SNSの普及に伴い、動画広告や動画コンテンツを目にする機会が増えています。総務省の令和5年度情報通信メディアに関する報告書では、インターネット利用時間で最も多いのが「動画投稿・共有サービスを見る」となっており、10~20代においては平均利用時間が100時間を超えています。またモバイル機器からの閲覧が多いという結果が出ており、多くの企業が動画広告や動画コンテンツ配信などの動画マーケティングに着目しています。
この記事では、動画制作のやり方について、初心者向けに解説していきます。動画制作ツールの選び方や動画のクオリティを高める方法についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
動画制作の流れ:8つのステップ

1. 目的を明確化する
まず、動画制作の目的を明確化する必要があります。企業やブランド、商品の認知度向上を目的とするケースが一般的ですが、他にもブランディングや新商品の販促活動、企業に対する信頼獲得、採用活動などさまざまな目的が考えられます。目的は可能な限り具体的にしましょう。
例えば、新商品発売に合わせて動画制作する場合、認知度を上げたいのか販売数を増やしたいのかによって、作成する動画が異なってきます。認知度を上げる場合は流行りの音楽などを使って拡散を狙うのが有効な一方、販売数を増やすなら購入することにより得られるメリットや、購入後の自分を想像させるような動画を作成するのが効果的でしょう。
2. ターゲット層を明確化し、ペルソナ設定を行う
ターゲットオーディエンスを明確化し、ペルソナ設定を行いましょう。動画配信のターゲットとなる人々を定義することで、どのような動画マーケティング戦略を取るべきかが明らかになり、効果的な施策を行えるようになります。
さらに、ペルソナと呼ばれる典型的な顧客像を定義することで、ターゲットオーディエンスの視点からより効果的な動画制作ができるでしょう。ターゲットオーディエンスとペルソナを設定するにあたり、必要となる情報は以下の通りです。
- 人口統計情報:年齢や性別、居住地、家族構成、職業、収入など
- 心理的情報:趣味や興味関心、価値観、悩み、願望、課題など
- 行動情報:平日・休日の過ごし方、よく訪れる場所、使用SNS、よく見るメディア、使用デバイスなど
ターゲット層の明確化とペルソナ設定により、ユーザーのニーズをより詳しく把握できるようになります。それらのニーズを満たすことを念頭に置いて動画制作を行うことで、より訴求力の高い動画を作ることができ、目的達成につながりやすくなります。
3. 公開するチャネルを決める
目的やターゲット層、ペルソナに合わせて、動画を公開するチャネルを決めます。SNSやブログ、公式サイトなどの無料チャネルだけでなく、Google広告やインスタ広告、Facebook広告などの有料チャネルも視野に入れて検討しましょう。
ショート動画やTikTok(ティックトック)の場合は縦型動画、YouTubeの一般的な動画は横型が推奨されるため、チャネルだけでなく投稿する場所も決めておくと良いでしょう。
複数のチャネルで動画を公開することでより多くのターゲット層にリーチすることもできますが、確保できるリソースによってはマーケティングチャネルを絞った方が効果的な場合があります。複数チャネルでの動画公開を行う場合には、チャネルに優先順位をつけるようにしましょう。
4. 動画のアイデアを練る
ブレインストーミングを行って、制作する動画のアイデアを練ります。ブレインストーミングでは、可能な限り多くのアイデアを出せるよう、質よりも量に重点を置き、自由な発想で思いつくものを書き留めていくことが重要です。
アイデアが思い浮かばない、ピンとくるアイデアがないという場合には、以下の方法でアイデアのヒントを得ることができます。
- 競合他社のサイトやSNSの動画を研究する
- 人気の動画や流行している動画から学びを得る
- 注目のインフルエンサーの動画を参考にする
さらに、どのような種類の動画にするかを考えることもブレインストーミングに役立ちます。
- 実写動画:インタビュー、プロモーション、ブランディング、企業紹介、商品紹介や商品開封、説明やハウツー、ドキュメンタリーなど
- アニメーション動画:キャラクターアニメーション、3DCGアニメーション、ストップモーションアニメーション、モーショングラフィックス、手書き風アニメーションなど
- 実写とアニメーションの組み合わせ:実写動画とアニメーション動画を組み合わせた動画
実写とアニメーションを組み合わせ、ソールの特徴を視覚的に伝えている。
5. 計画を立てる
動画の制作開始から公開までの計画を立てます。アイデアを具体的な動画へと形作っていくだけでなく、公開までに必要な素材や機材、人員、日程を知るためにも重要です。計画を立てる際は以下のことを行います。
