お読みいただく前に
本記事は、Shopifyが海外で公開した事例・機能解説をもとにした翻訳記事です。内容の性質上、一部に日本では現在ご利用いただけない機能・サービスが含まれます。日本での提供状況は、記事末尾の「日本市場での注意点」にまとめていますので、あわせてご確認ください。
卸売EC(ホールセールEC)とは、主に事業者(B2B)を対象に、商品を大ロットかつ割引価格でオンライン販売するビジネスモデルです。その世界市場は巨大で、2025年には2.5兆ドル規模に達すると予測されています。
卸売ECの利点は一受注あたりの規模が大きく、手作業でのデータ入力や管理業務に費やす時間も大幅に削減できます。この巨大な市場に参入することは、企業にとって新たな収益源を開拓する絶好の機会です。
では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。本ガイドでは、卸売ECの仕組みから、最適なプラットフォームの選び方、オンラインストアを成功に導くための実践的なヒントまで、順を追って詳しく解説します。
卸売ECの仕組み
卸売取引で最も一般的なのは、生産者(メーカー)と小売業者との間の関係です。ただし、卸売業者が他の卸売業者に販売するケースや、Costcoのように一般消費者に直接販売する形態もあります。
卸売の最大のメリットは、運用コストを効率化できる点です。商品をまとめて販売することで大口の注文を確保しやすく、マーケティング費用も抑制できるため、結果として製品単位あたりの利益率が高まる傾向にあります。
「卸売EC」と聞くと、Alibabaのような巨大マーケットプレイスを想像するかもしれません。かつては「旧来型で、購買体験が洗練されていない」というイメージもありましたが、テクノロジーの進化とB2Bバイヤーの行動変化により、その姿は大きく変わりました。
今日では、多くのDTC(Direct-to-Consumer)ブランドや小売事業者が、成長戦略の一環として卸売ビジネスに参入しています。適切なB2B ECプラットフォームを活用すれば、巨額の初期投資やリスクを冒すことなく、顧客登録からチェックアウトまでのプロセスを自動化し、卸売特有の価格設定を適用するなど、スモールスタートで事業を大きく成長させることが可能です。
2025年の卸売ECトレンドと市場動向
市場規模と成長予測
卸売ECは、もはや「縁の下の力持ち」ではありません。世界のオンライントレードを牽引する巨大市場へと成長しました。Grand View Researchの調査によると、世界のB2B ECにおける流通総額(GMV)は2025年に2.5兆ドル、2027年には約3.5兆ドルに達する見込みです。
国内のB2B取引の10件中8件がオンラインで行われ、B2B売上の約56%がデジタルチャネル経由で発生するなど、ビジネスのデジタル化はすでにスタンダードになっています。
- 地域別:アジア太平洋地域が2024年のEC取引額の70%を占め、市場規模で最大です。一方、北米は最も成長が著しく、2030年まで年平均成長率(CAGR)17.2%が見込まれています。
- 業種別:製造業が2024年のB2B EC市場の24%を占めトップ。今後はヘルスケア/ライフサイエンス分野が最も速い成長を遂げ、2030年までCAGR 21.1%が予測されています。
B2Bバイヤーの行動変化
ほんの数年前まで、卸売契約の多くは電話で交渉が開始されていました。しかし、ミレニアル世代やZ世代が購買担当者として加わるにつれ、その常識は過去のものとなりました。
McKinseyの調査では、B2Bの意思決定者は平均10ものチャネル(タッチポイント)を使い分け、その内訳は「対面」「リモート」「セルフサービス(ECサイトなど)」がそれぞれ3分の1ずつを占める「3分の1ルール」に従っていることが明らかになりました。かつては展示会でしか考えられなかった50万ドルを超える高額取引も、今やセルフサービスで完結するようになっています。
この変化をさらに加速させているのが、生成AIです。Forresterの調査では、調達チームの89%が、サプライヤー探索から提案依頼(RFP)の評価に至るまで、購買プロセスのどこかで生成AIを活用していると回答しています。AIによってサプライヤーの最終候補リストが即座に作成される時代において、自動化に対応できない企業は、検討の土俵にすら上がれない可能性があります。
テクノロジーがもたらす変革
Forresterは、100万ドルを超えるような大規模取引もオンラインで行われるのが標準になると予測しています。B2Bバイヤーは、B2Cの消費者が享受するような、ワンクリックで完結するパーソナライズされた購買体験を求めているのです。Gartnerによると、バイヤーが営業担当者を介さず自力で購買プロセスを進めた場合、その取引の65%が「質が高い」と評価されるのに対し、営業担当者経由では24%にとどまります。
ShopifyのB2B機能は、こうした現代の卸売ビジネスに最適化されており、バイヤーごとにきめ細かな体験のパーソナライズが可能です。
- 顧客ごとに異なる価格設定(固定額、割引率、ボリュームディスカウントなど)
