事業の成長には、既存顧客の維持だけでなく、将来的に購買へつながる潜在顧客を見つけ、良好な関係を築くことが欠かせません。
近年では、SNSやWeb広告(ネット広告)の活用に加え、データ分析ツールを用いることで、潜在顧客の発掘や育成をより効率的に行えるようになっています。しかし、具体的にどのようにアプローチしたらよいのかわからない事業者も多いでしょう。
そこでこの記事では、潜在顧客とは何かといった基本的なことから、潜在顧客の見つけ方や獲得方法などを解説します。顧客獲得の基盤を強化したい企業は、本記事を参考に潜在顧客へのアプローチ方法を押さえておきましょう。
潜在顧客とは

潜在顧客とは、自社の商品やサービスをまだ認知していないものの、将来的に購買へつながる可能性を持つ人を指します。企業にとって潜在顧客は、新規顧客獲得の起点となる重要な存在です。
たとえば、SNS上で類似商品やサービスを検索しているユーザーや、競合サイトを閲覧しているユーザーも潜在顧客に含まれます。こうした層に自社の魅力を自然に届けることで、興味を喚起し、購買行動へとつなげることができます。
潜在顧客と見込み顧客の違いは?
潜在顧客と見込み顧客の違いは、ニーズの自覚と自社への関心の有無です。マーケティングにおいては、まだ購買行動にいたっていない顧客を、次の3つに分類します。
- 潜在顧客:悩みや課題を抱えていても、それを明確なニーズとして認識していない層。自社や商品についてもまだ知らないことが多い。
- 顕在顧客:自分のニーズや課題を自覚し、解決方法を探し始めている層。自社をまだ知らない場合も多いが、適切なアプローチで関心を持たせやすい。
- 見込み顧客:自社の商品やサービスに興味や関心を示し、購入を検討する可能性が高い層。マーケティングではリードとも呼ばれる。
たとえば、「最近作業に時間がかかる」と漠然と感じている人は潜在顧客、「効率化できるツールを探そう」と考えている人は顕在顧客、「A社のツールがよさそう」と関心を持っている人は見込み顧客です。
潜在顧客の掘り起こしとは

潜在顧客の掘り起こしとは、潜在顧客に働きかけて自社の商品やサービスへの興味や理解を深めてもらい、将来的な顧客化を目指す取り組みです。
この段階では、直接的な販売ではなく、認知の向上や信頼の形成が主な目的となります。潜在顧客が自らの課題を意識し、解決手段として自社を想起できるよう促します。その積み重ねが、中長期的な顧客基盤の拡大へとつながります。
潜在顧客の掘り起こし方

1. 情報を収集し、潜在顧客を見つける
潜在顧客の掘り起こしは、ターゲット設定から始まります。将来的に自社の商品を購入しそうな顧客層を把握するため、以下の施策に取り組みましょう。
アクセス解析で既存顧客を理解する
すでに購入経験のある既存顧客の特徴を分析することは、潜在顧客像の具体化に役立ちます。GoogleアナリティクスやShopifyのレポート機能などを活用して、以下の様なデータを確認しましょう。
- 購入者の属性:年齢層、居住地域、利用デバイスなど。
- 人気商品と購買傾向:どの商品が最も購入され、どの価格帯が選ばれているか。
- 再訪・リピート率:どの顧客が定期的に購入しているか、どんな商品がリピートにつながっているか。
これらのデータから、顧客の行動や関心のパターンを把握すれば、同様の特徴を持つ潜在顧客を明確にイメージできます。たとえば、リピート率の高い人気商品の購入層が30代後半の女性なら、同年代で類似の興味を持つSNSユーザーを次のアプローチ対象として想定できます。
SNS分析で潜在顧客のニーズを把握する
SNS上で競合サービスや類似商品に関する投稿やレビューを分析することで、潜在顧客がどのような価値を求め、何に不満を感じているのかを把握できます。
X(エックス)やInstagram(インスタグラム)で関連キーワードを検索し、投稿内容を肯定的・否定的のふたつに整理しましょう。たとえば、デザインは良いが高い、安いけれど壊れやすい、などの投稿から、顧客が不満を抱えている要素を特定できます。