- スクリプトの作成:動画のシーンや動き、セリフを時系列に記載します。動画の構成や盛り込みたいメッセージなど、動画のベースとなる部分を文章化していきます。
- ストーリーボードの作成:スクリプトを元に、各場面をイラストや絵、画像で表現していきます。
- 撮影場所の決定と撮影日、必要機材、人員の確保:撮影する場所を決定したら、撮影する日程を決めます。その際に必要な撮影機材をリストアップし準備するだけでなく、撮影者や出演者などの人員の確保も行いましょう。
- 編集期間、人員の確保:動画編集に必要な日数と人員を確保します。
- 動画公開日の決定:動画公開日を決めておきましょう。公開直前に慌てないよう、スケジュールに余裕を持たせることが大切です。
出典:並べるだけ絵コンテ素材
6. 動画を撮影する
撮影に必要な機材や人員を確保したら、実際に動画を撮影していきます。動画を撮影する際に気を付けるべきポイントは以下の通りです。
- カメラを安定させる:手ブレやアングルが曲がってしまうといったことを避けるために、カメラを固定した状態で撮影を行うか、動きがある動画を撮る場合にはスタビライザーやジンバルを活用します。
- 複数のアングルから撮影する:同じシーンでも複数のアングルから撮影することで、動画に変化を加えられます。さまざまなアングルの映像があれば、動画を編集する際のシーンの移り変わりに活用したりバリエーションを出したりと表現力の幅も広がります。
- カメラはゆっくり動かす:動画撮影に慣れていない初心者の場合、カメラの動きが速くなる傾向にあるため、ゆっくりと動かすことを心がけます。
- 背景にある物や人の映り込みに注意する:背景に意図しない物や人、場所が特定できる物、個人情報が映り込まないように気を付けます。
- 1カットは10秒前後に抑える:1カットが長いと単調な動画になる傾向にあるため、質の良いカットを複数撮影するよう心がけます。また、1カットが短いと、その後の編集でも活用しやすくなります。
- ライティングに気を付ける:撮影する動画の雰囲気に合わせて、必要なライティングを行います。明るい動画を制作したい場合には、自然光を取り入れるだけでなく、レフ板などで明るさを出すことも検討しましょう。
- できるだけ多くのシーンを撮影する:屋外での撮影や人物などが入る撮影の場合、後日同じ環境を再現して撮り直すことが難しくなります。そのため、ストーリーボードに沿った映像以外にも複数のシーンを撮影しておくと安心です。
予算や時間が限られている場合や、十分な撮影技術がなく必要機材を用意できないといった場合、既存の写真を組み合わせたり、フリー画像やフリー動画を活用したりする方法もあります。
7. 動画を編集する
撮影した映像を組み合わせたり不要な部分をカットしたりして、動画を編集していきます。動画の編集には、動画編集ソフトやアプリを使用します。ここでは撮影した映像だけでなく、追加で使用したい画像素材や動画素材を活用することもできます。許可を取ったうえでUGC(ユーザー生成コンテンツ)追加することもできるでしょう。
動画編集で行う主な作業は以下の通りです。
- 撮影した映像や用意した画像・動画などの素材をソフトやアプリに取り込む
- 素材を必要な長さにカットし、つなげる
- 字幕やテロップを入れる
- エフェクトを加える
- BGMや効果音、ナレーションを入れる
- 必要に応じてイントロやアウトロを挿入する
動画の編集が終わったら、動画を最適なフォーマットで書き出します。SNSやブログなどで使用する際に最適なファイル形式であるMP4で書き出しを行いましょう。動画の長さやファイルの容量によっては書き出しに時間がかかる場合があります。
8. 動画を公開する
制作した動画を任意のチャネルにアップロードします。ブログやホームページに動画を掲載したい場合には、例えばYouTubeに一度アップロードし、その後動画のリンクを任意の場所に埋め込むことが可能です。
動画を公開したら、ユーザーとの交流を積極的に行うことも重要です。コメントに真摯に回答したり、質問に答えたりすることでコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことができるでしょう。さらに、閲覧者数やフォロワー数、閲覧者の行動などのデータを分析して、次回以降の動画制作に活かすことも重要です。
適切な動画編集ツールの選び方

互換性を考慮する
動画編集ソフトやアプリを選ぶ際に重要となるのは、自分の使用しているスマホやパソコンのOSが対応しているか、またソフトを快適に使用するための十分なスペックがあるかです。
WindowsとiOSの両方に対応しているソフトもありますが、特定のOSでしか使用できないツールもあるため注意が必要です。さらに、CPUやメモリが適切でないとソフトを起動できなかったり、動作が遅くなったりする可能性があります。特に高画質かつ長編の動画を制作する可能性ある場合、十分なスペックの機器を用意しておくと安心です。