- 顧客専用のカタログを作成し、特定の商品のみを表示
- 企業ごとに支払い条件(Net 30/60など)を割り当て
- 一つの企業アカウントに複数の担当者や配送先住所を登録
- 免税ステータスを自動で適用
卸売ECと小売ECの主な違い
卸売ECと小売ECのビジネスモデルは、以下の4つの点で大きく異なります。
- ターゲット顧客:卸売は事業者(B2B)、小売は一般消費者(B2C)を対象とします。
- 注文規模:卸売は大口のまとめ買いが中心ですが、小売は単品や小ロットの注文が主です。
- 価格設定:卸売は販売コストを抑えられるため単価が低く、小売は保管やマーケティングのコストを反映して単価が高くなります。
- 顧客との関係性:卸売は継続的な取引を前提とした長期的な関係構築が重要ですが、小売は一度きりの購入も多く発生します。
卸売業者の主な種類
卸売ビジネスには、サプライチェーンにおける役割に応じて様々な形態が存在します。
- 製造業者(メーカー):自社で製品を製造し、小売業者や他の事業者へ直接、大ロットで販売します。
- 販売代理店(ディストリビューター):メーカーから商品を仕入れ、小売業者へ販売します。物流と顧客関係構築を担い、メーカーが製造に専念できる環境を整えます。
- ドロップシッパー:自社で在庫を持たず、ECサイトに掲載した商品が売れると、メーカーから顧客へ直接発送するモデルです。
- 輸出入業者:海外製品の輸入や国内製品の輸出といった、国際的な卸売取引を専門に扱います。
- マーケットプレイス卸:FaireのようなオンラインのB2Bマーケットプレイスに出店し、プラットフォーム上で小売業者とマッチングします。
B2B ECが卸売ビジネスを加速させる理由
テクノロジーの進化、特にB2B ECプラットフォームの登場により、卸売ビジネスはオンラインで大きなメリットを享受できるようになりました。
1. 購買プロセスの簡素化
顧客ごとに異なる契約価格や取引条件の複雑さから、卸売はECに不向きだと考えられてきました。しかし、適切なプラットフォームはこれらの課題を解決します。必要な情報がすべて揃った専用のB2Bサイトを構築すれば、電話やメールでの煩雑なやり取りは不要になります。
「“記憶に残る購買体験”が重要だというのは誤解です。卸売のオンライン体験は、可能な限りミニマルであるべき。バイヤーが求めているのは効率性です。彼らは発注書(PO)を入力し、滞りなく取引を完了させたいだけなのです」 — Neil Stuber(Hurraw! Balm ブランドマネージャー)
2. 業務プロセスの自動化
ECによる自動化は、現代の卸売ビジネスが享受できる最大のメリットの一つです。新規顧客の登録から見積もり、受発注、請求までを自動化することで、管理業務に費やす時間を削減し、より戦略的な業務に集中できます。Shopify Flowのようなツールを使えば、特定の条件(例:新規卸売顧客を価格ランクに自動でタグ付けする)に基づいて、さらに高度な自動化も可能です。
3. バイヤー体験の向上
B2Bバイヤーも、B2Cの消費者と同じように、スムーズで直感的な購買体験を求めています。24時間365日アクセス可能なセルフサービス型のポータルを提供することで、バイヤーは自身のペースで情報収集から発注までを完結させることができます。
4. 売上拡大とコスト削減の両立
オンラインでの卸売は、事業成長を加速させます。大ロットでの販売は売上数量を増やし、製品単価あたりの利益率を向上させます。また、少数の顧客への一括出荷は、物流コストの削減にも繋がります。
5. 新市場へのスムーズな参入
海外など新たな市場へ展開する際、現地の小売業者と提携することは有効な戦略です。彼らのサプライチェーンや既存の顧客基盤を活用することで、リスクと初期投資を抑えながら、効率的に市場へ参入できます。
6. データに基づいた意思決定
今日の卸売ビジネスにおける最大のチャンスは、データの収集、分析、そして活用です。Shopifyのような統合プラットフォームは、顧客情報、取引履歴、価格設定、サポートチケットといったあらゆるデータを一元管理し、「唯一の信頼できる情報源(Single Source of Truth)」を提供。これにより、データに基づいた迅速かつ正確な意思決定が可能になります。
卸売ECプラットフォーム選定のポイント
自社に最適な卸売ECプラットフォームを選ぶ際に考慮すべき6つの重要なポイントを解説します。
1. B2BとDTCを一つのストアで運用できるか
かつては卸売用に別のサイトを構築するのが一般的でしたが、在庫やサイトの二重管理は非効率です。Shopifyなら、一つのプラットフォーム上で小売(DTC)と卸売(B2B)を統合管理できます。B2B顧客がログインすると、専用のカタログや価格が自動で表示され、管理者は一つの画面で全てのビジネスを把握できます。
2. 顧客ごとにカタログをカスタマイズできるか
フレグランスブランドのWHO IS ELIJAHは、地域や顧客タイプごとに8種類のカタログと価格体系を使い分けることで、海外での卸売売上を前年比50%増と大きく伸ばしました。顧客ごとに最適な品揃えと価格を提示できるカスタマイズ性は、極めて重要です。
