働き方や稼ぎ方が多様化した現代では、ビジネスのあり方もこれまで以上に自由になりました。従業員を抱える企業から一人で事業を営む個人事業主まで、さまざまな形でビジネスを運営できるようになった今、「ビジネスオーナー」とは具体的にどんな存在なのでしょうか。
この記事では、ビジネスオーナーの概要に加えて、その役割や責任、なり方を具体例とともに解説します。これから0円起業やビジネスオーナーになろうと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
ビジネスオーナーとは

ビジネスオーナーとは、事業の運営と資金面を統括し、利益を目的に商品やサービスを販売する個人のことです。事業形態は主に、個人で運営する「個人事業主」と、会社を立ち上げて運営する「法人」の2つがあります。ビジネスオーナーは、多岐にわたる戦略の策定やスタッフの育成、日々の業務運営といったさまざまな場面で、自らの責任で会社を管理します。
ビジネスオーナーの中には、事業内容に応じて次のような肩書きを持つ人もいます。
- 会長
- 社長
- CEO
- オーナー
- 創業者
- 経営者
- 常務取締役
株式会社東京商工リサーチの「全国新設法人動向調査(2024年)」によると、2024年に新しく設立された法人は153,938社と過去最多を更新しています。この背景には、ライフプランや働き方への意識が変化し、自由な働き方を求める人が増加していることが挙げられます。また、AIなどのデジタル技術の発展や政府の起業支援制度の充実なども、起業を後押ししていると考えられます。
ビジネスオーナーと起業家の違い

ビジネスオーナーと起業家(アントレプレナー)の違いは、経営の方向性にあります。
起業家は一般的に、ゼロからイチを生み出す人を指します。今までにない革新的なアイデアに挑戦し、独自のビジネスモデルや新たな市場を創造しようと試みる傾向があります。一方でビジネスオーナーの場合、自らの責任のもと事業を運営し、利益を上げることを目的としていることが多いです。既存の市場やビジネスモデルを活用し、持続的かつ効率的な事業運営に注力します。
両者ともに、事業の設立・運営には決断力や行動力が試されるほか、戦略的思考が必要になる点が共通しています。
事業形態の種類

ビジネスオーナーとしての事業形態には、個人事業主と法人の2種類があります。
個人事業主
個人事業主とは、個人で事業を行い、権利義務がすべて本人に帰属する事業形態のことです。設立や運営が比較的容易で、税金面でも負担が少ない傾向があります。屋号を使っていても、事業はあくまで個人として営まれるため、得た利益はすべて事業主本人のものとなります。ただし、損失もすべて本人の責任で負わなければならず、借入金の返済ができなくなった場合には私的財産を売却して返済にあてる必要が生じるケースもあります。
法人
法人とは、個人とは独立した法的存在を持つ組織体であり、原則として経営者個人が事業の負債に対して責任を負うことはありません。法人では、利益や損失、契約上の義務はすべて法人に帰属し、経営者は役員報酬という形で所得を得ます。
会社法上、法人の会社形態には株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4種類があります。2006年の会社法改正により合同会社制度が導入され、最低資本金制度も撤廃されたため、現在では資本金1円からでも設立が可能になりました。その結果、新たに設立される法人のほとんどは株式会社または合同会社となり、合資会社や合名会社の新設は少なくなっています。
事業形態を選ぶ際は、ビジネスモデルや収益、事業規模を考慮して総合的に判断しましょう。
ビジネスオーナーの役割と責任

ビジネスオーナーは、事業を成功させるために必要なあらゆることを行います。日々の業務内容は事業内容や時間の使い方によって異なりますが、基本的には次のような役割と責任があります。
計画と戦略
ビジネスオーナーは、自社の方向性を定める責任を担っています。事業計画の立案と運用、マーケティング施策の企画、競争力と収益性を維持するための戦略づくりなどが主な役割です。そのため、リサーチ力や計画力は欠かせないスキルといえるでしょう。また、業務ごとの締め切りを守るために、多くのビジネスオーナーはタイムマネジメントツールを活用しています。
財務と会計
ビジネスを存続・成長させるためには、適切な財務管理が不可欠です。ビジネスオーナーは、ビジネスローンやクラウドファンディングなどを通じて起業資金を調達し、商品開発やマーケティング施策、従業員の採用などに必要な経費をまかなう責任があります。また、事業用の銀行口座の管理や決済処理、税務、経理といった会計業務を行うことも役割のひとつです。
コンプライアンスと法務
ビジネスオーナーは、国が定める法令や地方公共団体が定める条例を遵守する責任を負っています。事業を法人化する場合は、運営に必要な法的要件をきちんと理解しておくことも欠かせません。
また、労働法の基礎知識を把握しておくことも重要です。加えて、契約書をはじめとした法的文書は、最終的にビジネスオーナー自身が作成・確認・署名することになります。従業員や顧客との間で問題が生じたときに備えて、弁護士に相談できる体制を整えておくとよいでしょう。
マーケティングと営業
どれほどユニークで優れた商品であっても、ビジネスとして収益を上げるためにはマーケティングと営業が不可欠です。事業の初期段階では、ビジネスオーナー自ら営業に参加し、商談をまとめる役割を担うケースも珍しくありません。
また、キャンペーンの企画や広告の承認、SNSマーケティングやメールマーケティングの運用など、マーケティング活動全般の実務を担当する存在にもなります。
カスタマーサービス
事業の初期段階では、ビジネスオーナーがカスタマーサポートを担当するケースも少なくありません。電話やメールの対応、ライブチャットでの応対、CRM(顧客関係管理)システムの運用などがカスタマーサービスの主な業務です。
こうした対応を通じて顧客満足度を高め、高評価なレビューの獲得やリピート購入につなげられるかどうかは、オーナーの手腕にかかっています。事業が成長すれば、カスタマーサービス専任のスタッフを雇用し、業務を引き継いでもらうことも可能になります。
採用と人事
ビジネスオーナーは、事業の運営チームを構築する責任も担っています。具体的な業務内容としては、新しい人材の採用や既存社員の育成、職務記述書の作成、業績評価の実施、給与や福利厚生、昇進に関する管理などが挙げられます。
ビジネスオーナーになる方法