必要な機能があるか
動画編集に必要な機能があるかを確認します。選んだツールに使用したい機能が付いていない場合、編集作業の効率が落ちてしまうだけでなく、動画の質を下げることにもなりかねません。動画編集でよく使用される機能は以下の通りです。
- 速度調整
- 色・明るさの調整
- エフェクト
- 字幕やテロップの挿入
- 音量調整やノイズ除去、BGMや効果音追加などのオーディオ編集
- 動画に使用できる無料素材の提供
さらに、4Kに対応しているか、AIによる編集サポートはあるかといった点もツールを選ぶ際に確認しましょう。
サポートは充実しているか
編集作業に慣れない場合やトラブルがあった時のために、カスタマーサポートが充実しているかを確認します。使い方を説明したチュートリアル動画やマニュアルを用意していたり、サポートスタッフによる撮影方法のレクチャーやセミナーを行っていたりする場合もあります。
価格は最適か
無料のものから買い切りのソフト、サブスクリプション形態などさまざまな料金形態があるため、価格が自社に見合ったツールを選ぶことも大切なポイントです。
無料版は手軽に始められますが、使える機能に制限があったり、ロゴが挿入されたりする場合があります。動画編集で必要となる機能や、用意できる予算を考慮しながら、費用対効果が適切な価格帯のものを選びましょう。
魅力的な動画を制作するためのコツ

感情に訴えかける動画を制作する
感情移入がしやすい動画や登場人物の感情が伝わりやすい動画は、視聴者からの共感を得やすいという特徴があります。ターゲットの経験や置かれている環境と似ている、没入感があり自分自身が登場人物になったような感覚になるような動画を目指しましょう。
例えば、土屋鞄製造所は、仕事を終えて子供を迎えに行き帰宅する、という日常の一コマを描いています。15秒という短い動画でも感情が伝わる動画になっています。
トレンドを取り入れる
特にSNSに投稿する動画の場合、トレンドを取り入れることで拡散され、バズる可能性が高まります。流行の音楽やダンス、テーマなどを選ぶことで多くの視聴者の目に触れ、認知度向上にも役立ちます。
魅力的なサムネイルを作る
サムネイルは、視聴者が閲覧をするかどうかの決め手となるため、興味をそそるような魅力的なものを作りましょう。サムネイル作成には、Canva(キャンバ)などのツールが活用できます。豊富なテンプレートが用意されているため、サムネイルを始めて作る方も安心して質の良いものを作れるでしょう。
登山アイテムを扱う山と道のYouTubeチャンネルでは、ぱっと見て動画の内容がわかるようなサムネイルを使っています。シリーズ動画やコンテンツの種類によってスタイルを変えているため、よりわかりやすくなっているのも特徴です。
ブランドや企業のイメージに合った動画にする
ブランドや企業のイメージに合った動画制作を心がけます。ブランドボイスやブランドカラー、ブランドの世界観と合った動画にすることで、ブランディング効果を得られます。高級感のあるブランドを目指している場合は、シンプルかつ落ち着いた雰囲気の動画、ポップな商品を扱っている場合は、可愛らしいフォントのテロップやイラストをつかった動画にするといった方法が考えられます。
例えば、資生堂はTikTokアカウントでもカラーやコンテンツの内容をブランドの世界観に合わせ、高級感を演出しています。
テンプレートを用意する
イントロやアウトロ、画面の移り変わりのアニメーションやよく使用する構成など、テンプレートを用意しておきます。次回以降の動画制作に活用できて効率化が図れるだけでなく、一貫性のある動画を何度も目にすることで好印象を持ってもらえる単純接触効果も期待できます。
動画制作時の注意点
素材の著作権や商用利用、肖像権を確認する
動画制作時には必ず、使用する音源や画像、動画、イラストなどの素材の著作権や商用利用の条件、肖像権を確認しましょう。無料素材と記載があっても、商用利用ができなかったり、クレジットの明記を条件づけていたりするケースが少なくありません。動画に社員を登場させる場合にも、肖像権使用同意書を作成して使用範囲や退職後の使用についても決めておくと良いでしょう。
情報を詰め込みすぎない
メインテーマに沿って動画を制作し、情報を詰め込みすぎないよう注意が必要です。伝えたい情報がたくさんあるからといって、一つの動画に多くのメッセージを入れてしまうと、メインテーマが何かがわかりにくく、一貫性のない動画になってしまいます。伝えたい情報が多い場合には、動画を分けるといった工夫をしましょう。
編集しすぎない
動画のクオリティを高めたり、雰囲気を調整したりするためにさまざまな編集を加えたくなるかもしれませんが、編集のしすぎには注意が必要です。特にトランジションやエフェクト、効果音、フィルターなどを多用してしまうと、不自然で違和感のある動画になってしまいます。シンプルでわかりやすい動画にするためにも、必要以上の編集は加えないようにしましょう。
