ECビジネスにおいて、スムーズで安価な配送は顧客満足度に直結します。一方で、その配送を支える物流の世界は、ネットショッピングの需要が急増したことでドライバー不足やコスト増、環境対応など多くの課題を抱えるようになりました。安定した物流を利用するには、ECサイトの運営者側も物流の機能や仕組みを知り、大量の商品を効率的に管理して配送する方法を考えておく必要があります。
この記事では、物流の機能や例とともに、最適化のポイントや効率化につながるシステムなども解説してますので、ぜひ参考にしてみてください。
物流とは

物流とは、企業が顧客に商品を届けるプロセスを指します。商品の生産から消費までの過程を表すため、倉庫で商品の保管をしたり、商品を包装したりすることも物流に該当します。
物流とロジスティックスの違い
物流と類似した用語としてロジスティクス、商流という言葉がありますが、実際には下記のような違いがあります。
- 商流:物流がモノの流れを表すのに対し、商流は仕入れ・契約手続き・販売など、商品の生産〜消費で発生するお金の流れや契約などを指します。
- ロジスティクス:ロジスティクスは物流プロセスを最適化するための仕組みに関わること全般を指します。そのため、物流はロジスティクスという言葉に含まれます。
物流の例
物流が活用されるシーンは、大きく4種に分類することができます。実際の例もあわせてご紹介します。
調達物流
原材料や部品などを仕入れるための物流です。例えばコンビニエンスストアやスーパーへの商品供給では、様々なメーカーから発送された商品が物流センターに集められ、発注データに基づいて各店舗ごとに仕分けされて配送されていきます。
生産物流
商品を生産するうえで必要な物流です。機械メーカーであれば、原材料や部品を倉庫に受け入れ、製造工場や組み立て拠点で生産ラインに乗り、梱包や検査を経て出荷されていくといった流れが該当します。
販売物流
商品が顧客に届くまでの物流を指します。EC事業者が顧客からの注文に基づいて倉庫から出荷し、配送業者が運んでいくまでの流れです。またその間には、在庫管理や顧客とのコミュニケーションなども含まれます。
静脈物流
不良品の回収・リサイクルを目的とした回収など、消費者から企業に戻ってくる物流です。家電を販売する場合など、適切な処理や再利用の仕組みを整えておくことが、メーカーや販売店に法律で義務付けられている場合があります。
物流が重要な理由
ECビジネスで物流が重要な理由は、以下のとおりです。
- 利益率の向上:効率的な配送を実現したり、適切な在庫管理や梱包費用・送料の削減に努めたりすることで、コスト削減につながる。
- コア業務に集中できる:物流にかかる社内の負担が軽減できれば、コア業務に割く時間が増える。
- ブランド価値の向上:顧客が商品を注文してから、商品を届けるまでの納期を短縮したり、商品の欠損が発生しない安全な配送を続けたりすることで、顧客満足度の向上や信頼の構築につながる。
物流の機能

1. 配送・輸送
配送・輸送は、商品を安全かつ確実に顧客へ届ける役割を担う機能です。トラック・空輸・鉄道など配送の手段によって必要な時間やコストが異なるため、商品の特性や納期に応じた最適な方法を選択することが重要です。一般的に「配送」は消費者が荷物を受け取るまでの小口荷物の移動を指し、「輸送」は大量の荷物や長距離の移動を指します。物流コストの中で配送・輸送が占める割合は約6割といわれています。
2. 保管
保管は、商品が生産されてから、販売して受け渡すまでの間に、商品を適切に保持する機能です。倉庫や物流センター、輸出入の手続きを待つ間の保税倉庫などが担います。保管では、単にモノを置いておくだけでなく、品質を維持し続けることが大切で、商品に応じて温度・湿度管理を含めた環境を整える必要があります。
また、必要なときに迅速に出荷できる体制を整えておくことも欠かせません。注文に即応できる必要数の在庫確保を通して、安定した供給を常に行なえる状態を維持する必要もあります。