特に、競合他社への言及は貴重なヒントになります。たとえば、A社は高品質だが価格が高いという声が多ければ、自社では高品質と手頃さの両立を訴求することで、潜在層のニーズを的確に捉えられます。
STP分析でターゲットを絞り込む
STP分析とは、誰に・どんな価値を・どう伝えるかを明確にするための手法です。潜在顧客はまだニーズを具体化していないため、STP分析を活用して、自社の強みを最も必要としている層を特定することが重要です。以下の3つの視点で市場を整理します。
- Segmentation(セグメンテーション):市場を年齢層や地域などの特性ごとに細分化する。
- Targeting(ターゲティング):細分化した市場の中から、自社が狙うべき層を選定する。
- Positioning(ポジショニング):競合との差別化ポイントを明確にし、自社の立ち位置を定義する。
たとえば、アパレルブランドであれば、以下の様な分析が可能です。
- S:年齢、ライフスタイル、ファッション感度などで顧客を分類する。
- T:SNSで新作を探す20〜30代女性に絞る。
- P:トレンドと手頃さを両立するブランドとして発信し、他社との差別化を図る。
ペルソナを設定して顧客像を具体化する
ペルソナの設定により、潜在顧客が抱える課題や価値観を具体化し、誰に・何を・どう伝えるべきか把握できます。アクセス解析、SNS分析、STP分析などで得られた情報を基に、以下の項目を確認しましょう。
- 顧客属性:年齢、性別、職業、居住地域など。
- 購買動機:どんな悩みを抱え、どのような状況で商品を探し始めるのか。
- 情報行動:どのSNSやメディアで情報を得ているか、どんな投稿に関心を示すか。
- 購買障壁:価格、信頼性、手間、比較対象など、購入をためらう要因。
たとえば、30代後半・地方在住・仕事と育児のどちらもパフォーマンスを落とさず両立させたいと考えている女性であれば、「手軽に購入できる」「品質に安心感がある」「時短できる」などのニーズが想定できます。
カスタマージャーニーマップで行動を可視化する
カスタマージャーニーマップで、潜在顧客が商品を認知してから購入に至るまでの行動や心理を整理することで、接点づくりの戦略が立てやすくなります。潜在顧客の行動フェーズと、それぞれの対応策は次の通りです。
- 認知フェーズ:SNSや口コミで商品を知る段階。→SNS投稿や広告を活用し、ブランドの存在を印象づけましょう。
- 興味フェーズ:他社商品との比較や検索を始める段階。→ブログや動画で商品の特徴や使い方を具体的に伝えます。
- 検討フェーズ:レビューや価格を確認し、購入を検討する段階。→比較表やFAQページを整備し、疑問や不安を解消しましょう。
- 購入フェーズ:決済や配送条件を確認し、最終的な意思決定を行う段階。→ニーズに合った決済方法を提供するなどスムーズに購入できるようにし、購入完了までの障壁を減らします。
2. 接点をつくり、関心を高める
潜在顧客に自社を認知してもらうための接点を複数設けて、自社商品やサービスへの関心を高めましょう。主に以下の様な手法があります。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、自社のブログなどのオウンドメディアで、潜在顧客が抱える課題を解決する情報を発信する手法です。ユーザーが検索した際に自社の記事が表示されれば、それが最初の接点となります。
たとえば、化粧品ブランドなら「季節に合わせた乾燥対策」や「成分の選び方」など、ユーザーの悩みに寄り添うテーマの記事を発信します。
効果的なコンテンツづくりのポイントは次の通りです。
- ターゲットを明確にする:誰に向けた情報かを定義し、内容や文章のトーンを調整する。
- SEOを意識した構成にする:潜在顧客が検索しやすいキーワードを中心にコンテンツを作成する。
- CTA(行動喚起)を設置する:記事の最後に商品ページや資料ダウンロードへの導線を設け、自然に次の行動へ導く。
SNS発信
SNSは、潜在顧客と自然に出会い、ブランドへの関心を高める効果的なチャネルのひとつです。写真やテキスト、動画などを通じて、潜在顧客へブランドの魅力や世界観を伝えましょう。