動画制作のメリット

多くの情報を短時間で伝えられる
伝えたい情報を動画にすることで、多くの情報を短時間で伝えることできます。動画制作では、画像や映像だけでなくBGMや音声、字幕などを効果的に組み合わせることにより、商品やブランドの魅力を具体的に伝えられるでしょう。
さまざまな用途で活用できる
制作した動画はさまざまな用途で活用ができます。具体的には以下の用途が考えられます。
- 販促活動・営業活動・ブランディング:新商品の紹介、定番商品の特徴と魅力の紹介、ブランドの特徴やこだわり、商品ページでの商品紹介動画、取引先との交渉の際の営業資料など
- 信頼獲得:商品制作の様子、商品開発の裏話、仕入れ先選びの基準やこだわり、ブランドストーリー、消費者の口コミ、インタビューなど
- 採用活動:企業紹介、代表の挨拶、社員の1日の流れや働き方の様子、採用担当者からのメッセージなど
商品の紹介やブランドのこだわりといった「企業から消費者へ」のメッセージだけでなく、実際に消費者が商品を手にした時の感想や使用シーンがわかる動画を活用することで、より訴求力の高いものとなるでしょう。
印象に残りやすい
多くの企業が動画制作を行う理由の一つに、人々の印象に残りやすいという点が挙げられます。動画は視覚と聴覚から同時に情報が入り、短時間で内容を理解できます。映像と音声の両方を使うことで、より正確に物事を伝えることも可能となるでしょう。特に登場人物がいる動画の場合、表情やしぐさから感情を読み取れることから、視聴者からの共感も得られやすい傾向にあります。
表現方法が豊富にある
動画には豊富な表現方法があり、目的に合わせてオリジナリティのあるコンテンツを作成することができます。以下はその一例です。
- CMのようなイメージ動画
- ドラマ仕立て
- インタビュー形式
- セミナーや講義型
シェアされやすく高い費用対効果が期待できる
動画を制作しマーケティング戦略に活用することで、高い費用対効果が期待できます。ショート動画の場合、作成する動画自体が短いことから制作コストを抑えることができるうえ、同じ動画を複数チャネルに使用することも可能です。また、SNSに投稿された動画は拡散されやすいのも特徴です。適切なターゲティングで高いエンゲージメント率も狙えます。
まとめ
動画コンテンツは、短時間で多くのことを伝えられるため、多くの企業や事業者が注目しているコンテンツマーケティングの一つです。人々の印象に残りやすいだけでなく、幅広い表現方法があることから、ブランディングにも活用しやすいのが特徴です。複数のチャネルで公開することも可能で、高い費用対効果も期待できます。
動画制作を行うには、まず目的とターゲットを明確化し、それに合ったマーケティングチャネルを選択しましょう。動画の内容が絞り込めたら、動画制作から撮影、編集、公開までの計画を立て、それに合わせて動画制作を進めていきます。
魅力的な動画を制作するには、感情移入しやすい動画を心がけたり、トレンドを取り入れたりすることをおすすめします。これから初めて動画制作を行うという人は、今回紹介した動画制作の流れを参考にしながら、ブランドや商品に合った動画を制作してみてください。
動画制作に関するよくある質問
動画制作に使えるツールは?
- Adobe Express(アドビエクスプレス)
- Adobe Premiere Pro(アドビプレミアプロ)
- Adobe Premiere Elements(アドビプレミアエレメンツ)
- Canva
- PowerDirector(パワーディレクター)
- Chlipchamp(クリップチャンプ)
- Filmora(フィモーラ)
動画の制作費用の目安は?
一般的な動画の制作費用は、1本あたり5~300万円程度です。ショート動画のような短い動画で、撮影や編集に手間や時間がかからない場合は料金が安価になる傾向にあります。一方で、企画・構成から依頼する場合や出演者を必要とする場合、細かな編集や高度な技術を必要とする動画を制作する場合には、高くなる傾向にあります。
動画制作はAIを使って無料でできる?
無料の動画編集ソフトや無料AIを使うことで、テキストや画像、音声から動画を生成することが可能です。
動画制作はスマホからでもできる?
動画制作はスマホからでもできます。最新のスマホはカメラの画質も良く、手ブレ補正機能が付いているものもあるため、初期投資を抑えて動画制作を始めたい方に最適です。動画編集ができるスマホアプリも豊富にあります。一方で、スマホの画質や音質は本格的な機材と比べると劣ってしまうだけでなく、動画編集においても操作がしにくく使用できる機能に限界がある、高解像度動画の編集がしにくいといったデメリットもあります。
文:Masumi Murakami





