SNS、口コミ、広告、そしてデジタルマーケティングなど、顧客とのさまざまな接点を活用するマルチチャネルのコミュニケーションが当たり前のものとなっていますが、信頼関係を効率的に構築するには状況に応じた接点を選択する必要があります。それには、顧客の購買行動を段階的に可視化できるマーケティングファネルの考え方を取り入れることが効果的です。
この記事では、マーケティングファネルの各段階の概要や、具体的な活用方法などを解説します。マーケティング戦略で悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
マーケティングファネルとは

マーケティングファネルとは、顧客が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの一連の購買プロセスを可視化したフレームワークのことです。「ファネル(Funnel)」は英語で「漏斗(ろうと・じょうご)」を意味し、上部が広く下部に向かって細くなる逆三角形の形状をしています。この形は、最初の段階では多くの人と接点を持つことができても、実際に購入へ至るまでの段階を追うごとに対象者の数は絞られていく様子を表しています。
マーケティングファネルは、一般的に次の4段階に分けられます:
- 認知
- 興味・関心
- 比較・検討
- 購入
これらの段階について、次の章でそれぞれの特徴と効果的な施策を詳しく解説します。
マーケティングファネルとカスタマージャーニーの違い
マーケティングファネルと同様、顧客の購買行動を理解するためのフレームワークとして「カスタマージャーニー」があります。カスタマージャーニーは、顧客が商品やサービスを認知してから購入、さらには利用・リピートに至るまでの一連の体験プロセスを「旅(ジャーニー)」に見立てる考え方です。また、より分かりやすく地図のように可視化したものは、カスタマージャーニーマップと呼ばれます。
一方、マーケティングファネルは、購買行動を段階ごとの人数や割合の推移として視覚的に示すフレームワークです。そのため、顧客の心理や行動の変化を把握したい場合や、購買プロセス全体の流れを分析したい場合には、マーケティングファネルの活用がより適しています。
つまり、カスタマージャーニーは顧客個人に焦点を当て、マーケティングファネルは顧客全体を俯瞰するという違いがあります。
マーケティングファネルの4段階

1. 認知
ファネルの最上部は、商品やサービスを初めて認知する段階です。この段階の見込み客は、商品やサービスを認知しただけで明確な購買ニーズは持っていません。認知経路として、マーケティング活動や口コミ、検索エンジンでの検索、SNS投稿などがあります。たとえば、ブランドと親和性の高いインフルエンサーと協業し、信頼性の高い形で新規顧客層への認知を広げることは効果的な宣伝方法の一つです。
2. 興味・関心
次の段階では、特定のブランドや商品、サービスに興味を持ち始め、情報収集を行う見込み客が対象となります。行動としては、公式サイトやSNS、ブログなどを確認しながら、いくつかの候補となる商品を絞り込んでいきます。そのため、魅力的なコンテンツやストーリーテリングを活用したブランド紹介などを通じてその価値を伝え、関心を購買意欲へとつなげる工夫が求められます。
3. 比較・検討
特定のブランドや商品などに関心が高まると、顧客は他社製品との違いや特徴、価格、利点・欠点を比較し、自分に最適な選択肢を検討します。比較サイトの比較表やレビューなどのコンテンツを活用する傾向にあるため、ブランド側は購買判断につながる情報を的確かつわかりやすく提供することが重要です。
4. 購入
比較・検討で適した商品を見つけると、顧客は購入を考え始めます。ただし、すぐ購入に至るとは限らず迷いが生じるケースもあります。そのため、期間限定セール、ポイント還元、送料無料キャンペーンなど、最後の一押しとなる特典を設けることで、購入を促進できます。
3種類のマーケティングファネル

これまで解説してきた、顧客の認知から購入に至るまでの基本的なマーケティングファネルは、「パーチェスファネル」とも呼ばれます。このほかに、購入後の顧客の行動を示す「インフルエンスファネル」と、これらを組み合わせた「ダブルファネル」という、合わせて3つの種類があります。
インフルエンスファネルは、購入後の顧客の行動に焦点を当てたフレームワークです。上部から「継続→紹介→発信」の3段階で構成されており、顧客が商品やサービスを購入したあと、リピーターとなり、さらに知人や友人に紹介したりSNSなどで口コミを発信したりといった行動へと至るまでのプロセスです。この構造は、情報が届く範囲やビジネス機会の広がりを示すため、数が絞り込まれていくパーチェスファネルとは逆向きの三角形として表現されます。とくにサブスクリプションやSaaS、ECサイトなど、顧客の継続利用や紹介が重要となる業界で活用される傾向にあります。
ダブルファネルは、パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたフレームワークです。認知から購入、さらに継続・発信に至るまでの顧客ライフサイクル全体を一つの流れとして捉えられる点が特徴です。このモデルを活用することで、企業は新規顧客の獲得と既存顧客による拡散・紹介の両方を戦略的に設計できます。
マーケティングファネルの活用方法

