顧客ニーズの多様化や競争の激化が進んでいる現代の市場では、適切なマーケティング戦略の立案が重要性を増しています。自分なりの戦略を練って実行したものの成果が出なかったり、その難解さから立案・実行に着手できていないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、マーケティング戦略についてわかりやすく整理し、その立案に使われるフレームワークや立て方、実行時のポイントも解説してますので、ぜひ参考にしてみてください。
マーケティング戦略とは

マーケティング戦略とは、企業の商品やサービスを顧客に購入してもらうための戦略を指します。簡単に言うと、「誰に」「何を」「どれくらいの価値として」「どのように提供するか」を筋道立てて決定していくことでもあります。
マーケティング戦略を策定するための具体的な活動としては、市場調査、価格設定、販路選び、プロモーション施策などがあります。市場調査に基づいて顧客のニーズを理解し、販路選びや価格設定、自社の魅力を伝えるプロモーションで、競合との差別化や潜在顧客の掘り起こしを図ります。
これらの施策が戦略的な意図を持って実行されることで、分析の精度が上がり、成功・失敗要因も明確になります。また、マーケティング戦略が明確化されることで企業活動に一貫性が生まれ、顧客との信頼関係も構築しやすくなります。
マーケティング戦略立案に使われるフレームワーク9選

1. STP分析
STP分析とは、マーケティング戦略の方向性を明確化・最適化するためのフレームワークです。具体的には、以下の3つの段階に分けて、分析を行います。
- Segmentation(セグメンテーション):市場を細分化することです。年齢・性別・地域などの人口統計的要因、ライフスタイル・価値観などの心理的要因、購買行動などの行動的要因などで分類し、市場や顧客の特性を把握します。
- Targeting(ターゲティング):セグメンテーションによって細分化された市場の中で、自社の強みを最も活かせる顧客グループを選定することです。
- Positioning(ポジショニング):ターゲティングで設定した顧客像に合わせて、競合優位性や独自性を発揮できる市場での立ち位置を明確にします。
STP分析を活用することで、自社商品やサービスを「誰に」「どのように」提供していくべきかを明らかにできます。多様化する顧客のニーズに対し、自社の強みや魅力を最大限に発揮できる市場と伝え方を見つけ出すために欠かせません。
2. 4C分析
4C分析とは、顧客視点でマーケティング戦略を考えるためのフレームワークです。「4C」は、以下4つの分析するべき要素の頭文字からとられています。
- Customer Value(顧客価値):顧客が価値を感じる商品・サービスかどうか
- Cost(コスト):顧客が納得する価格かどうか
- Convenience(利便性):顧客が商品を購入しやすいかどうか
- Communication(コミュニケーション):顧客が商品・サービスの情報を収集しますいかどうか
商品やサービスの質をあげるだけでなく、顧客が欲しいものへの理解を深めてどのように提供するかに焦点を当ててマーケティング施策を考えることが、この分析の目的です。顧客が感じる価値、価格、利便性などを考慮した戦略を実行すれば、顧客満足度の向上や長期的な信頼構築を実現できるでしょう。
3. 4P分析
4P分析とは、企業が商品を提供する際の視点でマーケティング戦略を考えるためのフレームワークです。具体的には、以下4つの要素で構成されています。
- Product(商品):どのような商品・サービスを提供するのか
- Price(価格):どの価格で販売するのか
- Place(流通):どこで販売するのか
- Promotion(販売促進):どのように販売するのか
4C分析と似ていますが、こちらは「企業がコントロールできる要素」で成り立っています。そのため、商品を市場へ送り出すための、現実的な戦略を立案する手法と言えます。4C分析と4P分析を併用し、「売り手」と「買い手」の両方の視点からマーケティング戦略を考えることで、最大限の効果を発揮するようになります。
4. 3C分析
