eコマースで継続的な利益を生み出すためには、新規顧客獲得が欠かせません。そして、コストを削減して利益を確保しながら顧客獲得を最適化するうえで、「顧客獲得単価(CAC)」が重要な指標として注目を集めています。
しかし、顧客獲得単価(CAC)を正確に理解しないと、顧客獲得コストが収益を上回って損失が発生したり、顧客獲得単価を意識するメリットを活かせなかったりする可能性があります。
この記事では、顧客獲得単価(CAC)の概要・メリットを解説します。関連する重要指標、顧客獲得単価を下げる方法も紹介してますので、ぜひ参考にしてみてください。
顧客獲得単価(CAC)とは

顧客獲得単価とは、一人の顧客を獲得するためにかかった総費用を指し、CAC(Customer Acquisition Cost)とも呼ばれます。総費用に含まれるものは、例えば以下のようなものがあります。
顧客獲得単価は、新規の有料顧客を獲得するためにかかった総コストを表す指標です。無料トライアルの登録者や、資料請求を行っただけのリード(見込み客)は含みません。
また顧客獲得単価は、さらに以下3つの指標に分類できます。
- Organic(オーガニック) CAC:広告以外で獲得した顧客にかかった費用
- Paid(ペイド) CAC:広告やキャンペーンで獲得した顧客にかかった費用
- Blended(ブランディド) CAC:Organic CACとPaid CACをあわせた総合的な顧客単価
CACとCPAの違い
CPA(Cost Per Action)は、日本語に訳すとCACと同様に「顧客獲得単価」と表されますが、CACとCPAでは対象とする費用や範囲に違いがあります。
- CAC:新規顧客の獲得にかかったすべての費用。対象は新規顧客のみ
- CPA:特定のマーケティング施策にかかった費用。対象は購入・申込・会員登録など様々なコンバージョン
顧客獲得単価の計算方法

顧客獲得単価は、以下の計算式で求めることができます。
CAC = 顧客獲得のためにかかった総費用 ÷ 新規顧客獲得数
例えば、1年間でかかった総費用が500万円、新規顧客獲得数が50名だった場合、CAC=500÷50=10万円となります。
また事業の状態を分析・検証するために、顧客獲得したチャネルごとのコストの内訳を明確にしたい場合、Organic CACとPaid CACを計算することも欠かせません。
- Organic CACの計算方法:広告以外で獲得した顧客に費やした費用 ÷ 広告以外で獲得した新規顧客獲得数
- Paid CACの計算方法:広告やキャンペーンで獲得した顧客に費やした費用 ÷広告やキャンペーンで獲得した新規顧客獲得数
- Blended CACの計算方法:上記の一般的なCACの計算方法と同じ
顧客獲得単価(CAC)を比較するメリット

費用対効果の高いチャネル・戦略を明確にできる
各チャネルの顧客獲得単価を比較することで、顧客獲得チャネルの中で、どこに注力すべきかを比較・判断できます。また、低コストで多くの顧客を獲得できている施策が明確になり、その強みをさらに伸ばす戦略を取ることができるでしょう。
顧客獲得価値を比較して得られる効果は、例えば以下のようなものがあります。
- 各チャネルのCACを比較:費用対効果の高いチャネルを特定し、最適な予算配分が可能
- セグメント別でCACを比較:地域・年齢などの指標で高い価値をもたらすセグメントを特定し、その層に向けて重点的に投資可能
- CACを継続的にモニタリング:市場変動に対応し、投資判断を常にアップデートできる
- 費用対効果を基に戦略立案:低CACチャネルを中心に、有効なマーケティング戦略を構築
LTVを踏まえて事業の健全性を判断できる
CACとLTV(顧客生涯価値)の関係性を考慮することで、事業の健全性を直接的に判断できます。LTVは顧客から得られる将来的な利益を表し、CACは顧客獲得にかかったコストを表します。この2つを具体的に以下のような形で比較し、事業の良し悪しを判断します。
- LTVがCACを上回る状態:事業が黒字で、持続可能であることを表す。差額が大きければ大きいほど、企業の利益は増大する。
- LTVがCACを下回る状態: 客を獲得すればするほど赤字になる状況で、ビジネスモデルの見直しが必要。
特にSaaSビジネスやサブスクリプションサービスなどのように、初期投資が大きく、時間をかけて利益を回収するビジネスモデルでは、2つの指標のバランスが非常に重要です。
顧客獲得単価に関連する重要指標