3. 荷役
荷役は、物流における商品の積み降ろしや運搬、仕分けなどの付随業務を指します。具体的には、トラックや鉄道、飛行機などへの積み込み・荷降ろし、倉庫での入出庫、ピッキング、荷揃え、積み付けなどが含まれます。これらの作業は、商品をスムーズに出荷・配送するために欠かせない工程です。近年では、作業効率の向上やコスト削減のため、パレットやコンテナを活用した荷役が主流です。
4. 梱包・包装
梱包・包装は、商品を衝撃や汚れ・破損から守るために包んだり、適切な容器に入れたりする機能です。梱包・包装が不十分だと、輸送中に商品が破損するなどのトラブルが発生しやすくなるため、顧客へ正確に商品を届けるための重要な工程です。なお、包装には以下の3種類があり、これらを適切に組み合わせることで、商品を安全に輸送できる状態にします。
- 個装:商品の単品包装
- 内装:商品の特性に合わせた容器への収納
- 外装:複数の商品を段ボールや缶などでまとめる包装
現在では、段ボールに代わり、繰り返し使えるプラスチック製通い箱を用いたり、非木材紙やバイオプラスチックを用いたエコパッケージを利用したりするケースが増え、環境配慮とコスト削減の両立が進んでいます。
5. 流通加工
流通加工は、商品を出荷する際に倉庫や物流センターで行う軽作業の総称です。具体的な作業には検針、タグ付け、ハンガー掛け、値札やラベル貼り、袋詰め、説明書の貼り替え、ギフト用セットの組み立てなどが該当します。流通加工を通して商品の見栄えや使いやすさを向上させることで、より良い開封体験の演出につながり、商品に付加価値を与えることもできます。
6. 情報システム
高度に効率化された現代の物流では、情報システムも不可欠な機能となっています。例えばWMS(倉庫管理システム)などの導入を通して、在庫や出荷のミスを防ぎながら、商品の入出荷管理、在庫やロケーションの把握、ピッキング指示など倉庫内業務を効率化する企業が増えています。より多くの商品を扱うことで複雑化する物流現場において、情報システムは効率化と品質維持を支える欠かせないツールになっています。
効果的な物流システムの種類

WMS(倉庫管理システム)
WMSとは、倉庫内で発生する業務をデジタル化し、効率的に管理するためのシステムのことです。WMSを用いることで人為的ミスを減らすだけでなく、在庫の情報などをリアルタイムで可視化できたり、複雑な業務を効率化できたりするメリットがあります。基本機能は、以下のとおりです。
- 入荷管理
- 在庫管理
- 出荷管理
- 棚卸管理
- 帳票・ラベル発行
- 返品管理
- ピッキング最適化
- 安全在庫管理
- オーダーマネジメント
- 分析レポートの生成
TMS(輸送管理システム)
TMSとは、物流における輸送・配送業務を効率的に管理したり、最適化したりするためのシステムを指します。TMSを導入することで、従来は属人的に行われてきた配送手配をシステムで最適化し、過剰積載や貨物車内スペースが余ってしまうことを防ぐことができます。また物流コストを自動で算出できるため、輸送費用削減の一助を担えます。
OMS(受注管理システム)
OMSとは、受注〜出荷までの流れを自動で管理・最適化するためのシステムです。EC物流では特に幅広い業務が発生し、大量のデータを管理する必要があるため、作業効率化やヒューマンエラー防止のためにOMSが効果的となります。また自社ECサイト、モール、実店舗などマルチチャネルで販売する事業者にとっては、すべてのチャネルの注文状況を一元管理できるメリットもあります。主な機能は以下のとおりです。
- 顧客対応
- 受注ステータスの一元管理
- 受注処理業務を効率的に行う機能
- 在庫管理
- 出荷管理
SCM(サプライチェーンマネジメント)