3C分析とは、自社の強みと弱みを分析する際に利用されるフレームワークで、以下3つの要素で構成されています。
- Customer(市場・顧客):市場と顧客ニーズについて
- Competitor(競合):競合他社の市場シェア、強み・弱みについて
- Company(自社):自社の強み・弱みについて
3C分析は、市場参入や新規事業立ち上げのタイミングで、成功する要因を見つけ出すといった目的に適しています。市場ニーズに適した競合優位性を見つけ出すことで、商品やサービスの方向性や改善点を明らかにすることができます。
5. SWOT分析
SWOT分析とは、企業や事業の現状を内部・外部の環境から分析するフレームワークです。具体的には、以下4つの視点から分析します。
- Strength(強み):自社や商品・サービスの長所
- Weakness(弱み):自社や商品・サービスの短所
- Opportunity(機会):自社に好影響をもたらす社外環境
- Threat(脅威):自社に悪影響を与える社外環境
強み・弱みといった内部環境とともに、自社を取り巻く外部環境も分析することで、自社の状況を多角的かつ客観的に把握することができます。見落としがちな課題を解決する具体的な戦略や、、新たなビジネス機会の発見、将来直面する不測の事態の特定と対処に役立てたりすることができます。
6. PEST分析
PEST分析とは、企業の外部環境をマクロ視点で分析するためのフレームワークです。具体的には、以下4つの視点から分析します。
- Politics(政治的視点):法規制、規制緩和、外交関係など
- Economy(経済的視点):経済成長、金利、景気など
- Society(社会的視点):人口動態、世論、社会的価値観など
- Technology(技術的視点):デジタル化、AI、再生可能エネルギーなど
中長期的なマーケティング戦略を構築していくうえで、外部要因による市場の変化を先取りして、リスクを避けながらチャンスをつかむことが主な目的です。またSWOT分析でも紹介した社外環境の機会・脅威を明確化する際にも役立つフレームワークです。
7. AIDMA分析
AIDMA分析とは、顧客が購入決定するまでの心理的なプロセスを段階的に分析するフレームワークです。心理的な購買プロセスは、以下5つの段階ごとで可視化します。
- Attention(注目):商品・サービスに目を向ける
- Interest(興味):商品・サービスに関心を持つ
- Desire(欲求):商品・サービスが欲しいと思うようになる
- Memory(記憶):欲しいと思った商品・サービスを覚える
- Action(行動):実際に商品・サービスを購入する
マーケティング戦略において、各施策がどの段階に対してアプローチするものかを明確にしていきます。広告や販売活動を最適化したいときや、ペルソナ設定をする際に有効なフレームワークです。
8. VRIO分析
VRIO分析とは、自社の経営資源に競争優位性があるのかを見極めるためのフレームワークで、以下4つの視点で分析します。
- Value(社会的価値):市場や顧客に価値を与えられるか
- Rareness(希少性):市場において希少な存在か
- Inmitability(模倣困難性):他社が模倣することが困難か
- Organization(組織):資源を最大限に活用できる組織体制か
製品や技術力といった経営資源に対して、上記4つの視点で上から順に当てはまるかどうかを分析することで、自社の優位性を5段階で評価することができます。例えばValueの段階で当てはまらないのであれば弱みとなっており、Rareness以降に当てはまる場合は競争に優位な強み、すべてに当てはまる資源であれば将来的にも持続性のある優位性だと判断することができます。
9. ファイブフォース分析
ファイブフォース分析とは、業界や市場の構造・現状を分析するためのフレームワークで、下記5つの競争要因を分析して判断します。
- 業界内での競争:競争が激しいほど、利益率が下がる可能性が高まる
- 業界への新規参入者:新規参入者が脅威なほど、利益確保が安定しなくなる可能性が高まる
- 代替品の存在:代替品が多いほど価格競争が発生し、収益性が下がる可能性が高まる
