの要件を十分に満たしているか確認しましょう。特に、以下の機能や内容についてチェックしましょう。
- 複数商品の一括登録や一時保存、割引クーポンやギフト設定といったカート操作の利便性
- 注文状況(入金前・発送済など)の可視化や状況に応じた自動メール通知が可能な受注管理機能
- 商品バリエーション(色・サイズ)表示や在庫連動、CSV一括登録やAPI対応といった商品管理機能
- 問い合わせ対応やBtoB対応などのニーズに合った顧客管理
- 主要配送業者との連携、伝票印字、自動料金計算、複数配送先対応などのフルフィルメント機能
- ポイント制度や期間限定セールなどの販促機能
- モバイル・タブレット対応
費用と売り上げのバランス
単純に安価なシステムを選ぶのではなく、機能やサービスの内容、そして目標とする売り上げとのバランスを見ながら検討します。導入時に必要な初期費用以外にも、以下のような費用を考慮するようにしましょう。
- 月額料金(サブスクリプション費用)
- 決済手数料
- 売上金の振込時に発生する送金手数料
- 機能追加料(システム開発費)
- サーバー更新費用
決済方法の充実度
多様な決済手段に対応しているかどうかは、顧客体験と売り上げに直結します。クレジットカードやデビットカード、Apple PayやGoogle Payといったモバイルウォレット、PayPal、後払いサービスなどに幅広く対応するシステムを選ぶことで、購入完了率や平均注文額(AOV)の向上が期待できます。
さらに、越境ECを展開する場合は、Visa・Mastercard・Amexなどの国際ブランドはもちろんのこと、対象国で主要な決済方法や、異なる通貨・言語・税率への対応状況を確認することが不可欠です。
他サービスやプラットフォームとの提携
既存のECプラットフォームや楽天・AmazonなどのECマーケットプレイスとの商品・在庫・注文データ連携がAPIで可能かどうかを確認しましょう。また、在庫管理、会計、CRM、マーケティングオートメーションなど他の業務ツールとの連携性や、必要なプラグインの有無も重要です。
複数ツールの接続時に処理速度・データ整合性が保たれるか、将来的な拡張性が確保されているかも見極める必要があります。
ユーザーエクスペリエンス
顧客が直感的かつスムーズに利用できるユーザーエクスペリエンス(UX)もECカートシステムを選ぶ際の重要なポイントです。商品追加・削除、合計金額確認、決済までの操作が簡単かつ安全に行える設計であれば、購入率やリピート率の向上が期待できます。
カスタマイズ性
また、サイトの見た目や操作性をブランドに合わせて調整できるかも重要です。たとえば、カテゴリー表記や検索機能の追加、チェックアウトフローの最適化などのデザイン改善により、購入完了までのステップが減り、離脱率の低減や売り上げアップにつながるケースもあります。
分析機能の有無や収集できるデータの内容
ECカートシステムには、顧客の行動や販売データを追跡・収集し、改善に役立つレポートを提供する分析機能も搭載されています。たとえば、カート内での滞在時間、追加・削除された商品、カゴ落ち率、離脱ページの特定などが可能です。こうしたデータにより、複雑なチェックアウトプロセスや配送コストなど、コンバージョン低下の原因を発見しやすくなります。
セキュリティ対策が万全か
ECカートシステムはユーザーの個人情報を扱うため、セキュリティ対策が万全かどうかも重要なポイントになります。
以下のような点を確認しましょう。
- 2段階認証機能
- SSL暗号化
- PCI DSS準拠(クレジットカード情報の適切な管理)
日本で人気のECカートシステム
Shopify

