Eコマースで成果をあげるためには、定量的なデータを踏まえて顧客のニーズをしっかりと把握し、市場環境の変化に合わせて改善することが不可欠です。改善のための施策はさまざまなものがありますが、その中でもA/BテストはマーケティングやECサイトを最適化するためのテストとして非常に有効です。
しかし、興味はあるものの適切な実施方法を把握していないために、A/Bテストを実行できていない方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、A/Bテストの概要・メリットとともに、A/Bテストのやり方やツールを紹介します。A/Bテストを行う際の注意事項も解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
A/Bテストとは

A/Bテストとは、特定の要素が異なる二つのパターンを用意し、それぞれのユーザー行動を比較してどちらが良い結果になるかを検証する手法です。バナー広告やコピー文、ウェブサイトなどを最適化するために実施され、マーケティング戦略を練る際の指標にもなります。
ECサイトでA/Bテストを行うメリット

- コンバージョン率(CVR)の向上:サイトを訪問したユーザーの購買に関する行動データに基づいて2つのパターンを比較するため、ボタンの色やサイズ、LPの構成、商品画像など、コンバージョンにつながるさまざまな要素を最適化できます。
- 離脱率・直帰率の改善:ユーザーの行動を分析するため、ECサイトで離脱している箇所と原因を特定できます。
- 顧客体験の向上:A/Bテストを繰り返してECサイトのUXデザインを最適化できれば、自然と顧客体験も向上します。
- リスクの最小化:ECサイトの改善案を一部のユーザーにだけ実施してその効果を検証するため、パターンの成果が芳しくなくても、改善案が原因で起こるコンバージョン率低下などの悪影響を最小限に抑えられます。
A/Bテストの実施方法