ビジネスオーナーになるためには、まずは利益を生み出すビジネスチャンスを見つける必要があります。さまざまなアプローチを図り、どのような商品やサービスが市場で受け入れられるのかを見極めることが重要です。次の6つの方法を試し、自身の情熱や専門性を活かした、市場ニーズの高いビジネスアイデアを見つけましょう。
1. 市場調査を行う
利益を生み出すビジネスチャンスを見つけるために、参入を検討している市場を調査してみましょう。まず、競合分析を実施し、類似した商品やサービスを取り扱っている企業がどのような強みを持っているのか、どのように商品を販売しているのかを把握します。競合他社の対策に甘い部分がないかどうかを視点に調査すれば、差別化を図れるポイントが見えてくるでしょう。
また、企業や行政が発表するレポートを読み、業界の流れや需要の変化を押さえるのも効果的です。トレンドを踏まえて事業アイデアを見つけたい場合は、Googleトレンドを活用するのもよいでしょう。Instagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)などのSNSからも、関連キーワードを検索することで、消費者の興味や行動パターンを把握できます。
潜在顧客に直接意見を聞いてみるのも有効な手段です。イベントで質問したり、アンケートを取ったりすれば、日常の困りごとや望んでいることを理解できます。実際、その過程で新しいビジネスアイデアが生まれることも少なくありません。
市場調査の結果を商品づくりに活かした例として、パナソニック株式会社のシェーバー「ラムダッシュ パームイン」があります。開発チームはコロナ禍で生活様式が大きく変化した時期に、従来の高機能化だけでは十分ではないと考えました。そこで、消費者の実態を詳しく調べたところ、シェーバーの持ち手ではなくヘッド部分を持って使う人が一定数いることが判明しました。この気づきから、同社の強みである刃とモーターをヘッドに集約して持ち手をなくした、新しいデザインのシェーバーの開発を実現させました。
2. 顧客の悩みを解決する方法を見つける
ビジネスを立ち上げるうえで効果的な方法のひとつは、顧客の抱える課題(ペインポイント)を解決することです。ペインポイントを解消する商品は、高い収益につながる可能性があります。潜在顧客にアンケートやインタビューを実施して、どのような困りごとがあるのかを探ってみましょう。なお、ペインポイントとは必ずしも身体的な痛みだけを意味するわけではありません。ストレスや手間、満足度の低い顧客体験なども含まれます。
たとえば、子ども向けの写真撮影サービスを販売する「スタジオアリス」は、顧客の悩みを丁寧に分析し、それを解決する仕組みをつくることで成長してきました。従来の写真館に多かった「料金がわかりにくい」「準備が大変」といった悩みを解消するために、撮影料を明確にしたうえで衣装の貸し出しやヘアセットを無料で実施しています。また、子どもが楽しめる空間づくりや撮影を気軽に体験できるキャンペーンの開催にも注力しています。こうした工夫によって多くの家族に選ばれるようになり、業績を伸ばしています。
3. 顧客のこだわりに応える
顧客は、自分の情熱や趣味に関わるものに対して、より多くのお金を使う傾向があります。たとえばゴルファーであれば、スコアを少しでも縮めたいという思いから、高額な道具やガジェットを購入することがあります。
こうした顧客のこだわりに応えることは、ブランドへの深い愛着やロイヤルティを育てる効果があります。また、顧客が自発的にSNSで商品を紹介したり、レビュー動画などのUGC(ユーザー生成コンテンツ)でブランドを広めてくれたりするきっかけにもなります。
株式会社EGBA(イージービーエー)が展開するアパレルブランド「COHINA(コヒナ)」は、小柄な女性のこだわりに応えるために設計された洋服づくりで支持を集めています。身長が低い人でも理想のシルエットで着こなせるよう、丈や袖だけでなく、ボタンの位置やティアードの幅など細部まで独自にデザインしています。さらに、155cm以下のモデルを起用し、実際の着用感をリアルに伝える工夫も行っています。また、顧客層のニーズを正確に把握するために、インスタライブを積極的に活用している点も特徴のひとつです。
このように、顧客が抱える洋服のこだわりを深く理解したうえで、それに応えられる商品を販売することで事業を拡大させています。
4. 自分の興味・関心を突き詰める
自分の興味や関心に基づいて商品や市場を選ぶのは危険だと考えている人もいますが、むしろ大きな成功につながるケースもあります。
