売れる商品・サービスを展開するためには、市場調査が欠かせません。市場調査は、潜在的な購買層となる個人や企業についてのデータを体系的に収集・分析して、そのグループのニーズを理解するプロセスです。企業が情報に基づき戦略的な意思決定を行ううえで、重要な施策といえるでしょう。
この記事では、市場調査の種類や手法について解説します。市場調査を活かした事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
市場調査とは

市場調査とは、商品やサービスを販売する前に市場を理解するための調査活動です。企業は、顧客の数やニーズ、競合の状況や価格帯などを調べ、自社の戦略策定に活かします。感覚や経験に頼らず、データに基づく経営判断を可能とするのが市場調査です。
市場調査の種類

市場調査では、次のような情報を収集するのが一般的です。
市場規模
まず、対象となる市場の大きさや成長性を確認します。顧客数、年間売上規模、市場の成長率、そして平均価格帯を調べることで、参入の妥当性や将来性を判断できます。たとえば、高価格帯市場では競合が少ない、低価格帯では潜在顧客数が多いなどの情報が、狙うべきポジションを見極める指針になります。これらの情報は、政府や業界団体の統計、公開レポートなどから得ることができます。
顧客情報
次に、「どんな顧客が、何を求めているのか」を明らかにします。年齢・性別・職業などの基本属性に加え、購入動機、不満点、満足度、ブランドイメージ、認知度などを調べます。これにより、自社ブランドがどのように見られているか、どんな価値を期待されているかを把握できます。アンケートやインタビュー、SNSの投稿、口コミ、レビューなどが貴重な情報源となります。
競合情報
競合企業の数や社名、競合商品の価格、販売方法、プロモーション戦略などを調べ競合分析を行い、自社の立ち位置を決定します。特に「価格帯」や「訴求メッセージ」を比較すると、自社が狙うべき差別化ポイントが明確になります。また、競合商品の認知度やブランドイメージを把握することで、自社の改善点も見えてきます。調査は主にウェブサイト、広告、SNSなどを使って行われます。
市場トレンド
市場や顧客の関心は常に変化します。検索エンジンの検索ボリュームやSNSでのトレンド、社会的な動きを観察することで、現在の流行と将来の需要変化を早期に察知できます。たとえば「サステナブル」「ご褒美消費」などのキーワードが注目されている場合、それに合わせた商品企画が効果的です。トレンドを継続的に観察することで、変化に強いマーケティング戦略を立てられます。調査には、Googleトレンドや検索エンジンのサジェスト機能、SNSが活用できます。
市場調査が重要な理由

事業リスクを抑え、判断の精度を高められる
市場調査は、新事業や新商品を展開する際にリスクを最小限に抑えるための基礎となります。十分な調査をせずに需要の少ない市場や競合が激しい分野に参入すると、販売目標が達成できない可能性が高くなります。 逆に市場規模や成長率、顧客のニーズ、競合の動きを把握しておけば、費用対効果の高い施策に資源を配分でき、商品の成功率を高められます。特に新商品開発や価格設定、販路選定などの際は、事前の情報収集が成功率を大きく左右します。
顧客理解を深め、競合との差別化を図れる
製品改善やサービス強化の第一歩は、顧客が何を求め、どんな点に満足しているか、または不満を感じているかを把握することです。定期的な市場調査を行うことにより、顧客の購買行動や嗜好の変化を把握でき、今後の商品開発に活かすことができます。まだ十分に満たされていないニーズを見つけることができれば、競合との差別化も図れるでしょう。また、競合他社の戦略や訴求メッセージを自社と比較することで、自社の強みや改善点を客観的に見極めることができます。
感覚でなくデータに基づく判断ができる
経験や勘に頼る経営では、市場環境の変化に迅速に対応することが難しくなります。市場調査を通じてデータを蓄積し、分析に基づいて意思決定を行うことで、戦略の再現性と説得力が高まります。販売データ、顧客アンケート、アクセス解析などを組み合わせることで、企業規模を問わず「データドリブン経営」を実現できます。このような仕組みは、組織全体で同じ情報を共有し、方向性をそろえるための基盤にもなります。
市場調査の主な手法5つ