3. 柔軟なAPI連携が可能か
ECプラットフォームは、ERPやCRMといった既存の基幹システムとスムーズに連携できなければなりません。将来的な拡張性も見据え、柔軟なAPIやSDKが提供されているかを確認しましょう。
4. 検索(SEO)とコンテンツに強いか
B2Bの購買プロセスも、多くの場合、検索から始まります。SEOに強く、ブログやFAQといったコンテンツを充実させられるプラットフォームを選ぶことで、潜在顧客に発見される機会を最大化できます。
5. オムニチャネルの在庫を連携できるか
オンラインストア、実店舗、マーケットプレイスなど、複数のチャネルで販売する場合、全ての在庫情報をリアルタイムで同期できる機能は必須です。これにより、販売機会の損失や顧客の信頼低下に繋がる「売り越し」や「在庫切れ」を防ぎます。
6. モバイルに最適化されているか
B2Bバイヤーは、もはやオフィスのデスクだけで仕事をしているわけではありません。出張先や倉庫からでもスムーズに発注できる、モバイルファーストな設計が求められます。Dermalogica Canadaでは、モバイル体験を改善したことで、数千ドル規模の注文がモバイルから入るようになりました。
7. 大口取引に対応できる柔軟な決済機能があるか
B2Bバイヤーの81%が「請求スケジュールを自分で選べること」を重視しており、半数以上が「それが可能ならサプライヤーを乗り換える」と回答しています。Net 30/60/90といった掛け売り(後払い)条件に、チェックアウトプロセスで柔軟に対応できる機能は不可欠です。
卸売ECプラットフォームの比較評価フレームワーク
複数のプラットフォームを比較検討する際は、客観的な評価軸を持つことが重要です。ここでは、「事業スケール」「技術要件」「卸売特有の機能」「運用効率」「コスト構造」という5つの柱で評価する方法をご紹介します。
各項目を、1(小規模向け)〜5(エンタープライズ・高度な要件向け)の5段階でスコアリングすることで、自社のニーズに最も合致したプラットフォームを判断しやすくなります。
- 事業スケール:将来の成長を見据え、SKU数や注文数の増加に対応できる拡張性があるか。
- 技術要件:ERPやCRMとの連携、ヘッドレスコマース対応など、将来の技術的要件に応えられる柔軟性があるか。
- 卸売特有の機能:顧客別の価格設定、見積もりから受注までのワークフロー、掛け売り対応など、卸売ビジネスに必要な機能が網羅されているか。
- 運用効率:直感的な管理画面や自動化ツールにより、日々の運用を効率化できるか。
- コスト構造:月額費用だけでなく、取引手数料や保守費用を含めたTCO(総保有コスト)が明確で、予測可能か。
第三者機関の調査によると、ShopifyのTCOは、その効率性や導入・運用コストの優位性から、主要な競合プラットフォームに比べて最大36%低いと評価されています。
優れた顧客体験が成功の鍵
現代の卸売ビジネスで成功を収めるには、優れたユーザー体験を提供できるオンライン基盤の構築が不可欠です。
ShopifyのB2B機能は、管理画面に標準で統合されており、DTCとB2Bのハイブリッド運用からB2B専用ストアの構築まで、柔軟に対応します。価格表、支払い条件、通貨などをバイヤーごとに細かく設定でき、テーマやAPIによる高度なカスタマイズも可能です。
卸売ECに関するFAQ
Q. 卸売ECとは何ですか?
A. B2B(事業者間取引)向けのECモデルで、個人ではなく法人や個人事業主に対し、商品を大ロットのまとめ売りや割引価格で販売することを指します。
Q. 卸売に最適なECプラットフォームは?
A. Shopifyは卸売ECに最適です。DTCとB2Bの両方で優れた顧客体験を創出し、グローバルなビジネス展開を支える拡張性と信頼性を備えています。
Q. 卸売(ホールセール)とB2Bの違いは?
A. 「卸売」は、商品を大ロットで販売するという取引形態を指します。一方、「B2B」は、サービスや技術の提供も含む、より広範な「事業者間取引」全般を指す言葉です。
Q. B2B ECに求められる主な機能は?
A. 顧客別の価格設定、高度な検索機能、専用カタログ、パスワードで保護されたログイン、マイアカウント機能、そして直感的な管理画面などが挙げられます。
日本市場での注意点
この記事で紹介されているShopifyの主要機能について、日本での利用可能状況は以下の通りです。
✅ 日本で利用可能な機能
- B2B on Shopify: 卸売・B2B取引用の組み込み機能群。Shopify Plusプランで利用できます。
- Shopify Flow: 業務プロセスを自動化するワークフローツール。
❌ 日本で現在利用不可または一部制限のある機能
- Shopify Collective: ブランド間で商品を相互販売できる機能(USのShopify Plusストア限定)。
出典: Wholesale Ecommerce: How It Works, Types, and Benefits (2025)