顧客獲得単価(CAC)はそれ自体で有用な指標ですが、他の重要な指標と組み合わせることで、ビジネスの健康状態についてさらに深い洞察を得ることができます。CACを他の指標と組み合わせて使用する方法は以下のとおりです。
顧客生涯価値(CLV)
顧客生涯価値(CLV)とCACの比率は、顧客獲得の長期的な収益性を理解するための重要な指標です。
- CLV ÷ CACが3〜5倍:健全で最適な状態
- CLV ÷ CACが高すぎる:まだ投資余地あり
- CLV ÷ CAC低すぎる:獲得効率・顧客価値の改善が必須
この比率を継続的にモニタリングすることで、広告投資やマーケティング・営業施策などのバランスを適切に保ちながら、事業の収益性と成長速度を最適化できます。
なお、どちらも「顧客生涯価値」で訳されるCLVとLTVは、以下のような形で分類されます。
- CLV:顧客やユーザーが企業の商品やサービスを利用している全期間にわたり、企業にもたらす利益の総額
- LTV:顧客やユーザーが企業にもたらす価値の総額を示す広い概念
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスとは、LTVをCACで割って算出される、一顧客当たりの収益性のことです。一般的に、ユニットエコノミクスが「3」を上回っていれば、事業は健全な状態と判断できます。
- 1未満:危険
- 1以上~3未満:要注意
- 3以上~5未満:健全
- 5以上:機会損失の可能性
一方で、顧客を獲得するために、より大きな投資が必要な事業をスタートさせる段階などでは、ユニットエコノミクスが1あるいは1未満になることも想定されます。時間をかけて初期投資額を回収し、ユニットエコノミクスを3に近づけていく計画を立てるといいでしょう。
ペイバック期間
ペイバック期間とは、一人の顧客を獲得するために投下したコストを回収するのに要する期間を指します。具体的には、以下の計算式を用います。
ペイバック期間(月あたり): CAC ÷ (ARPA × 粗利率)
※ARPA (Average Revenue Per Account) = 一顧客あたりの平均月次収益
SaaSビジネスの場合、ペイバック期間は12ヶ月以内が健全な水準の一つの目安とされています。ペイバック期間が短いほど、企業は新規顧客獲得のために投下した資金を早く回収し、次の新規顧客獲得のための投資に回すことができます。ユニットエコノミクスと並行して活用し、短期・長期の資金繰りや成長性を見極めることが重要です。
投資収益率(ROI)
投資収益率(ROI)とは、投資した費用に対してどれだけの利益を得られたかを表す指標です。CPAやCACだけでなく、ROIやROAS(広告費に対する収益の比率を示す指標)も併せて確認することで、見込み顧客獲得の施策に対する収益性を検証できます。
顧客獲得単価を下げる方法

1. ウェブサイトを改善する
ウェブサイトを改善してコンバージョン率(CVR)を上げられれば、顧客獲得単価を下げることができます。A/Bテストを実施してより良い顧客体験につながるクリエイティブやUXデザインを構築しつつ、以下のようなSEO対策を講じてウェブサイトを最適化しましょう。
- 独自ドメインの購入
- 画像にAltタグをつける
- 内部リンクの設置
- レスポンシブデザインのテーマを使用する
- 商品説明文やブログ記事などのコンテンツを増やす
- 画像サイズを圧縮して、ページの読み込み速度を改善する
- 被リンクを獲得する
2. 最も効果的なマーケティングチャネルを特定する
効果的なチャネルへ投資を集中し、効果の低い施策を減らせば、少ない費用で多くの顧客を獲得でき、結果的に顧客獲得単価を下げられます。コストに対して見込み顧客を獲得できていないチャネルや、明らかに費用対効果が低いチャネルがあれば、投資の中断も検討しましょう。
3. 営業支援ツールを活用する
CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)、MA(マーケティングオートメーション)ツールなどの営業支援ツールを導入するのも有効的です。今まで手作業で行っていた業務を自動化することで、人件費をはじめとする間接コストを削減し、入力誤りや抜け漏れといったミスを防ぐことができ、長期的に大きな効果をもたらすでしょう。
まとめ
顧客獲得単価(CAC)は、マーケティング施策による費用対効果や、事業の健全性を適切に判断する際に役立ちます。さらに顧客生涯価値(CLV・LTV)やペイバック期間・投資収益率等の指標とあわせて分析することで、より明確に事業の良し悪しを判断できます。
もし顧客獲得単価(CAC)を下げる必要がある場合は、ウェブサイトを改善してコンバージョン率向上を目指したり、営業支援ツールを導入したりするのが効果的でしょう。
よくある質問
顧客獲得コスト(CAC)とは?
顧客獲得単価(CAC)とは、一人の顧客を獲得するためにかかった総費用を指します。
顧客獲得コスト(CAC)で総費用に該当する例は?
- 広告出稿費
- ウェビナー/セミナー運営費
- マーケティング施策にかかる費用
- 営業活動費
- 人件費
- 販促・制作費
顧客獲得コストの計算方法は?
CAC = 顧客獲得のためにかかった総費用 ÷ 新規顧客獲得数
顧客獲得単価に関連する重要指標は?
- 顧客生涯価値(CLV)
- ユニットエコノミクス
- ペイバック期間
- 投資収益率(ROI)
ユニットエコノミクスとは?
LTVをCACで割って算出される、一顧客当たりの収益性のことです。一般的に、ユニットエコノミクスが「3」を上回っていれば、事業は健全な状態と判断できます。
期間中にマーケティング活動を支えた追加の販売コストなどの支出も含めてください。
顧客獲得単価を下げる方法は?
- ウェブサイトを改善する
- 最も効果的なマーケティングチャネルを特定する
- 営業支援ツールを活用する
顧客生涯価値(LTV)を向上させる方法は?
- アップセル・クロスセルによる顧客単価の引き上げ
- カスタマーサポート強化による解約率の低減
- 価格の見直し
文:Ryutaro Yamauchi