1. 目的を明確にする
A/Bテストを開始する前に、例えば以下のような形で何を改善したいのかを明確にしましょう。
- カート投入率を上げたい
- LPの申込率を改善したい
- 商品ページの離脱率を下げたい
- コンバージョン率を1.2%→1.5%に改善したい
2. 課題を見つける
次に、現時点で上手くいっていない原因は何かを洗い出しましょう。課題を見つけ出すための現状分析の方法は、以下のようなものがあります。
- アクセス解析ツール:CVR、流入経路、離脱率など、ユーザーのサイト内での行動を数値化し確認できるツール
- ヒートマップツール:マウスの動きやスクロール位置など、ウェブサイト上でのユーザーの動作を可視化するツール
3. 仮説を立てる
課題を明確にしたうえで、改善のための仮説を立てましょう。例えばヒートマップツールを通してユーザーの視線がバナーに向かないことが分かった場合、バナーの配置やデザインを見直すという仮説が考えられます。また直帰率が高いことが分かれば、広告とLPのミスマッチやファーストビュー・ページの読み込み速度の改善を仮説として立てられます。
4. 改善のためのクリエイティブを作成する
仮説が決まったら、次に改善のためのクリエイティブを作成します。A/Bテストの場合は、一般的に現状を「A案」、仮説に基づいて改善案を反映したものを「B案」とします。
クリエイティブの改善案を作成する際は、変更箇所を1つに絞りましょう。変更箇所を複数にしてしまうと、結果が向上した際にどの要素が要因となったかの判断がつきにくくなるためです。
5. A/Bテストによる影響範囲を想定する
改善のために立てた仮説通りに結果がついてくるとは限らないため、成果が落ちるケースなど、A/Bテストの影響をあらかじめ想定しておきましょう。テストに盛り込む内容は細かく精査し、想定外の影響まで試算しておくことが重要です。
例えば、購入ボタンの色を赤にしたらCVRが上がったが、その分誤発注も増えて問い合わせ対応が増加するのではないか、などの予想です。CVRの向上を目的に改善案を反映させることは、CVRだけでなく、離脱率、直帰率、平均注文額などその他の要素にも影響を与えます。A/Bテストを通してどの指標・どのユーザー・どの業務に影響を与えるかを事前に想定しておくことで、仮説の質向上が期待できます。
6. A/Bテストを実行する
影響範囲の想定が済んだら、実際にA/Bテストツールを用いてテストを行います。A/Bテストツールを選ぶ際は、実行できるテストの種類、分析機能、費用、サポートなどを比較して、自社ビジネスの規模に合ったものを選ぶようにしましょう。
なお、A/Bテストを実施する期間は1週間〜1か月が推奨されています。短すぎる期間のデータだけをみて判断すると、長期的な視点でのユーザー行動を見誤るリスクがあります。曜日や時間帯、季節、イベントなど、さまざまな要因で結果が変わるため外部要因も踏まえて実施しましょう。
7. 結果を分析し、評価する
A/Bテストの実施期間中は数値をモニタリングし、完了したら分析・評価を行いましょう。A/Bテストツールを用いる場合は、改善した数値やその結果の信頼度を確認します。一般的には信頼度が95%以上であれば有効な施策といえます。
A/Bテストツール3選
1. DLPO(ディーエルピーオー)
DLPO(ディーエルピーオー)は、国内で約850社が導入するLPO(ランディングページ最適化)ツールで、主な特徴は以下のとおりです。
- 直感的な操作が可能
- デザイン・コーディングの専門知識がなくても利用できる
- コンテンツブロック単位での差し替えが可能なため、細かいクリエイティブの比較が可能
- 流入元、ユーザー環境、ファーストパーティ、サードパーティデータなど、さまざまな属性でコンテンツを配信・分析できる
- 外部ツールとの連携が可能
2. AB Tasty(エービーテイスティー)
AB Tasty(エービーテイスティー)は、世界の約900もの企業が導入しているA/Bテストツールで、主な特徴は以下のとおりです。
- 直感的な操作が可能
- ノーコードでA/Bテストが作成可能
- ボタン色、テキスト、レイアウト変更などが容易
- トラフィックの分析も可能で、ECサイトの課題抽出にも役立つ
- 自在にセグメントを細分化できる
3. LOGLY Audience Analytics(ログリー オーディエンス アナリティクス)
LOGLY Audience Analytics(ログリー オーディエンス アナリティクス)は、国内導入サイト数が計4万件以上のDMP(データ管理)ツールで、主な特徴は以下のとおりです。
- 基本機能が無料
- ページ指定、クリエイティブ登録、成果指標や条件の設定まで、すべて簡単なクリック操作のみで行える
- 一位になれないパターンを自動で非表示にする「サバイバルモード」が搭載されている
- 一回のA/Bテストで変更できる箇所は一つまで
- コンテンツが存在しない箇所へ新規コンテンツを追加するテストや、コンテンツの配置を変更するテスト等はできない
Shopifyアプリストアでは、他にもA/Bテストに役立つテストツールがあるので、ぜひご利用ください。
A/Bテストと相乗効果が生まれる手法

A/Bテストに加えて、さまざまな方法でECサイトが最適かされているかチェックして、コンバージョン率を改善する手がかりをみつけましょう。
オンサイトアンケート
オンサイトアンケートとは、ウェブサイトを見ているときに表示されるポップアップ形式のアンケート調査のことです。例えば、「購入を迷われている理由は何ですか?」といった質問をすることができ、ユーザーの心理を理解することにつながります。
顧客インタビュー
顧客インタビューとは、顧客と電話・対面形式で話してコンバージョンの動機を把握する手法です。数値データに基づく綿密な顧客分析だけでなく、顧客インタビューで得た実際の声も活用することで、顧客の潜在的なニーズや課題を明確にし、より確度の高い仮説を導き出すことができます。
顧客アンケート
ユーザーの声を非対面形式で把握することができる顧客アンケートも有効です。アンケートに回答してもらえない事象を防ぐために、購入直後や利用直後にアンケートを表示したり、質問数や質問内容の最適化に努めたりすることが重要です。
アナリティクス分析
Google(グーグル)アナリティクスなどのアナリティクスツールを用いて、コンバージョン率や直帰率、ページ滞在時間などの指標を得ることも欠かせません。A/Bテストにおける課題の特定や、効果測定時に活かしましょう。
Shopifyのストア分析でも行動データを取得でき、ShopifyとGoogleアナリティクスを連携させるとより詳細なデータが得られます。
ユーザビリティテスト
ユーザビリティテストとは、販売前にターゲットオーディエンスに製品を利用してもらい、使いやすさを確認する手法です。サイトの機能やセキュリティ面、バグなどを製品利用を通して確認してもらうことで、ECサイトの品質や安全性を確保できます。
A/Bテストを実施する際の注意事項