市場調査の方法にはさまざまな種類がありますが、ここでは日本の企業や個人事業主が取り組みやすい5つの手法を紹介します。目的や規模に応じて複数の方法を組み合わせることで、より正確な結果を得られるでしょう。
1. アンケート調査
アンケート調査は、顧客の意識や評価を統計的に把握できる、最も一般的な方法です。Googleフォームなどのオンラインフォームを利用すれば、費用をかけずに手軽に回答を集められます。ただし、非対面形式のため回答の回収率や正確性が不十分になることもあり、入力の手間を感じさせない工夫をするなど、質問設計が重要になります。顧客の基本属性や購買行動パターンなど事実に基づく情報を確実に収集しながら、認知度や満足度などの定性的な情報もできるだけ得るようにしましょう。
2. インタビュー調査
顧客の行動や心理を深く理解するための手法です。ターゲット層が抱える課題やニーズなど、数値化できない情報を把握するのに適した調査です。インタビュー調査には次の2つの方法があります。
- デプスインタビュー:1対1形式。対象者を深掘りできるため、価値観や考え方などをより詳細に把握できる。
- グループインタビュー:複数人のグループ形式。同じ属性の対象者を集めることで議論が活発化し、意見を深くまで理解できるほか、新たなニーズの気づきにもつながる。
どちらの手法も、対面式とオンライン形式で実施できます。直接話を聞く対面式では、反応や表情から得られる情報が多く、きめ細かな顧客理解が可能です。一方、Zoomなどを使ったオンライン形式では、移動や会場準備が不要なため、コストを削減できます。また、遠方に住むターゲット層からの意見も収集できるのがメリットです。
3. SNS・口コミ分析
SNSの投稿やECサイトのレビューを分析し、顧客のリアルな声を収集します。特にX(エックス)やInstagram(インスタグラム)、Amazon(アマゾン)のレビューなどは、トレンドや関心の変化を把握するのに有効です。また、ウェブサイトのフォームや問い合わせ用メールアドレスに送られてくる問い合わせは、単に業務として片づけるのではなく、貴重な情報源として分析することにより、顧客の本音や要望を探ることができます。
4. 観察調査
観察調査とは、対象者がどのように商品・サービスを利用しているのかを観察し、知見を得る調査方法です。直接現場に足を運び、顧客の実際の行動を観察し、購買行動や利用環境を把握します。商品を手に取ったときの反応や、購入するまでの行動パターンを細かく把握できるのが強みです。また、ECサイトを運営している場合は、サイト上での行動観察も効果的です。クリック分析などを実施してユーザーの行動パターンを把握することで、サイトやサービスの改善点を把握でき、コンバージョン率の向上につなげることができます。
5. 公開データ・統計資料の活用
政府、業界団体、調査会社などが公表するデータを活用すれば、市場全体の傾向や動向を把握できます。代表的な情報源には、総務省統計局、経済産業省、日経リサーチ、帝国データバンクなどがあります。特に自社での情報収集に手をかけられない中小企業にとっては、こうした二次データは、コストや手間を抑えて市場規模や市場の成長率を把握できる有効なツールとなります。
市場調査の手順

1. 調査目的を設定する
まず、調査の最終的な目的を明確にします。目的が曖昧なまま進めると、集めたデータをどのように活用すべきか判断しづらくなります。どのような課題を解決するために、どんなことを把握したいのかをしっかりと言語化することで、調査方法や分析方法を的確に選択でき、市場調査後に取るべきアクションも明確になるでしょう。
2. 仮説を立てる
調査に入る前に、何らかの根拠に基づく仮説を立てておきます。たとえば「20代女性の購買意欲が高い」「価格よりデザイン重視の傾向がある」など、具体的な仮説を持つことで、データを整理しやすくなります。仮説があることで、想定どおりの場合は仮説に合った施策を実行しやすく、想定外の場合も戦略の見直しがしやすくなります。
3. 調査手法を選定する
目的と仮説に応じて、最適な調査手法を選びます。調査方法は多岐にわたり、大規模調査で数値化し傾向や動向を把握したいのか、数値からはわからない消費者の価値観や課題を探りたいのかによって、選択すべき方法が変わってきます。前者の手法には、アンケート調査や公開データの活用、後者の手法には、インタビュー調査や観察調査があります。市場調査の目的や予算などに合わせて、適切な調査手法を選ぶことが成功の鍵となるでしょう。また、SNS分析も取り入れるなど、複数の手法を組み合わせることで、調査の精度を高めることができます。