- 買い手(顧客)の交渉力:買い手の交渉力が上がるほど、利益率が下がる可能性が高まる
- 売り手(サプライヤー)の交渉力:売り手の交渉力が上がるほどコスト増につながり、収益性が下がる可能性が上がる
それぞれの要因の影響力が強くなるほど、収益性を高めたり新規参入で成功することが難しくなります。ファイブフォース分析により、市場にビジネスチャンスがあるか、自社の強みで収益性を確保できるかを見極めることができるため、新規事業の参入や既存事業の撤退を判断する際に役立ちます。
マーケティング戦略の立て方

1. 市場や環境を分析する
まずは市場調査や競合調査を通して、自社を取り巻く環境を把握しましょう。市場のトレンドを適切に把握したり、参入すべき市場や強みを正確に見極めたりすることで、マーケティング戦略の方向性を見出すことができます。特に、以下のフレームワークは環境分析に役立つため、ぜひ活用してみてください。
- PEST分析:企業の外部環境をマクロ視点で分析するためのフレームワーク
- 3C分析:自社の強みと弱みを分析する際に利用されるフレームワーク
- ファイブフォース分析:業界や市場の構造、収益性を分析するためのフレームワーク
- SWOT分析:企業や事業の現状を内部・外部の環境から分析するフレームワーク
2. 市場細分化とターゲティングを実施する
市場や環境の分析を終えたら、STP分析を用いてターゲットとする顧客やセグメントを決定します。
- 市場の細分化:人口統計的要因、心理的要因、行動的要因などで分類し、市場や顧客の特性を把握
- ターゲティング:セグメンテーションによって細分化された市場の中で、自社の強みを最も活かせるセグメントを選定
- 立ち位置の明確化:競合優位性や独自性を踏まえて、ターゲット市場における自社の立ち位置を明確化
商品・サービスで全ての人を満足させようとすると、結果的に誰の心にも深く響かないものになるリスクがあります。そのため、マーケティング戦略を最大化するために、顧客を絞り込むことが極めて重要です。
3. 自社独自の価値を明確化する
STP分析でターゲティングができたら、次にユニーク・セリング・プロポジション(USP)を明確にしましょう。ユニーク・セリング・プロポジションとは、顧客へ提供できる自社独自の価値を表します。顧客に向けて独自の価値を明確に打ち出し、一貫性のあるマーケティング活動を継続することで、製品・サービスに対する関心を引いたり、信頼関係を構築したりしやすくなります。
4. マーケティングミックスを実施する
ユニーク・セリング・プロポジションが明確になったら、4P分析を通してマーケティングミックスを実施しましょう。マーケティングミックスとは、4P分析で分析した4要素(商品、価格、流通、販売促進)を最適に組み合わせ、ターゲットとするセグメントにどのようにアプローチしていくかを具体的に決定することです。
また顧客視点で考える4C分析も同時に活用し、企業・顧客両方の視点からマーケティングミックスを策定していくことで、より確度の高い実行戦略を練ることができます。
5. 実行して効果測定・改善を行う
マーケティング施策を実行したら、継続的に効果測定を実施していくことも重要です。成果要因を徹底的に分析し、改善に努めることが持続的な成果を生み出します。ECサイトでマーケティングの効果を測定する場合には、事前に以下の指標でKPI(重要業績評価指標)を決定しておくことが欠かせません。
- トラフィック
- CVR(コンバージョン率)
- AOV(平均注文額)
- 顧客維持率
- カゴ落ち率
- 返品率
なお、Webサイトのアクセス解析にはGoogle(グーグル)アナリティクスを用いることが有効です。Shopify(ショッピファイ)のストア分析でもデータを取得できますが、ShopifyとGoogleアナリティクスを連携させるとより詳細なデータが得られます。
マーケティング戦略の施策例

SNSマーケティング