Shopify(ショッピファイ)は、日本国内で3万8,000以上の導入実績があり、スモールビジネスからグローバルブランドまでどのような規模のビジネスにも適合する汎用性と、さまざまなニーズに対応できる拡張性に強みがあるECカートシステムです。8,000を超えるサードパーティアプリを活用して、機能追加や外部システム連携も柔軟に行え、モバイル向けのビジネスにも最適化されています。
100以上の決済方法を利用でき、50以上の異なる言語、税率、通貨に対応しているため、海外販売に向けてカスタマイズすることも可能です。さらに、ワンクリック購入システムのShop Payも提供しており、迅速でコンバージョン率の高いオンラインカートシステムを利用できます。
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価格:初期費用 無料
月額費用(年一括払い時) Basic 3,650円、Grow 10,100円、Advanced 44,000円
- 決済方法:クレジットカード、後払い、キャリア、コンビニ、銀行振込、PayPal、Apple Pay、Google Pay等
- グローバル決済:グローバル通貨換算、50以上の言語、カスタマイズ可能な税設定
- ECビジネス提携:Shopifyの購入ボタンがさまざまなプラットフォームに対応
- その他のビジネスツール提携:在庫管理システムなどのツールとの連携やAmazonなど他のプラットフォームとの連携。アプリによる機能拡張
- 配送オプション:さまざまな方式の送料に対応(全国一律、地域別、完全無料、購入金額別、重量別など)
- カスタマイズ:B2Bなどのさまざまなマーケット、商品、顧客に向けたデザインを作成可能
BASE

BASE(ベイス)は初期費用・月額費用ともに無料で、個人や小規模店向けに適したECカートシステムです。無料で簡単に開設できる一方、売り上げが増えると手数料負担が大きくなるため、成長時には有料プランへの移行を検討する必要があります。
BASEの商品をWordPress(ワードプレス)サイトに埋め込むことで簡単に商品を販売できるほか、初心者向けのチャットサポートなども充実しているため、高度なパソコンスキルがなくても簡単にWordPressサイトでネットショップが開設できます。デザインはHTML、CSS、JavaScriptの編集により細かいデザイン調整も可能です。
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価格:初期費用 無料
月額費用 スタンダードプラン 無料、グロースプラン 1,580円(2年一括払い時)
- 決済方法:クレジットカード、後払い、キャリア、コンビニ、銀行振込、PayPal、Amazon Pay 等
- グローバル決済:越境ECには、PayPal、Amazon Pay、銀行振込決済を推奨
- ECビジネス提携:BASE App経由で外部ツールと連携。WordPress連携やInstagram、Pay IDアプリ対応
- その他ビジネスツール提携:会計ソフトや在庫管理システムなどをBASE Appsで統合可能
- 配送オプション:主要配送業者連携、送料の条件設定機能あり
- カスタマイズ:無料・有料テンプレートを多数選べ、HTML/CSS編集による調整も可能
STORES

STORES(ストアーズ)は初期費用・月額費用ともに無料で、実店舗併設の小売業者に向いており、オンラインとオフラインをシームレスに統合できます。無料でありながら機能は充実しており、簡単にネットショップを開設できます。POSレジ、予約システム、キャッシュレス決済などの機能は、実店舗のみのユーザーにも利用されています。
売り上げ1件あたりの手数料はやや高めの設定ですが、有料プランなら手数料を抑えることができます。
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価格:初期費用 無料
月額費用 フリープラン 無料、スタンダードプラン 2,980円(年一括払い時) - 決済方法:クレジットカード、後払い、キャリア、コンビニ、銀行振込、PayPal、PayPay、楽天ペイ、Amazon Pay等
- グローバル決済:PayPal等を通じた越境EC対応あり
- ECビジネス提携:実店舗POS・予約システム・キャッシュレス端末連携
- その他ビジネスツール提携:会計ソフト、Instagram等
- 配送オプション:主要配送業者との連携、倉庫代行サービス等
- カスタマイズ:多彩なテンプレートがあり、スマホ操作に強い。ブランドに合わせた見た目調整が可能
futureshop

