新規ビジネスや新商品を展開するうえで、市場のニーズや特性、今後の動向を把握することが欠かせません。こうした情報の収集・分析に活用できるのが、市場分析です。市場分析は、ターゲット市場に関するデータを基に将来性を検証できる、優れた施策です。価格設定やマーケティング戦略を決める際に役立つだけでなく、ビジネスプランにも必要となる要素でもあります。
この記事では、市場分析のやり方と、マーケット分析でよく使われるフレームワークについて解説します。
市場分析とは

市場分析とは、特定の市場における現状を把握し、それを基に将来の動向を分析するプロセスです。まずは、市場の規模や成長の可能性、ターゲットオーディエンスの特徴、競合他社の動向を理解するためにデータを収集・分析します。その後、数値化したデータを基に、適切な経営戦略やマーケティング戦略を策定します。市場分析は、データや根拠を基にした意思決定を可能にする優れた施策であり、新規事業を始める際や新たな市場に参入する際に欠かせないプロセスです。
市場分析では、次のような情報を特定します。
市場規模
市場規模は、参入する業界・市場に十分な需要や成長性があるかを判断するのに役立つ重要な指標です。一般的に、その業界の年間商取引総額のことを指し、どれだけの売上を目指せるのか、成長が見込める業界であるのかを見極める基準となります。ビジネスプラン作成に必要となるだけでなく、事業規模やマーケティング戦略にも影響を与えます。
市場の動向
市場動向とは、特定の市場における変化や傾向を指します。市場動向は、技術の発展や法改正、経済状況、社会トレンドなどの影響を受けます。そのため、これらを踏まえながら、市場の拡大・縮小傾向、業界トレンド、消費者動向の変化を調べることが大切です。これらのデータを活用することで、市場の変化に柔軟に対応できる、持続可能な事業を築くことができます。
競争環境
主要な競合他社やその特徴、競争率や市場シェアの割合などを調べます。こうしたデータは、参入する余地があるかどうか、利益が見込める市場かどうかを判断する材料になります。また、競合分析を行うことで、競合他社の強みや課題に加えて、市場における自社の立ち位置を把握できます。分析結果をうまく活用することで、効果的な差別化戦略が立案できるでしょう。
顧客特性とニーズ
ターゲット層の年代や属性、購買行動パターンに加えて、自社に対するイメージや購買意欲を調査します。これらのデータは価格設定に大きく関わる、重要な要素です。また、新商品開発や商品改善には、顧客が抱える課題や問題などの顧客ニーズを把握することも大切です。こうした課題やニーズは、インタビュー調査やグループディスカッションなどで調査できるほか、ペルソナを設定することでも可視化できます。
市場分析の手順

1. 業界の調査
まずは業界全体を理解することが重要です。次のような点を確認することで、市場の全体像を把握できます。
- 市場規模:業界にどれだけの企業と顧客が存在するかを調査します。市場が大きすぎると飽和状態の可能性があり、小さすぎると売上につながりません。ニッチ市場を探すことができると、成功の確率を高められるでしょう。
- 市場価値:業界が毎年どれだけの収益を上げているかを把握します。
- 市場の需要:十分な需要があるかを分析します。どんなに便利で画期的な商品でも、需要がなければ事業として成り立たなくなる可能性があります。
以下は、日本国内のデータを確認できるサイトです。
公的機関
民間企業
また、業界特有の情報も検索してみることをおすすめします。例えば、ペットビジネスを始めたい場合は、日本ペット用品工業会や、日本獣医師会のサイトなどをチェックしてみましょう。
2. オーディエンス調査
次に、オーディエンスのセグメンテーションを行います。次のような、オーディエンスの属性や興味・関心に関するデータを収集しましょう。
すでに事業を運営していて既存顧客がいる場合は、アンケートやインタビューを実施して意見を集めます。新規事業の立ち上げで顧客がまだいない場合は、ターゲット層を集めたフォーカスグループの活用も検討しましょう。
また、ソーシャルリスニングやキーワードリサーチ、顧客レビューなども、消費者の意見を把握するのに効果的です。
3. 競合分析
市場分析では、競合分析を行うことも重要です。自分のビジネスを複数の競合他社と比較した際、どのような位置にいるかを判断することで、競合他社の強みと課題を知ることにつながります。これらの特徴を把握し分析すれば、自社の強みや特徴を活用した戦略を立てることができるでしょう。
競合分析では、次のような点を調査・分析するのが一般的です。
これらの情報は、競合他社のウェブサイトやカタログ、プレスリリースのほか、競合のSNSからも確認できます。
市場分析に使われるフレームワーク5つ

