数多くのブランドが競い合う市場で選ばれる存在になるためには、顧客に強い印象を与えることが重要です。どれほど優れた商品やサービスでも、違いが伝わらなければ選ばれる理由が生まれないからです。
そこで、企業が自社ブランドの価値や立ち位置を明確にし、ターゲット顧客へ一貫したメッセージとして届けるためのブランドポジショニングが重要となります。これを戦略的に設計すれば、認知度の向上や価格競争からの脱却につながります。
本記事では、ブランドポジショニングの基本的な考え方から成功事例、効果を測定する方法を解説します。自社の存在価値を市場で確立したい企業は、ぜひ参考にしてください。
ブランドポジショニングとは?

ブランドポジショニングとは、自社ブランドの独自性を明確にし、顧客にその価値を伝えるマーケティング戦略です。商品やサービスの機能や価格だけでなく、ブランドイメージ、顧客体験、ニーズなどの要素を踏まえて、市場における他社にはない立ち位置を築きます。
ブランドポジショニングの重要性

ブランドポジショニングは、企業が独自の立ち位置を築き、消費者から選ばれ続けるための基盤となります。自社の価値や強みを明確にすることで、他には代えられないブランドの価値が正しく伝わり、顧客の共感や購買意欲を引き出すことができます。また、競合と比較されたり価格競争に巻き込まれたりしにくく、自社ならではの強みを活かした成長が可能になります。
ただし、ブランドポジショニングは一度決めたら動かせないというものではありません。市場や競合の動きを踏まえてポジショニングを継続的に見直すことで、変化の激しい環境でも一貫したブランド価値を維持できます。特に、ターゲットやプロモーションの方向性を大きく変化させる取り組みはブランドリポジショニングとも呼ばれます。長年にわたって市場シェアを獲得しているトップブランドは多くの場合、ブランドリポジショニングを何度も成功させています。
ブランドポジショニングの作り方

ブランドポジショニングは、顧客のニーズや競合の立ち位置を正確に把握することから始まります。自社ブランドが「どんな市場で、どんな価値を求められているのか」を把握することが成功のカギとなります。
1. 市場ニーズを調査する
どんな人が、どんな価値観や悩みを持って商品を選んでいるのかを理解しましょう。その際には既存顧客のデータを分析するだけでなく、自社を選んでいない消費者層のニーズも調べる必要があります。そこに、自社がまだ満たせていない課題や、競合が見落としている新たな市場機会が隠れていることがあります。たとえば、アンケート調査、レビュー分析、SNSのコメントなどが参考になります。
調査の際は、次の観点でデータを整理することで、ターゲットとするべき顧客をより具体的に理解できます。
- 基本情報:年齢層、性別、職業、居住地、収入など
- 心理的要素:価値観、興味関心、ライフスタイル、購買動機
- 行動データ:どのチャネルで情報を得て、どんなタイミングで購入するか
2. 競合を分析する
次に、競合分析を行い、自社との違いを見極めます。比較の際は、以下のポイントに注目しましょう。
- 価格帯:プレミアム、スタンダード、ローコスト
- 品質・機能:素材、耐久性、性能など
- 世界観・デザイン:高級感、親近感、革新性など
- 顧客層:若者向け、ビジネス層、ファミリー層など
また、競合分析をよりわかりやすく行うために、ブランドポジショニングマップを作成しましょう。ブランドポジショニングマップとは、市場における自社ブランドと競合ブランドの位置づけを縦軸と横軸で視覚化した図です。市場のニーズをもとに、価格、品質、デザイン性、機能性などの要素を軸として設定します。ブランドポジショニングマップは、市場で空いている位置を見つけたり、自社と競合の違いを見極めたりするのに役立ちます。
たとえば、縦軸を機能の多さ、横軸を価格に設定することで、市場におけるプレミアムブランドとマスブランドがどのように市場の中で住み分けしているかを一目で把握できます。
3. 自社のポジションを定める
市場リサーチをもとに自社が取るべきポジショニングが見えたら、どんな価値を提供すべきかを明確にするUVP(ユニーク・バリュー・プロポジション)を定義します。UVPとは、顧客に「なぜこのブランドを選ぶべきなのか」を伝えるためのメッセージです。自社の商品やサービスがどんな価値をもたらし、どのように顧客の課題を解決し、さらに競合とどう違うのかを、シンプルな一文で表現します。
たとえば、タオルを扱うブランドの場合、「吸水性が高い」「素材が柔らかい」といった機能だけを強調するよりも、「毎日のタオル時間を、ホテルのような上質なひとときに。」といったメッセージのほうが、ブランドが提供する体験価値を明確に伝えられます。
このように、機能の優位性ではなく、顧客にどんな変化をもたらすのかに焦点を当てることが、効果的なUVPを作るポイントです。
4. マーケティングに落とし込む
ブランドポジショニングを具体的なマーケティング戦略に落とし込むために、社内でブランドの方針を共有するブランドポジショニングステートメントを作成します。たとえば、タオルを扱うブランドの場合、以下のようなステートメントが考えられます。
「私たちは、上質な暮らしを求める大人に向けて、職人技で織り上げた日本製タオルを提供します。ホテルのような上質なひとときを届けることを目指しています。」
ブランドポジショニングステートメントを定めることで、ブランドの価値基準が社内で統一され、すべてのマーケティング活動が一貫した方向に進みます。次に、このステートメントをもとに、以下のマーケティングの4Pを意識して実際のマーケティング活動に取り組みます。
- Product(製品):ブランドの価値を体現する商品開発を行う。素材・機能・デザインなどをブランドの理念と照らし合わせて再確認する。
- Price(価格):ブランドの立ち位置に合った価格帯を設定する。安さではなく、「その価格に見合う価値」を明確に伝える。
- Place(流通):ブランドの価値が最も伝わりやすい販売チャネルを選定する。オンライン・実店舗・卸売など、顧客接点の質を重視する。
- Promotion(プロモーション):広告・SNS・メールマーケティングなど、顧客とのコミュニケーションでブランドの世界観を一貫して訴求する。
市場での理想的なポジションを確立できるまで、施策の分析と改善を繰り返します。また、必要に応じて、ポジショニングの見直しも行います。
ブランドポジショニングが機能しているかを見極めるポイント