自身の興味や関心を軸にビジネスを構築する利点のひとつは、困難な状況に直面しても粘り強く続けられることです。モチベーションを維持できるという点は、オンラインビジネスを成功させるためには欠かせない要素となります。
超軽量のハイキングギアを販売している「山と道」は、創業者の「自分で山道具をつくりたい」という思いで始まった企業です。2011年の創業以来、自ら歩いて道具を使い込み、改良点を製品に反映してきました。直営店や研究拠点で検証を重ね、レインウェアやメリノなど、さまざまな素材や型を試作しています。イベントや記事で知見を共有し、仲間と学ぶ場を広げながら、好奇心を起点に新しい装備を生み出し続けています。
5. 満たされていないニーズを探す
まだ誰も気づいていない、または十分に対応されていないニーズを見つけることも、新たなビジネスチャンスを生み出す有効な方法です。まずは、商品レビューやクチコミサイトなどを活用して、既存の商品・サービスの不便さや不満点を探し出すことから始めてみましょう。たとえば、既存製品に新しい機能を加えることや競合が見落としている層に向けた商品を開発することもその一例です。
たとえば、株式会社アイリスオーヤマは、消費者の「こうだったらいいのに」という声に着目し、満たされていないニーズを見つけ出すことに力を入れています。社員一人ひとりが生活者の目線で不便や不満を探し、それをもとに新しい商品を発想しています。毎週行われる新商品の開発会議では、家電から日用品までさまざまな提案が行われ、年間1,000点以上の新製品が誕生しています。消費者の悩みを丁寧に拾い上げ、暮らしを少しでも良くするアイデアを次々と形にすることで売り上げを伸ばしています。
6. 経験と専門知識を活かす
これまでの経験や専門知識は、ビジネスを成功に導く大きな強みとなります。自分の得意分野を活かしてオンラインビジネスとして展開すれば、他社が容易に参入できない市場で独自のポジションを築くことができるでしょう。
株式会社カカクコムは、創業者の槙野光昭氏が培ったIT知識と市場経験を活かし、1997年に「価格.com」を立ち上げました。パソコン周辺機器メーカーや電器店で得た知見をもとに、消費者が求める「最安値を知りたい」というニーズと、電気量販店の「ライバル店の価格を知りたい」というニーズの双方に応える仕組みを構築しました。その後も、クチコミ掲示板や比較機能を進化させ、ユーザーの声をサービス改善に反映し続けています。現在は「食べログ」や「求人ボックス」など、専門知識を生かして複数のプラットフォームを展開しています。
まとめ
ビジネスオーナーは、安定した収益の確保と持続的なビジネスを実現するべく、事業の運営と資金面でさまざまな責任を担う存在です。戦略の策定から財務管理、法務対応、マーケティング、採用まで、あらゆる場面でリーダーシップを発揮し、事業を成功に導きます。
ビジネスオーナーになるためには、まずは市場調査や顧客調査を実施し、どこにビジネス機会があるのかを見いだす必要があります。自身の専門分野を活かした商品・サービスを提供し、顧客のペインポイントを解決することが、事業を軌道に乗せる鍵となるでしょう。
ネットショップビジネスの運営を検討しているなら、Shopify(ショッピファイ)が便利です。Shopifyを活用すれば、専門知識がなくても自社ネットショップを簡単に構築・運営できます。無料体験も実施していますので、ぜひお気軽に試してみてください。
ビジネスオーナーに関するよくある質問
ビジネスオーナーになるには?
- 市場調査を行う
- 顧客の悩みを解決する方法を見つける
- 顧客のこだわりに応える
- 自分の興味・関心を突き詰める
- 満たされていないニーズを探す
- 経験と専門知識を活かす
ビジネスオーナーにおすすめの事業モデルは?
- フランチャイズオーナー
- ECサイト運営
- 宅配サービス
- ハウスクリーニング
- 学習塾
- サロン
- 不動産投資
- コンサルタント
- クリエイター
ビジネスオーナーに必要なスキルは?
ビジネスオーナーに必要なスキルには、問題解決能力やリーダーシップ能力が挙げられます。市場や情勢の変化に合わせて、柔軟かつ戦略的に施策を考え、それを実行する力が求められます。また、顧客だけでなく、取引先や従業員と関わりを持つ機会も多いため、コミュニケーション力も大切です。
文:Yukihiro Kawata イラスト:フランチェスコ・チッコレッラ(Francesco Ciccolella)