たとえば、Instagramで商品の使用シーンを紹介したり、Xで開発の裏側を共有したり、TikTok(ティックトック)やYouTube(ユーチューブ)で体験動画やハウツー動画を投稿するのも効果的です。特に動画は、短時間で多くの情報を伝えられ、潜在顧客が興味を持つきっかけになりやすいです。
効果的なSNS運用のポイントは以下の通りです:
- 目的を明確にする:ブランド認知、サイト誘導、フォロワー獲得など、目的に合わせて投稿内容を調整する。
- フォロワーの関心を反映する:分析ツールで反応の高い投稿を確認し、テーマや投稿時間を最適化する。
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用する:既存顧客の投稿やレビュー動画を紹介し、信頼性と共感を高める。
Web広告
Web広告は、ユーザーの興味や行動データを基に配信対象を細かく設定できるため、潜在顧客への認知拡大に効果的です。ブランドを「見たことがある」状態にし、SNSやブログなど他チャネルと連携することで、継続的な接点づくりにつなげられます。
Google広告やMeta広告(メタ広告)など、潜在顧客が多いプラットフォームを優先的に選定するとよいでしょう。
効果的な広告運用のポイントは以下の通りです:
- 目的を明確に設定する:ブランド認知、トラフィック増加、メールマガジン登録など、目的を数値で定義する。
- ターゲティングを最適化する:年齢層、地域、興味関心などを絞り、無駄な広告配信を避ける。
- ブランドアイデンティティを統一する:SNSやLP(ランディングページ)と広告のデザインやトーンを揃え、違和感のない導線をつくる。
- リターゲティング広告を活用する:広告経由でサイトへアクセスしたユーザーに再度アプローチする。
イベント出展
イベント出展は、潜在顧客がブランドを直接体験する貴重な接点になります。Web広告やSNSでは届きにくい層にもブランドを認知してもらえます。
たとえば、新商品の発売に合わせてポップアップストアを開催したり、業界セミナーや展示会に出展したりすることで、潜在顧客が実際に商品を手に取り、担当者と対話できる機会をつくれます。こうしたリアルな体験は、ブランドへの信頼や親近感を強めるきっかけになります。
イベント施策のポイントは以下の通りです:
- ブランドのストーリーを伝える:単なる商品説明ではなく、開発背景や企業理念を交え、共感を呼ぶ内容にする。
- 出展先・開催テーマを慎重に選ぶ:ターゲット層が関心を持ちやすいイベントや地域を選び、来場者層とブランドの親和性を高める。
- SNS連携を意識する:イベント風景や来場者の声をSNSで発信し、会場外の潜在顧客にもリーチを広げる。
- 体験を通じた記憶に残る接触をつくる:試用、撮影、対話など、五感に訴える要素を取り入れて印象を強める。
メディア露出・PR
メディア露出やPR(広報活動)は、第三者の視点を通じてブランドの魅力を伝えることで、自社をまだ知らない潜在顧客に信頼感を伴った初回接点をつくる手段です。
たとえば、業界誌やニュースサイト、専門ブログなどで紹介されれば、各媒体のお墨付きとなり、信頼できるブランドとして認知してもらえます。
効果的なメディア露出・PR施策のポイントは以下の通りです。
- ニュース性を意識する:新商品の発売、コラボ企画、受賞実績など、メディアが取り上げやすい情報を整理してプレスリリースとして発信する。
- 適切なメディアを選定する:オンラインメディアだけでなく、雑誌や地域メディアなど、潜在層が接する可能性の高い媒体を選ぶ。
- 取材対応やコメントの機会を設ける:記者や編集者の要望に柔軟に応じ、信頼できる発信源としてブランドを位置づける。プレスキットを用意しておく。
- 掲載実績を再活用する:掲載記事を自社サイトやSNSで紹介し、ブランドの信頼性を補強する。
3. 評価と改善を行う
潜在顧客へのアプローチは、一度の施策で完結するものではありません。結果を測定し、改善を繰り返すことで、より多くの潜在顧客にブランドを浸透させられます。
効果測定の指標を設定し、分析する