ブランドポジショニングが機能しているかどうか把握するために、次の4つの要素を確認しましょう。
- ブランド認知:自社ブランドがどの程度知られているかを測定します。たとえば、ウェブサイトのアクセス数や検索ボリュームを確認したり、アンケートやブランド想起調査を実施したりすることで、ブランドが市場でどれほど浸透しているかを把握できます。
- SNSでのエンゲージメント:自社のSNS投稿に対するいいね、コメント、保存などの反応は、ブランドへの興味や共感の度合いを示す指標です。数値だけでなく、投稿への反応内容や拡散のされ方から、ブランドイメージがターゲット層に正しく伝わっているかを確認しましょう。
- ブランド評価:ブランドがどのように評価されているかを分析します。ショップのレビューや顧客によるSNS上での言及、顧客アンケート、フォーカスグループなどを活用して、ブランドの信頼度や競合との比較評価を把握します。
- 顧客ロイヤルティ:ブランドを知ってもらい、好きになってもらったうえで、実際に「選ばれ続けているか」を確認します。リピート購入率や顧客維持率などを定期的に確認しましょう。
ブランドポジショニングの成功例

Apple
Apple(アップル)は感性と創造性を刺激するブランドとして、テクノロジー企業の中で独自のポジションを築いています。パソコンやスマートフォンといった製品を販売する際、Appleが伝えているのは機能ではなく体験です。
たとえば、製品の広告や店舗デザインでは、スペックを細かく説明するのではなく、美しいデザイン、直感的な操作、洗練されたユーザー体験といった感覚的な価値を前面に打ち出しています。
LUSH
LUSH(ラッシュ)は、化粧品ブランドの中でも自然派、環境配慮、自己表現という価値観を軸に、エシカルなブランドとしてポジショニングしています。
他の化粧品ブランドが商品の効果を強調したり、美しいモデルを起用した広告でイメージを訴求したりするのに対し、LUSHはブランドの価値観に根ざした社会的メッセージをカラフルな商品デザインや香り、パッケージレス販売などのサステナブルな取り組みを通して発信しています。
Louis Vuitton
Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)は、文化、伝統、職人技を軸に革新を続けるブランドとして、ハイブランドの中でも独自のポジションを築いています。
多くのハイブランドがファッション性やリッチなステータスを中心に訴求するのに対し、ルイ・ヴィトンは旅やクラフツマンシップという普遍的なテーマを通じて、単なる高級品ではなく、知性で文化を備えたラグジュアリーの象徴として差別化されています。
まとめ
ブランドポジショニングは、単なるマーケティング施策ではなく、企業が市場で消費者からどのように見られるかを定めるブランド戦略です。他社にはない価値や役割を見つけることで、単なる機能や価格の違いだけではない理由で、顧客から選ばれ続けるブランドを確立することができます。
また、ポジショニングは一度決めて終わりではありません。市場や顧客の変化に合わせて、提案する価値や発信方法を調整し続けることも重要です。自社ならではの価値を見つけ出すことで、顧客の信頼と選ばれる理由を積み重ねていきましょう。
ブランドポジショニングに関するよくある質問
ブランドポジショニングはなぜ重要?
ブランドポジショニングが重要なのは、価格競争からの脱却を可能とする戦略であるためです。競合にはない「顧客から選ばれる理由」を持つことで、利益率や顧客ロイヤルティを向上させることができます。
ブランドポジショニングマップとは?
ブランドポジショニングマップとは、自社と競合ブランドを縦軸と横軸の2つの評価基準で比較し、市場での位置づけを視覚化するツールです。たとえば、縦軸に価格帯(低価格 - 高品質)、横軸に機能性(シンプル - 多機能)を設定すると、自社が市場の中でどの位置にあり、どの領域に差別化の余地が残っているか把握できます。
UVPとUSPの違いは?
UVPは顧客視点での価値提案、USPは実際の販売における強みや訴求として区別されます。たとえば、UVPが「生活をより快適にするデザインの椅子」である場合、USPは「他社よりも30%軽く、持ち運びやすい椅子」といった具体的な訴求内容になります。ただし、両者を明確に分けず、ほぼ同じ意味で用いられる場合も多いです。
ハイブランドはどうブランドポジショニングしている?
ハイブランドは、機能や価格ではなく、ステータス、体験、世界観などの感情的価値を重視してポジショニングしています。商品の性質よりも、所有することの意味やブランドストーリーを通じて、特別な体験を提供しています。
ブランドリポジショニングとは?
ブランドリポジショニングとは、既存ブランドの価値や立ち位置を再定義し、新しいターゲットや市場に適応させることです。たとえば日清食品のカップヌードルは、もともと手軽に食べられる即席食品という位置づけでしたが、近年では若者文化やSNS発信と結びついたライフスタイルブランドへと変化しました。インスタント食品のイメージを刷新するテレビCMなどを通じてブランド価値を高め、ブランドリポジショニングの成功例となっています。
文:Hisato Zukeran