4. 調査対象と期間を明確にする
調査対象は、想定する顧客層や利用者層に合わせて設定します。ただし、想定するターゲット層以外に思わぬファン層を発見することもあり得るので、少し広めの顧客層を対象とする方がよいでしょう。調査期間は、十分なデータを得られる長さを確保しつつ、分析結果の利用目的に応じて終了日を決定しましょう。
5. 実施する
調査手法、対象、期間が決まったら、市場調査を実施します。アンケート調査の場合は、回答者の負担を減らす設計にすることで、回答率が向上し、より正確なデータを収集できます。インタビュー調査の場合は、柔軟な対応が求められるケースも多いため、さまざまなシナリオを事前に想定しておくことで、臨機応変に対応できるでしょう。
6. 集計・分析する
データを集めたら、結果を整理・可視化して分析します。アンケート調査や公開データの統計の場合はデータを数値化し、インタビュー調査や観察調査の場合は対象者の発言や行動パターンを整理します。また、複数の回答データを掛け合わせて集計するクロス集計やグラフ化による可視化は、傾向をつかむのに効果的です。回答を単に集めるだけでなく、分析結果から市場の傾向や消費者ニーズを読み取り、次のアクションにつなげられるよう整理することが重要です。
7. データを活用する
調査結果は、具体的なアクションに結びつけます。商品開発、価格設定、販促計画、広告メッセージの改善など、設定した目的に応じた施策を検討しましょう。
また、結果を社内で共有し、今後の商品・サービス開発に継続的に活かせる仕組みを整えることも効果的です。調査結果は、レポートにまとめるとよいでしょう。bizoceanの市場調査レポートのテンプレートなど、必要に応じてテンプレートを活用することで、効率的に作成できます。
市場調査の事例
ユニクロ
市場調査の好例として挙げられるのが、ユニクロです。ユニクロは、顧客の意見を集めたい商品に対して、不定期で商品モニターを募集しています。対象ユーザーは、ユニクロの購入履歴があり、専用アプリからレビューを送った実績のある顧客です。ユーザーは興味のある商品モニターに応募し、当選すると無料で商品が提供され、着用した感想や意見をフィードバックします。
ユニクロにとってはコアなファンからの意見を商品開発に活かせるだけでなく、レビューを促す効果もあり、ユーザーにとっては気になる商品を無料で利用できるという、双方にとってメリットがあるのが特徴です。
アサヒビール
アサヒビール株式会社は、「アサヒドライゼロ」を開発するにあたり2段階の市場調査を実施し、ノンアルコールビール市場でのシェア獲得につなげました。まず、顧客がノンアルコールビールに何を求めているかを把握するため、5,000人以上を対象にウェブ調査とグループインタビューを行いました。その結果、「ノンアルコールビールとしての機能性」よりも「ビール本来の味にどれだけ近いか」を重視する強いニーズが明らかになりました。
次に、未発酵の麦汁を使う方法と、麦汁を使わずに風味を調整する方法の2タイプを開発し、約400人のモニターによるテストを実施しました。その結果、後者の製法がより高く評価され、この判断が大きなヒットにつながりました。
パナソニック
パナソニック株式会社は、シェーバー市場の成熟や消費者のライフスタイルの変化をきっかけに、従来の高機能化した商品ではなく、新たな価値を提供できる商品「ラムダッシュパームイン」の開発に乗り出しました。
開発にあたりユーザー調査を実施したところ、持ち手ではなくヘッドを直接使っている層が一定数いることが判明しました。この発見により、刃とモーターをヘッドに詰め込んだ新しいデザインが誕生しました。また、シェービングが心地よい時間となるよう、デザイン性を重視したシェーバーを目指しました。コンセプトの受容性を調査するため、異なる3種類のペルソナを設定しインタビューを実施したところ、30~40代のリッチでおしゃれな層からの支持が最も高くなり、ターゲット層がより明確になりました。また、肯定的・否定的な意見を含む多様なインサイトが得られたことで、ターゲット層が求める商品像を把握でき、商品開発の方向性が定まりました。
このように、市場調査を実施しターゲット層や商品開発の方向性を明確にしたことで、同社は新たな市場を切り開くことに成功しました。
市場調査は自社でできる?外注すべき?

