ビジネスや商品・サービスを展開するうえで、自社のブランドを守るために重要なのが「商標」です。商標を登録しておくことで、他社に名前やロゴを模倣されるリスクを防ぎ、信頼性やブランド価値を高めることができます。一方で、登録の手続きや費用の仕組みが分かりにくいと感じる人も多いでしょう。
この記事では、商標の基本的な意味や役割に加え、登録するメリット、申請の流れ、費用の目安をわかりやすく解説します。
商標とは

商標とは、自社の商品やサービスと他社のものを区別するために使用するネーミングや識別標識を指し、名前やロゴ、図形、音などが該当します。
商標は単なるマークではなく、消費者にとっては品質や信頼の象徴となり、企業にとっては大切な無形資産となります。商標を特許庁に登録することで「商標権」が得られ、他社が同じまたは似たマークを無断で使うことを防ぐ法的効力が生まれます。商標登録がなければ、模倣されても差止請求や損害賠償を求めることが難しく、逆に他社に先に登録されてしまうと自社が使用できなくなるリスクもあります。こういった背景から、商標の早期登録が推奨されています。
ブランド名や店舗名がそのまま信頼の象徴となるスモールビジネスの場合、事業の継続性を高めるには、商標登録を行い、潜在的なトラブルを未然に防ぐことが重要となるでしょう。
商標マークの種類と意味

商標を主張する際、企業は次の3つのマークを使い分けます。
™(ティーエム)
ロゴやキャッチフレーズの後に付けることで、「この名称やデザインは自社の商標として使用している」という意思を示します。ただし、正式に商標登録されていなくても使用でき、法的効力を持つわけではありません。
®(アール)
特許庁などの商標登録機関によって正式に登録された「登録商標」を示すマークです。登録を受けた商標のみ、このマークを使用できます。
℠(サービスマーク)
主に商品ではなくサービスを提供する企業が使用する商標マークです。ただし、実際には多くの企業がわかりやすさのために™を使用しています。
商標登録のメリット

他社に模倣されるリスクを回避できる
商標登録を行うことで、他社が同一・類似の名称やデザインを使用できなくなるため、模倣されるリスクを回避できます。仮に商標を侵害されたとしても、侵害者に対して使用差止や損害賠償請求ができるのもメリットです。
強固なブランドイメージを築ける
商標は「企業の顔」ともいえる存在です。登録を受けると商標を独占的に使用できるため、商標を通じて企業のアイデンティティを一貫して発信でき、顧客にブランドらしさを印象づけることができます。また、適切に保護することでブランドイメージを守り、顧客からの信頼獲得にもつながります。
商標の使用許諾でライセンス料を受け取れる
登録商標の使用を許諾することで、ライセンスによる対価を受け取れるのもメリットです。ビジネス開始時に商標登録をしておくと、ブランド認知度が高くなった際に、その知名度を活かしたライセンスビジネスも検討できるでしょう。
商標登録の費用

商標登録にかかる基本的な費用は以下の通りです。
- 出願料:3,400円+(区分数×8,600円)
- 登録料(一括):区分数×32,900円(10年分)
- 登録料(分割):区分数×17,200円×2(5年×2回)
なお、商標権は10年ごとの更新が必要です。更新料は、10年分一括の場合43,600円×区分数、5年ごとの分割納付なら22,800円×区分数×2となります。
商標申請の流れ

商標申請は、自社の商品やサービスを守るための重要な手続きです。事前調査から審査、登録後の維持管理まで段階的に進めることで、他社とのトラブル回避やブランド価値の保護につながります。申請の流れは以下の通りです。
1. 商標を検討し事前調査を実施する
まず、どの名称やロゴを商標として登録するかを検討しましょう。
登録できる商標には、文字・図形・記号・立体形状・音などがあります。選定後は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」などを使って、既に同じまたは類似した商標が登録されていないかを調査しましょう。
2. 出願書類を作成する
商標の選定や事前調査が完了したら、次に出願書類を作成します。出願時には、以下のような情報を「商標登録願」に記載します。
- 商標の見本(文字やロゴなど)
- 指定商品・指定役務(その商標を使用する商品・サービスの区分)
- 出願人の氏名または名称・住所
区分は第1類〜第45類までの分類から選びます。分類を誤ると、希望する商品で商標を保護できなくなる場合があるので注意が必要です。
商標登録願は、知的財産相談・相談ポータルサイトからダウンロードできます。出願書類の書き方ガイドも提供されているので、参考にしながら作成しましょう。
3. 特許庁へ出願する
作成した書類をオンラインまたは書面で特許庁へ提出しましょう。書面の場合は、特許庁の受付窓口に直接持参するか、郵送で提出できます。オンラインの場合は、インターネット出願ソフトで出願します。出願時に「出願番号」が付与され、以降の手続きはこの番号で管理されます。
4. 方式審査・実体審査を受ける
出願後、特許庁により方式審査と実体審査が行われます。方式審査では出願した書類が商標法に則った形式かどうかが審査されます。実体審査では、次のポイントがチェックされます。
- 他人の登録商標と類似していないか
- 公序良俗に反していないか
- 商品やサービスを正確に表す区分になっているか
なお、審査結果が出るまでおよそ6〜12か月程度かかるのが一般的です。
5. 審査結果の通知が届く
審査の結果、登録が認められる場合は「登録査定通知書」、不認可となった場合は「拒絶査定通知書」が届きます。不認可の場合は、意見書や補正書を提出することで拒絶理由を解消できることがあります。
6. 登録料を納付する
登録査定を受けたら、30日以内に所定の登録料を納付します。登録料の納付をもって正式に「商標権」が発生し、商標登録証が発行されます。ここで初めて、商標の使用に法的保護が与えられます。
7. 更新手続きを行う
商標権の有効期間は登録日から10年間です。更新手続きをすることで何度でも延長できるため、継続的なブランド保護のためにも、忘れずに更新を行いましょう。更新の際も、特許庁へ更新登録申請書の提出と登録料の納付が必要です。
まとめ
商標は単なるマークではなく、ネットショップの信頼性と価値を守るための重要な役割を担っています。ブランドや商品の名称などを商標登録しておくことで、他社の無断使用を防ぐことができ、ブランドの保護につながります。商標を独占的に使用できるため、他社との差別化も図れるでしょう。
一方で、登録を後回しにしてしまうと、模倣や名称の先取りなど取り返しのつかないトラブルに発展する可能性もあります。小規模ビジネスの商標登録も参考にしながら、早めに商標登録を行い、ブランド育成のための安全な土台を築きましょう。
よくある質問
商標の目的は?
商標の目的は、企業や商品の識別と信頼性の保護です。消費者が商品やサービスの提供元を一目で判断できるようにし、他社による不正使用を防ぎます。これにより、ブランド価値を守り、継続的な取引関係を築くことができます。
著作権と商標権の違いは?
著作権と商標権の違いは、著作権の場合創作物そのものを保護するのに対し、商標権はブランドを識別するための名称やロゴを保護します。著作権は作品が完成した時点で自動的に発生しますが、商標は登録することで法的に独占使用の権利が与えられます。
意匠権と商標権の違いは?
意匠権と商標権はどちらも知的財産権の一種ですが、保護の対象が異なります。意匠権は製品の形状やデザインなど「見た目の美しさ」を守る権利で、商標権はブランド名やロゴなど「商品・サービスを識別するためのマーク」を守る権利です。
どんなものが商標に該当する?
商標には、企業名・商品名・ロゴ・スローガンなどがあります。例えばコカ・コーラの文字ロゴや、ナイキのスウッシュマークなどが代表的です。
文:Takumi Kitajima