テストの変数は1つに絞る
A/Bテストを実施する際に、比較する変数は1つに絞りましょう。複数の変数を同時に比較した場合、どの変更が効果をもたらしたのか特定できないことがあります。
例えば、ランディングページのA/Bテストで、見出しだけではなく、コールトゥアクション(CTA)テキスト、CTAボタンの色、ヘッダー画像も一緒にテストした場合、コンバージョン率が上がったとしても、どの変更がその結果をもたらしたのかわかりません。一度に1つの変数だけなら、変更点と影響の関連性が明確化されるので、正確な結果を得ることができます。
サンプル数とテストの期間を十分に確保する
A/Bテストの結果は、データ量や期間が不足していると偶然の影響を受けやすく、誤った結論につながるリスクが高まるため、十分なサンプル数とテスト期間の確保が欠かせません。ユーザー行動や曜日ごとで変化する傾向があるため、少なくとも1週間〜1か月以上の実施期間を確保してください。また、信頼性を確保するために、パターンごとで最低50コンバージョン、5,000〜1万セッションを集めるのが目安です。なお、必要なサンプル数はCASIOが提供するサンプルサイズ計算ツールなどで事前に算出し、設定した数に到達するまでは途中でテストを止めないことが重要です。
継続的な改善を行う
A/Bテストは、小さな改善を地道に行うことで最終的に大きな成果につながるため、継続的な改善をしていく必要があります。ユーザー行動や市場の環境は常に変化しているため、一時期で最適な手法を見つけても、近い将来で成果が出なくなることは少なくありません。継続的にA/Bテストを実施し、PDCAサイクルを回して改善に努めることで、はじめて長期的な成果につながります。
まとめ
ECサイトの成果を着実に伸ばしていくためには、A/Bテストを通して長期的に改善していくことが効果的です。A/Bテストツールなどを活用しながら継続的に効果測定ができる環境を構築し、コンバージョン率改善や顧客体験の向上などに努めましょう。
またA/Bテストを行う際は変数を1つに絞ったり、サンプル数とテストの期間を十分に確保したりすることなどが非常に重要で、テストの手順を誤ると課題解決のための適切なデータを収集できないリスクもあります。そのため、ぜひ本記事で紹介したA/Bテストの実施方法を参考にして、地道に検証を進めてみてください。
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よくある質問
A/Bテストとは?
A/Bテストとは、広告やウェブサイトなどを最適化するために実施するテストです。異なるパターンを用意してランダムにユーザーへ表示し、それぞれの成果を比較してより高い効果のあるパターンを見つけます。
A/Bテストがもたらすメリットは?
- コンバージョン率の向上
- 離脱率・直帰率の低下
- 顧客体験の向上
- リスクの最小化
A/Bテストがもたらすデメリットは?
- 一時的にコンバージョン率が下がることがある
- 正しい手順で行わないと改善案を見誤る
- 十分なサンプル数と時間の確保が必要
- 一度にテストできる要素が限られている
A/Bテストの実施方法は?
- 目的を明確にする
- 課題を見つける
- 仮説を立てる
- 改善のためのクリエイティブを作成する
- A/Bテストによる影響範囲を想定する
- A/Bテストを実行する
- 結果を分析する
A/Bテストで検証できる主な項目は?
- デザイン、レイアウト
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文:Ryutaro Yamauchi