市場調査は、自社で行うことも、専門会社に依頼することもできます。最近では、両者を組み合わせて実施するケースも増えています。どれを選ぶべきかは、目的・予算・社内のリソースによって異なります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合った方法を選択しましょう。
自社調査
自社で実施する最大の利点は、コストを抑えながら迅速に調査を進められることです。現場の担当者が顧客の反応を直接確認できるため、実践的な学びも得られます。ただし、調査設計やデータ分析の経験が不足している場合、結果の信頼性が下がるおそれがあります。また、仮説にこだわるあまり、回答者の集め方や質問内容が恣意的にならないよう注意が必要です。
外注調査
調査会社に依頼する場合、専門的な設計や統計分析を任せられる点が大きな強みです。幅広いサンプルを短期間で集められるため、精度の高い結果が得られます。 一方で、コスト面での負担がかかるほか、事業や商品の詳細を調査会社と共有するのに手間がかかるという問題点があります。具体的なアクションに結びつかずに費用だけがかかることにならないよう、分析結果をしっかりと活用することが重要です。
両者を組み合わせるハイブリッド型
自社で小規模な調査を行い、重要なテーマだけを外注することもできます。たとえば、日常的なアンケートやSNS分析は社内で行い、大規模な市場規模調査やブランド調査を外部に委託する方法です。このように役割を分けることで、コストを抑えながら専門性とスピードを両立した調査が可能になります。特に競合や市場に関する情報など、自社ではリーチしにくいデータは外部に頼る価値があります。
まとめ
市場調査は、顧客や市場の実態を把握し、データに基づいて経営判断を行うための重要なプロセスです。市場規模や顧客ニーズ、競合、トレンドを体系的に調べることで、商品企画や販促計画の精度を高めることができます。また、調査を継続的に行うことで、変化する市場環境や顧客の動向をいち早くつかみ、柔軟に戦略を見直すことが可能になります。
自社で小規模に始める方法から、専門会社と連携する方法まで、目的に応じた調査体制を整えることが大切です。この記事で紹介した「市場調査の手順」を参考に、調査目的や仮説、分析手法を整理し、実践的な市場調査を目指しましょう。
市場調査に関するよくある質問
市場調査とは?
市場調査とは、潜在的な購買層となる個人や企業に関するデータを体系的に収集・分析し、そのグループのニーズや動向を把握するプロセスです。企業はその結果を基に、戦略的な意思決定を行います。
市場調査の目的は?
市場調査の目的は、情報に基づいた意思決定ができるよう、顧客数・ニーズ・競合・価格帯・トレンドといった市場に関するデータを正確に把握することです。
市場調査の方法は?
市場調査の方法には、顧客アンケート、インタビュー、SNS・口コミ分析、行動観察、政府統計や業界データの活用といった手法があります。目的や対象、コストに応じて使い分けたり、複数を組み合わせたりすることで効果を高められます。
市場調査とマーケティングリサーチの違いは?
「市場調査」は、商品開発の初期段階で実施され、数値やデータを基に特定の市場の実態を把握するための調査です。一方「マーケティングリサーチ」は、開発の各段階で実施され、商品・広告・流通などマーケティング活動全体における意思決定をサポートするための調査を指します。
市場調査のコストは?
市場調査のコストは、手法・サンプル数・設問数・対象者の属性などにより大きく変動しますが、インターネット調査(ウェブアンケート)であれば10~20万円、グループインタビューでは10~130万円程度かかるのが一般的です。市場調査会社や経営コンサルティング会社への依頼では数百万~数千万円というケースもあります。
文:Norio Aoki