futureshop(フューチャーショップ)はサイトデザインのカスタマイズやコンテンツの更新を自由度高くスピーディに行えます。さらに、顧客のファン化を促進するための機能も豊富で、効果的なロイヤルティマーケティングを展開することが可能です。実店舗とECサイトの顧客データも一元管理できます。サイトデザインにこだわりたい中堅企業におすすめのサービスです。
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価格:初期費用 22,000円~
月額費用 24,000円~ - 決済方法:クレジットカード、後払い、キャリア、コンビニ、銀行振込、PayPay、楽天ペイ、Amazon Pay等
- グローバル決済:越境ECは提携サービスを利用
- ECビジネス提携:実店舗在庫連携、ZOZOTOWN連携など
- その他ツール提携:物流、CRM、マーケ施策ツールなどと連携
- 配送オプション:Eコマースに必要な各種配送方法や送料計算に対応。最短お届け日、複数配送先、商品ごとの配送サービス、温度指定などの多様な機能に対応
- カスタマイズ:デザイン自由度が高く、中堅〜大規模向けに最適
makeshop

makeshop(メイクショップ)はGMOグループが運営する老舗ASPで、中堅から大規模事業者向けに多機能な点が魅力のカートシステムです。BtoBやギフト、複数配送など実務に即した仕様を備えています。決済手数料が若干安く、大量取引に向いている点も強みです。
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価格:初期費用 11,000円~
月額費用 プレミアムプラン 13,750円、エンタープライズプラン 55,000円~
- 決済方法:クレジットカード、コンビニ、キャリア、後払い、楽天ペイ、PayPal、PayPay等
- グローバル決済:多言語・多通貨に対応。WorldShoppingBIZサービスと連携した越境EC
- ECビジネス提携:楽天・Yahooショッピング、価格.com等の有料サイトと連携
- その他ツール提携:WordPress連携、基幹システム連携など
- 配送オプション:商品ごと配送、複数お届け先、配送希望日時設定、配送料詳細設定など
- カスタマイズ:豊富なテンプレートはクリエイターモードで編集可能
まとめ
EC事業を開始する際、ECカートシステムを利用することにより、自社に必要な機能を備えたECサイトを効率的に構築することができます。
ECカートシステムの種類により、ユーザーが行うべきシステム設定や運用管理の範囲は異なります。一般的に、機能が豊富で自由度や柔軟性が高いほど、システムは高価格となり、構築の難易度も高まるため、自社に必要な機能を見極めた上で適切なシステム選択を行うことが大切です。いずれのシステムも購入商品をカートに保存して決済を行う基本的な仕組みは備えていますが、カートの使い勝手、決済手段のバリエーション、販促・分析等の付随機能などには細かい違いがあるので、できるだけ導入前に確認を行うようにしましょう。
本記事を参考にして、自分のビジネスに合ったECカートシステムを選んでください。
ECカートシステムに関するよくある質問
ECビジネスにおけるカートシステムとは?
ECビジネスにおけるカートシステムは、顧客がネットショップから商品を購入したり、将来購入したい商品のリストを保存したりするためのソフトウェアの一種です。
ECカートシステムの種類は?
ECカートシステムには、大きくわけてASP型カートシステムとECパッケージ型カートシステムの2種類があります。
ASP型はSaaS型サービスとも呼ばれるクラウド型のECカートシステムで、サーバーの準備などが不要で短期間で安価にECサイトを開設できます。ECパッケージ型カートシステムは、EC運営に必要な機能があらかじめパッケージとしてまとまっているソフトウェアで、デザインや機能の柔軟なカスタマイズが可能です。
おすすめのECカートシステムは?
ECカートシステムはShopifyがおすすめです。コンバージョン率の高いワンクリック購入システムのShop Payなど、多彩な機能を搭載しています。
ECカートシステムのコストはどのくらい?
ECカートシステムで必要なコストは、導入費用と月額使用料、販売時に必要となる決済手数料などがあり、システムやプランによって無料から数万円ほどかかります。
ECサイト用のカートを作るにはどうすればよい?
ASP型またはECパッケージ型のカートシステムを使用して、ECサイト用のカートを作成できます。ASP型の方が準備が簡単で導入から短期間で利用できますが、ECパッケージ型は選択肢が多いため、導入に時間がかかる反面、細かい作り込みが可能です。
文:Norio Aoki