SWOT(スウォット)分析
SWOT分析は、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つに着目し、自社のビジネスの特徴を分析するフレームワークです。ECビジネスにおいては市場の変化が激しいことから、自社の立ち位置を明確にすることが重要です。
SWOT分析の4つの要素の詳細は以下の通りです。
- 強み(Strength):自社の持つ専門技術やブランド力、認知度、人材、アフターサービスなど、競合優位性が高い分野のことです。
- 弱み(Weakness):自社に不足している部分や改善点です。これらは競争上の不利をもたらす要因となります。
- 機会(Opportunity):事業成長やパフォーマンスの向上を後押しする外部要因のことで、市場の拡大や技術の進歩などが挙げられます。
- 脅威(Threat):自社の成功に悪影響を及ぼす可能性のある外部要因で、市場の縮小や競争の激化、法改正による規制などが考えられます。
3C分析
3C分析とは、「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つに着目して分析する手法です。これら3つの視点から分析することで、自社の立ち位置を明確化し、成功要因(Key Success Factor)を探ることができます。
- 市場・顧客(Customer):市場の規模や市場の将来性、顧客のニーズや購買決定プロセスなどに着目します。
- 競合(Competitor):競合他社の強みや弱み、売上や市場シェア、顧客数などに着目して分析します。
- 自社(Company):自社の強みや弱み、売上やシェア、収益性、ブランドイメージを分析します。
4P分析
4P分析とは、「製品・サービス(Product)」、「価格(Price)」、「流通(Place)」、「プロモーション(Promotion)」を分析し、商品やサービスのマーケティング戦略に活かすための手法です。
- 製品・サービス(Product):製品・サービスの特徴や機能、パッケージ、アフターサービスなどを分析し、強みや差別化ポイントを明確にします。
- 価格(Price):商品の相場や競合他社商品の価格、原価、顧客が購入したいと感じる価格など、価格設定における分析を行います。割引やセール等における価格設定に関しても分析が必要です。
- 流通(Place):店頭販売、オンライン販売、SNS販売など、各販売チャネルのメリット・デメリットを分析します。ターゲット層が商品購入しやすい環境を整えるのに効果的です。
- プロモーション(Promotion):販促活動を行うチャネルやプロモーションの方法を分析します。SNS広告やメールマーケティング、ポップアップストア、イベント開催などさまざまな方法の中から、最適な手法を検討します。
PEST(ペスト)分析
PEST分析とは、「政治(Politics)」、「経済(Economy)」、「社会(Society)」、「技術(Technology)」の4つの外的要因に着目して行う分析方法です。5〜10年程度の長期的視点でこれらの要因を分析し、市場の動向や将来性、ビジネスチャンスや脅威を捉えます。SWOT分析や3C分析と併用されることの多い分析手法です。
- 政治(Politics):法律の改正や税制改革、規制緩和、補助金交付、政策の変化などが該当します。
- 経済(Economy):景気変動やインフレ・デフレの動向、為替や株価の動き、経済成長率や失業率などを調査・分析します。
- 社会(Society):社会トレンドやライフスタイル、人口動態、世論などに着目し分析します。
- 技術(Technology):技術革新やAIの普及、機械学習やARなどのデジタル技術の発展に伴う影響を分析します。
5F(ファイブフォース)分析
5F分析とは、「競合他社との競争」、「新規参入の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」、「代替品の脅威」の5つの競争要因に注目したフレームワークです。これらを分析することで、参入予定の業界の状況を把握し、自社に有利な経営・マーケティング戦略を策定できるようになります。
- 競合他社との競争:競合他社の数や各社の資金力などに加えて、競争が激化傾向にあるか、シェアが安定しているかといった点を分析します。
- 新規参入の脅威:市場規模や成長率、参入コストなどから、参入障壁の高さを分析します。成長市場においては参入企業が増える場合も多く、自社よりも技術力や資本のある新規企業の参入は注目しておく必要があるでしょう。
- 買い手の交渉力:顧客数やその規模、スイッチングコスト(利用中の商品・サービスから別のものに乗り換える際にかかる金銭的・物理的・心理的なコスト)などを分析します。買い手の交渉力が高い市場の場合、価格の引き下げやサービス向上といった要望が増えることから、収益が上がりにくい傾向があります。
- 売り手の交渉力:サプライヤー数や規模、商品の希少性、スイッチングコストを分析します。売り手の交渉力が高い場合は、コストが上がる、供給が安定しないといったリスクがあります。
- 代替品の脅威:自社商品の代替品となるものの価格や特徴、性能を分析します。代替品が多い市場では、価格競争の激化に陥りやすい傾向があります。
まとめ
市場分析とは、特定の市場における現状や将来性を把握するために行われるプロセスのことです。データを収集するだけでなく、トレンドや市場動向、取り巻く環境の変化を予測することで、価格設定やマーケティング戦略の決定にも役立ちます。ビジネスの展望や将来性をデータに基づいて示すことができるため、融資のための事業計画書を作成する際にも活用できるでしょう。
市場分析によく活用されるフレームワークには、「SWOT分析」「3C分析」「4P分析」「PEST分析」「5F分析」があります。これらのフレームワークを活用しながら、参入予定の市場の状況を把握し、効果的なビジネス戦略やマーケティング戦略の立案に役立ててください。
市場分析に関するよくある質問
市場分析とは?
市場分析とは、特定の市場における現状を把握し、市場の特性や今後の動向などを分析するプロセスを指します。収集・分析したデータを基に市場の将来性を予測・分析することで、適切な経営判断やマーケティング施策の策定が可能になります。
市場調査と市場分析の違いは?
市場調査が市場の現状を知ることであるのに対し、市場分析は、これらの市場調査の結果を基に、トレンドや市場動向を予測したり、成長の可能性を探ったりするなど、将来の動向を分析することを指します。
市場調査に活用されるフレームワークは?
- SWOT(スウォット)分析
- 3C分析
- 4P分析
- PEST分析
- 5F(ファイブフォース)分析
市場分析にAIは使える?
市場分析にAIを活用できます。市場分析に必要となる膨大なデータを集めたり、特定の情報を抽出したりといった作業を効率化できます。グラフ化などの作業をしてもらうことも可能でしょう。一方で、誤情報が含まれている可能性や、機密性の高い情報の流出といったリスクもあることから、慎重に行う必要があります。
文:Masumi Murakami