SNSマーケティングとは、Instagram(インスタグラム)やTiktok(ティックトック)をはじめとしたソーシャルメディアを活用して行うマーケティング施策のことです。SNSは商品やサービスの情報を拡散させるのに適したプラットフォームで、リポスト&フォローキャンペーンやハッシュタグキャンペーンなど、ユーザーが気軽に参加できるキャンペーンが効果的です。また顧客がSNSアカウントに投稿した商品写真や動画、レビューを公式SNSで紹介することで、顧客との信頼構築や購買意欲の向上につなげることもできます。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、ブログやメルマガ、動画などで消費者に有益な情報を発信する施策です。特に顧客の悩みの解消や、顧客の体験談などをテーマにした記事は、顧客からの信頼獲得に効果を発揮します。質の高いコンテンツを提供することで、市場のなかで権威性を得られるとともに、SEO対策にもつながります。
メールマーケティング
メールマーケティングとは、メールを通じて製品やサービスの情報を顧客に届ける手法です。自社のメールアドレスと送信先のリストがあれば開始できるため、導入ハードルが低いというメリットがあります。またメールを通して定期的に割引コードの配布などを行えば、既存顧客との関係性を維持・強化できるでしょう。
マーケティング戦略を効果的にするポイント

完璧な計画を作成しようとしすぎない
時間の経過とともに市場の状況は変わるため、マーケティング計画は最初から完璧に作成しようとしすぎないことが重要です。上記で説明した手順とフレームワークを活用し、施策を実行したら効果測定を行うPDCAサイクルを繰り返して、マーケティング戦略の確度をさらに高めていくことが欠かせません。
顧客視点を常に持つ
自社商品を訴求することに力を入れすぎて、顧客視点を失わないように注意しましょう。最終的に商品やサービスを購入するかどうかを決めるのは顧客なため、マーケティング戦略の立案から実行、改善までの全プロセスで顧客視点を持つことが重要です。
3C分析のフレームワークを用いることに加え、SNSなどでの口コミ分析をしたり、カスタマーサポートに寄せられる意見などを把握したりして、顧客の声をフィードバックに反映させましょう。
既存顧客のロイヤルティ向上にも力を入れる
新規顧客だけでなく、既存顧客のロイヤルティ向上を目指した取り組みも欠かせません。新規顧客を獲得する場合、既存顧客の5倍のコストが発生する(1:5の法則)と言われることから、既存顧客の維持や平均注文額(AOV)アップに目を向けるマーケティング戦略も有効です。CRM(顧客管理システム)を活用して既存顧客のデータを収集・分析しながら、既存顧客のロイヤルティ向上のための施策も行い、企業の継続的な売り上げを確保しましょう。
まとめ
市場内の競争が激化し、顧客ニーズも多様化する中、マーケティング戦略はビジネスの成功に大きく影響します。マーケティング戦略を成功させるためには、立案から実行、改善までの全プロセスにおいて、常に顧客視点を踏まえて思考することが重要です。複数のフレームワークを活用して市場調査からターゲティング、マーケティングミックスの実行まで地道に進め、自社の独自性を存分に発揮できる戦略を構築しましょう。
またマーケティング戦略を実施したら、定量的なデータをもとに効果を測定したり、顧客の口コミなどの定性的なデータも取り入れたりして、より確度の高い改善策を講じることができるよう努めてみてください。
マーケティング戦略に関するよくある質問
マーケティング戦略とは?
マーケティング戦略とは、企業の商品やサービスを顧客に購入してもらうための戦略を指します。
マーケティング戦略に使えるフレームワークは?
- STP分析
- 4C分析
- 4P分析
- 3C分析
- SWOT分析
- PEST分析
- AIDMA分析
- VRIO分析
- ファイブフォース分析
マーケティング戦略を立てる手順は?
- 市場や環境を分析する
- 市場細分化とターゲティングを実施する
- 自社独自の価値を明確化する
- マーケティングミックスを実施する
- 実行して効果測定・改善を行う
マーケティング戦略の例は?
- SNSマーケティング
- コンテンツマーケティング
- メールマーケティング
マーケティング戦略作成のためのポイントは?
- 完璧な計画を作成しようとしすぎない
- 顧客視点を常に持つ
- 既存顧客のロイヤルティ向上にも力を入れる
文:Ryutaro Yamauchi