1. マーケティングファネル分析とペルソナ設計で顧客理解を深める
マーケティングファネルを活用し、各段階の分析を行うことで、どの段階の施策に注力すべきかを明確にできます。たとえば、認知段階では到達人数が多いのに対して、購入件数が極端に少ない場合は、「興味・関心」や「比較・検討」の段階で多くのユーザーが離脱している可能性が高いと考えられます。
また、段階ごとに顧客の心理変化を分析することで、より精度の高いペルソナ設定につなげることができます。ターゲットとする明確なペルソナを設定することで、SNSやメール、広告など、どのマーケティング手法を実行するべきかわかるようになります。たとえば、ペルソナに合わせた複数のコンテンツを出しわけたり、ターゲットを絞ったメール配信を行ったりすることで、より成果につながりやすいマーケティング施策の実現が可能になります。
2. 平均注文額をもとに検討期間を設定する
顧客の購入ごとの平均金額を表す平均注文額(AOV)は、顧客が購入を決めるまでにかかる時間(検討期間)を判断する指標として役立ちます。たとえば、高額商品の場合は購入までの検討期間が長く、低価格商品の場合は短くなる傾向にあります。そのため、高額商品のようなAOVが高いケースでは「興味・関心」「比較・検討」の考慮段階のコンテンツに注力すると良いでしょう。一方で、AOVが低い場合は認知段階から集客に注力することが効果的です。このようにAOVを基準にマーケティングファネルを活用することで、どの段階に予算とリソースを重点配分すべきか判断できます。
3. 流入チャネルを把握する
マーケティングファネルを活用して、どのマーケティングチャネルが成果をもたらしているかを分析することは非常に重要です。多くの分析ツールは、通常「最後のクリック」だけを記憶しますが、実際にはその前のSNS投稿や広告など、複数のタッチポイントが購買行動に大きく影響している場合があります。
そのため、購入後にアンケート調査を実施し、商品やサービスをどこで知ったのか明確にすることで、マーケティング施策の改善に役立つ正確なデータを得ることができます。たとえば、TikTokマーケティングの効果が低いと感じ、TikTok広告の停止を検討している場合でも、購入後調査を行うと実際はTikTokが新規顧客獲得の主要チャネルであると判明することもあります。広告費を倍増した結果、新しい市場を開拓することにつながるかもしれません。
また、顧客生涯価値(CLV)を確認することも重要です。長期的に何度も購入してくれる顧客を生み出すチャネルこそ、最も価値の高い投資先といえます。このように、マーケティングファネルの各段階で「どのチャネルや施策が顧客の行動を後押ししているのか」を明らかにすることは、ファネルをより効果的に運用・最適化するための重要な手法です。
マーケティングファネルは古いといわれる理由

マーケティングファネルは、興味から購入までが一直線で画一的な行動モデルとして考えるため、複雑化した現代の購買行動にはそぐわないといわれることがあります。たとえば、Aという商品を調べていた消費者が、関連するジャンルのBの商品も探しはじめ、しばらくしてから再びAの購入を検討するなど、複数のチャネルを行き来しながら意思決定を行います。
さらに、商品やサービスの形態も変化しています。サブスクリプションコマース、シェアリングエコノミー、SaaSなど、所有ではなく体験の提供に価値を置くビジネスモデルが増えています。一人ひとりにパーソナライズした戦略が重要性を増しているなかでは、直線的で最大公約数にアプローチする形のマーケティングファネルでは顧客行動を十分に捉えきれないケースが多くなっています。
一方で、BtoBの場合ではマーケティングファネルは依然として効果的です。BtoBの購買プロセスはBtoCと異なり、個人の感情よりも合理的・組織的な判断が重視されます。意思決定の流れも比較的明確で、購買行動が段階的に進むため、ファネルによる分析が適しています。
まとめ
マーケティングファネルは、顧客の購買行動を段階的に可視化できるフレームワークであり、どの段階で顧客の離脱が発生しているのかを明確に把握できます。そのため、マーケティング活動をより戦略的に設計・最適化するのに有効です。
一方で、現代のBtoC市場では、消費者が検索エンジンやSNSなど複数のチャネルを行き来しながら購買行動をとる傾向が強く、従来の直線的なファネル構造では把握しきれないケースも増えています。そのため、BtoCにおいてはマーケティングファネルの活用が難しく、十分な効果を発揮しにくい可能性があります。
しかし、BtoBの領域では依然として有効です。BtoBの購買プロセスは、関係者や意思決定の流れが段階的に進む傾向にあるため、ファネルを活用することで顧客管理や成果の可視化が実現できます。
マーケティングファネルのよくある質問
マーケティングファネルの施策は?
マーケティングファネルの施策は、「認知→興味・関心→比較・検討→購入」の各段階に合わせて行うことが重要です。顧客の心理や行動は段階ごとに異なるため、それぞれに適したアプローチをとる必要があります。また、どの段階で見込み客が離脱しているのか分析し、そのポイントを重点的に改善していくこともできます。
マーケティングファネルの段階とは?
マーケティングファネルには主に「認知→興味・関心→比較・検討→購入」の4つの段階があります。
マーケティングファネルはなぜ重要?
マーケティングファネルが重要な理由は、顧客の購買プロセスを段階的にわけて可視化できるためです。これにより、どの段階に課題があり、どのような対策をとるべきかを明確に把握できます。また、ペルソナを具体的に設定しやすくなるため、ターゲット顧客の理解が深まり、より効果的なマーケティング戦略の立案につながります。
マーケティングファネルとセールスファネルの違いは?
マーケティングファネルとセールスファネルの違いは、視点です。どちらも同じ購買行動の可視化を目的としたフレームワークですが、マーケティングファネルは認知から購入までのプロセスを重視し、セールスファネルは営業活動の効率化と売上の向上を目的として購入前後を重視する特徴があります。
マーケティングファネルとカスタマージャーニーの違いは?
カスタマージャーニーは、顧客が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの体験プロセスを「旅(ジャーニー)」に見立てて可視化するものです。一方、マーケティングファネルは、購買行動を段階ごとの人数や割合の推移として視覚的に示すフレームワークです。
文:Momo Hidaka