SCMとは、原材料の調達から製造、流通、販売、消費に至るまでのサプライチェーンを一元的に管理するシステムです。配送・倉庫管理だけでなく、情報や資金の流れも含めた一連の流れをそれぞれ管理できるため、サプライチェーンの最適化につながります。先に述べたWMS、TMS、OMSなどと併用することで、コスト削減・業務効率化・納期短縮・環境負荷など様々な観点で、より良い効果が期待できます。
物流業務を最適化するためのポイント

物流をアウトソーシングする
顧客へ商品を届ける配送業務だけではなく、注文管理〜配達までのフルフィルメントを実施する企業がいる一方で、物流に関わる業務をまるごと外部に委託する企業も増えています。物流業務を配送業者とは異なる第三者の専門企業に委託することは3PLと呼ばれ、活用するメリットは以下のようなものがあります。
- コスト削減:自社で倉庫や物流人員を抱える必要がないため、コストを減らせる。
- 物流業務のスピード向上:3PL業者が持つノウハウや最新のシステムを活用してもらうことで、配送スピードや精度向上が狙える。
- コア業務への集中:物流業務に費やした時間を浮かせることができる。
- 業務最適化:自社で発生していたヒューマンエラーも防げやすい
もし在庫スペースが不足していたり、需要に対してリソースが不足していたりする場合は、3PLに委託して解決する手段も考慮してみてください。
倉庫のデザインを最適化する
倉庫スペースが足りなくなった場合は、倉庫のデザインを変えることで解決する可能性があります。倉庫スペースを最適化するために、以下の方法を実践してみてください。
- 垂直スペースを最大限に活用するために高い、または積み重ね可能な棚を使用する
- 在庫をカテゴリー別にグループ化し、より簡単かつ迅速に見つけられるようにする
- 保管エリアごとで、明確にラベル付けする
- ラックなどの収納アイテムを活用する
- ベストセラー商品を倉庫の近くに配置し、物流チームが注文をピックアップする際の移動距離を短くする
ルート最適化に注力する
ルート最適化とは、最も効率的に配送できるルートを算出する取り組みを指します。例えば各地に分散した倉庫で商品を保管しておき、注文した顧客に最も近い場所から発送することができれば、輸送にかかるコストや時間を削減でき、顧客の満足度の向上にもつながります。顕著な例でいえば、越境ECを提供している事業者が海外倉庫を活用するケースが挙げられます。
なお、国内だけでなく海外への輸出入が発生する物流の場合は、保税倉庫を利用することで関税対策、コスト削減やルートの最適化が狙えるかもしれません。
まとめ
ネットショップでの利益率を向上させたり、ブランド価値を創出したりするうえで、物流の最適化は大きな効果を発揮します。配送・保管・荷役など、物流の仕組みを構成する機能についても理解しておくことで、どの工程を最適化すれば良いか、あるいはどんなシステムを導入すれば効果的かもわかりやすくなります。また商品を保管する倉庫がなかったり、物流業務をよりスピーディに遂行したい場合は、3PLの活用も有効でしょう。
この記事で紹介した物流システム最適化のポイントを参考にしながら、商品を適切に消費者へ届け、顧客との信頼を構築できる方法を検討してみてください。
物流に関するよくある質問
物流とは?
物流とは、企業が顧客に商品を届けるプロセスを指します。
物流の具体的な4領域とは?
- 調達物流:原材料や部品などを仕入れるための物流
- 生産物流:商品を生産するうえで必要な物流
- 販売物流:商品が顧客に届くまでの物流
- 静脈物流:不良品の回収・リサイクルを目的とした回収など、消費者から企業に戻ってくる物流
物流の機能とは?
- 配送・輸送
- 保管
- 荷役
- 梱包・包装
- 流通加工
- 情報システム
代表的な物流システムは?
- WMS(倉庫管理システム)
- TMS(輸送管理システム)
- OMS(受注管理システム)
- SCM(サプライチェーンマネジメント)
文:Ryutaro Yamauchi