潜在顧客における認知の拡大や関心の強化に関する数値をKPIとして設定しましょう。KPIを基準に、どのチャネルやコンテンツが潜在顧客の興味を引いたか分析します。
たとえば、以下の様な指標が考えられます。
- サイト訪問数や滞在時間
- SNSのリーチ数やエンゲージメント率
- 広告のクリック率や表示回数
- メディア掲載や露出件数
継続的なテストで精度を高める
一度成果が出た施策でも、時間の経過や市場環境の変化で効果が薄れることがあります。定期的に検証を行い、最適なアプローチを見極めましょう。
具体的には、次のような方法があります:
- バナー広告の画像、見出し、CTAの配置や表現を複数パターンでA/Bテストする。
- SNS投稿のテーマや投稿時間を変えてエンゲージメントを比較する。
- コンテンツやLPの構成を検証し、離脱率やCVR(コンバージョン率)を改善する。
潜在顧客の掘り起こしに関する5つの注意点

- 短期的な成果を求めない:潜在顧客は、今すぐ購買行動に移る段階ではありません。焦らず、認知から関心、信頼へと段階的に育てていくことが大切です。
- 興味・関心を無視した発信をしない:すべての潜在顧客に同じメッセージを届けても響きません。ターゲットの課題や興味を踏まえ、内容をパーソナライズしましょう。
- 反応のない施策は止める:効果が見えないアプローチを続けても成果にはつながりません。データをも基に改善点を見極め、検証を行いましょう。
- 継続的に情報を発信する:一度の発信では信頼は得られません。SNSやブログなどを活用し、定期的に役立つ情報を届け続けましょう。
- コスト管理を怠らない:広告やコンテンツ制作には時間と費用がかかります。効果測定を行い、ROI(投資対効果)を意識した運用を心がけましょう。
まとめ
潜在顧客の掘り起こしは、短期的な販売促進ではなく、将来の顧客基盤を育てるための長期的なマーケティング戦略です。データ分析によって潜在層のニーズを把握し、コンテンツやSNS、広告など複数の接点を通じて信頼を築いていくことが重要です。
一度の施策で成果を求めるのではなく、分析・検証・改善のサイクルを継続的に回すことが、潜在顧客を顕在顧客へと育成する鍵となります。
認知から購買までの道のりを丁寧に設計し、自社の強みを伝え続けることで、「まだ出会っていない未来の顧客」を着実に増やしていきましょう。
潜在顧客に関するよくある質問
潜在顧客とは?
潜在顧客とは、今は商品やサービスを必要としていないものの、興味を持つ可能性のある顧客層のことです。関心の段階に合わせて適切なアプローチを行うことで、将来の顧客へと育てることができます。
潜在顧客の掘り起こしとは?
潜在顧客の掘り起こしとは、自社の商品やサービスに対する認知や信頼を段階的に積み重ね、潜在顧客を顧客へと育成する取り組みを指します。潜在顧客の発掘と呼ばれることもあります。
潜在顧客、見込み顧客、顕在顧客の違いは?
潜在顧客、見込み顧客、顕在顧客の違いは、どれだけ自分の課題を意識しているかと、自社への関心の強さにあります。マーケティングでは以下の様に分類されます。
- 潜在顧客:まだ課題を自覚していない、ブランドも知らない顧客層。
- 顕在顧客:課題を意識し、解決方法を探している顧客層。
- 見込み顧客:自社商品に興味を持ち、購入を検討している顧客層。
潜在顧客の見つけ方は?
潜在顧客を見つけるには、まずどんな人が潜在顧客になり得るのか把握することが大切です。たとえば、既存顧客のデータやSNS上の投稿を分析し、自社の商品やサービスに興味を持ちそうな人の年齢層や興味・関心などの特徴を整理することで、潜在顧客をより具体的にイメージできます。
潜在顧客へのアプローチ手段は?
潜在顧客へのアプローチは、ターゲット層に向けて複数のチャネルで継続的に情報を発信することが基本です。たとえば、ブログなどで役立つ情報を提供するコンテンツマーケティング、SNSで共感を生む投稿や動画発信、Web広告による認知拡大などが効果的です。さらに、展示会やメディア掲載などオフラインの施策を組み合わせることで、オンラインでは届きにくい層にもブランドの存在を広げられます。
文:Hisato Zukeran





